絵本作家tuperatuperaさんの語る親が楽しむ「クリエイティブ」な子育て


(撮影:吉次史成)

人気作家ユニットtupera tupera(ツペラ ツペラ)さん。大人も子どももファンの多い絵本をはじめ、雑貨、アニメ、舞台芸術など幅広く活躍中です。私生活では、小学生と中学生のお子さんの育児中。「普段の暮らしで特別なことはしていないんです」と話すお二人ですが、そのお話には、子どもと一緒に絵本や季節の行事を楽しむヒントでいっぱいでした。

 

子どものために特別な事はしない

 

──絵本作家として活躍するお二人は中一の娘さん、小二の息子さんと暮らすお父さん、お母さんでもあります。

 

中川敦子さん(以下中川):仕事柄、家に自分の作品やほかの方の絵本はたくさんありますが、子どものために特に何かを特別なことをしているわけではないんです。

 

亀山達矢さん(以下亀山):絵本や工作のワークブックも出版しているので、「きっとお子さんのためにもいろいろ作ってあげているんですよね? 」と聞かれるのですがそういうわけでもなくて。僕たちの作った絵本を、わざわざ子どもに読んで聞かせるということはないんですよ。

 

中川:子どもたちは、いつの間にか、ちゃんと親の作った本の存在に気づいてますけどね。

 

亀山:他の人の描いた絵本はたくさん読むのですが、自分の本を子どもに見せるのはちょっと恥ずかしいんですよね。でも新しい絵本ができたら、子どもたちが「いい絵本だね」なんて褒めてくれます。書店に並んでいると、「本屋にあったよ。よかったね」って(笑)。他の絵本とは、一線を引いて評価してくれるので、子どもっ大人に気を使って偉いなって思って。

 

絵本は誰もが一緒に楽しめるコミュニケーションツール

 

──絵本はどんなふうに読むのがいいのでしょうか

 

亀山:たとえば、「うちの子はまだ文字が読めないから、この絵本は早い」なんて人もいるわけです。でも文字が読めなくても「絵を読んでいる」んですよね。小学校高学年にもなると児童文学のような字の多い本を読むようになるわけで、それは、いいことだと思うんですけれど、絵を読まなくなって、文字を読むようになる。それでストーリーを読む力は育っていくけれど、絵を読む力はだんだん少なくなっていくんですよ。でも絵を読む力も大切です。子どもにも大人にも響く絵本もたくさんあるので、大きくなっても絵本を読み続けてほしいと思います。

 

──お子さんたちとは絵本をどんなふうに楽しんでいますか?

 

中川:小二の息子とは、まだ添い寝をしているので寝る前に必ず一緒に本を読みますね。

 

亀山:絵本の良いところは、子どもと一緒に楽しんだり、共感したりできるところ。小説や漫画は複数で同時に読んで楽しむことがあまりないじゃないですか。僕がよく言ってるのは、絵本は他の本と違い一対一の関係だけじゃないということ。一人が100人に読む事もできるし、子どもがおじいちゃんに読むことも、その逆におじいさんが子どもに読んでやることも、おじさんが老人ホームで読む事もできる。あらゆるところで共有できるものとして、機能性が高い。これって絵本ならではの特徴だと思うんですよね。コミュニケーションツールとして凄く魅力がある媒体だと思うので、もっと絵本の面白さをわかる大人が増えるといいなぁと思っていて。

 

中川:絵本作家があんまり絵本推しをすると、絵本びいきみたいになっちゃいますけど、まずは、アートへの世界に入る第一歩としては、親しみやすい存在ですよね。

 

親が「手作りが苦手」でも大丈夫

 

──季節の行事でご家庭でやっていることはありますか?

 

亀山:誕生日とかクリスマスも頑張らないタイプです。子どものために特別に何かを作ろうとは思っていなくて、あくまでも自分で作るのが楽しいからやっている。中一の娘と小二の息子がいるんですが、唯一、きちんと作ってあげたのは、雛人形と五月人形。これだけは、子どもが生まれた時に気合を入れて作りました。節分も毎年、本気でやっています。「本気鬼」と検索すると出てくると思うのですが、怖いですよ。本気でおしっこちびるくらい怖がらせたり。

 

中川:節分は、子どもの小さいころからずっとやってますね。

 

亀山:スーパーで売っているかわいい鬼のお面と豆のセットで終わりというのはぬるいです。子どもも成長するにしたがって、こっちがボコボコにされるようになってきましたけどまだまだ本気でやりますよ。

──雛人形などを手作りにしようと決めたきっかけはあるのですか?

 

亀山:娘が産まれた時に、双方の親がお金を出し合って買ってあげるということになったんです。でも大きな段飾りは場所も取る。最近は小さいサイズの人形も増えているけれどなかなかピンとくるものがない。そこで「作ってもらえばいいんだ」と思ったんです。僕の父親は木工が好きで母親はぬいぐるみ作りが趣味。「作ってよ」って言ったら、ノリノリで作ってくれたんですよね。中川の両親は、書道や陶芸が好きで教室にも行っているというので、だったら、みんなで作ればいいということになったんです。親から「お前は、作らないのか?」と言われたので僕も本気を出して作りましたよ。

 

──ご家族みなさんで作った作品だったんですね。

 

亀山:その後、息子が産まれた時には、「今度は何作ろうか」という話になって。兜班とか、五月人形班とかこいのぼり班とか、チーム分けしました。もちろん気に入った人形を買ってもいいのですが、一つのアイデアとして家族が作るのもいいですよ。「私は絵も工作も苦手」という人もいるかもしれないけれど、きっと身内に誰かいると思うんですよ。陶芸教室に通っているとか刺繍が趣味とかものづくりが好きな人が。子どもが産まれたら、得意分野を持ち寄って手作りする。そうしたら、普段はなかなか会えなかったり、少し距離が離れていたとしても関係性が生まれるし、もらったほうも一生大事にすると思うんですよね。

 

家で過ごす時間が増えて変わったこと

 

──小学校が休校になったり、家から出づらい期間も長かったので「夫婦でイライラする」なんて人も多かったようです。お二人は以前から一緒に仕事をするスタイルですが……。

 

亀山:僕らは、ずっとこうやって二人で仕事をしているから、仲良くなるとか悪くなるということってあまりないんです。17年間ずっと仕事も生活も一緒にやってるので、コロナでも関係性は全く何にも変わらないです。

 

中川:本当に変わらないよね(笑)。家族の過ごし方は少し変わりましたね。今までは、自分たちの仕事の一環として、休日も親子で友達の展覧会見に行ったり、音楽をやってる友達のライブに行ったりしていたけれど、家族で過ごす時間が増えたことで、スポーツをしたり、ウクレレを始めたりとか、純粋に子どもに向きあえる時間が増えたことはよかったですね。

 

亀山:それから、子ども同士がすごく仲良くなったんですよね。四歳差のきょうだいでよく喧嘩してたんですけど、遊び相手がいないから、運命共同体みたいな感じで、一緒にいる時間が長くなったから家の中で仲良くしていないと損というか、ある種自己防衛でもあると思うんですけど。

 

中川:最近仲良いね、と言ってたら、「今だけだからね」なんて言われました。学校が始まったら、元に戻ってきちゃったけど。下の息子も小学生になっていろいろなことができるようになりました。しまっておいた将棋を出してきて、亀山に教えてもらいながら家族でやったら、レベル的には、まだまだなんですが、みんなで将棋が指せるようになったり。ゲームやスポーツもそうですけど、まだ小さいとおみそ扱いだったのが、最近はたくさんのことが一緒にできるようになったりして、そういうところで成長を感じますね。

 

生活そのものが「クリエイティブな体験」なのだと思う

 

──「親は、クリエイティブじゃなくてもいい」なんて話もされていました。どういう意味でしょうか?

 

亀山:クリエイティブっていうとアートに詳しいとか、絵を描くのがうまいといったことを想像してしまいがちですが、例えば出産だってすごくクリエイティブな体験だと思う。何事においても、創造力を持つことと遊び心や美意識が重要だと思うんですよね。ものすごく数学好きな奴に話を聞くと「数式が美しく見えるんだ」なんて言う。彼に言わせると数式って美意識なんですよね。僕は、数学が一番嫌いな科目だったので、全然わかんないですけどね。「クリエイティブじゃなくていい」というよりも、クリエイティブということは美意識とか想像する力全般を言うと思うので、絵心があるとか創作系の仕事をしている人だけがクリエイティブなわけではないということです。

 

中川:アート作品だけが心を豊かにするわけではないと思うんです。音楽やスポーツでも子どもがなんでも自発的に手を伸ばせるわけではないので、親が知るきっかけを幅広く与えてあげることは大事だと思います。その中で好きなことや得意なことを見つけてほしい。

 

亀山:僕は、公立の学校でもデザインの授業を取り入れたほうがいいと思うんですよね。小学生から。身の回りの人工物は、すべてデザインによって成り立っていると思う。授業で使う教科書や文具にもデザインが必須なのに、普段はそこに意識が向かうことがない。デザインという概念をみんなで共有する事によって、ものの見方が全然違ってくるはず。なんて、今の小学校の教育については言いたいことが山ほどありますが、語りだすと止まらなくなるので(笑)。ただ、もう一つ言うと、教科書で学ぶだけではなく、いろんな人間を見せる授業をした方がいい。魚屋のおじさんに来てもらうとか、いろいろな仕事をしている大人をゲストに呼んで、バリエーションある大人の面白さを伝える授業をすればいいのに。数学が得意科目だから理系に進学するとかじゃなくて、自分の身の回りにあふれているもので学びながら好きなものを見つけるのがいいと思うんですよね。

撮影/RYUMON KAGIOKA

tupera tupera(ツペラ ツペラ)

 

亀山達矢と中川敦子によるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、アートディレクションなど、さまざまな分野で幅広く活動している。絵本『かおノート』『やさいさん』『いろいろバス』『うんこしりとり』など、著書多数。海外でも多くの国で翻訳出版されている。NHK Eテレの工作番組『ノージーのひらめき工房』のアートディレクションも担当。絵本『しろくまのパンツ』(ブロンズ新社)で第18回日本絵本賞読者賞、Prix Du Livre Jeunesse Marseille 2014 (マルセイユ 子どもの本大賞 2014 )グランプリ、『パンダ銭湯』(絵本館)で第3回街の本屋が選んだ絵本大賞グランプリ、『わくせいキャベジ動物図鑑』(アリス館)で第23回日本絵本賞大賞を受賞。2019年に第1回やなせたかし文化賞大賞を受賞。京都造形芸術大学 こども芸術学科 客員教授。(撮影/RYUMON KAGIOKA)

美術館×遊び場の融合。大人子どもも楽しめる「PLAY!」って?

2020年6月、東京・立川駅北口にオープンした新街区「GREEN SPRINGS」に、美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設「PLAY!」が誕生。絵とことばがテーマの美術館PLAY! MUSEUM(プレイミュージアム)と子どものための屋内広場PLAY! PARK(プレイパーク)のほか、ショップやカフェも充実。親子で一日たっぷり楽しめます。

 

企画展「tupera tuperaのかおてん.」

会期:2020年6月10日(水)-12月29日(火)

クリエイティブ・ユニットtupera tupera(ツペラ ツペラ)による「顔」をテーマにした展覧会。『かおノート』など人気絵本の原画をはじめ、平面・映像・立体とさまざまな表現の新作をたくさん展示します。

 

PLAY! MUSEUM 公式サイト