「知らなかった、知らされなかった、知ろうとしなかった私たち」ができること、すべきことを考える戦後75年目の夏
「私たちのCHALLENGE STORY」を担当しているライターの上原亜希子です。毎年9月号のチャレンジSTORYでは戦争にまつわるお話を取材させていただいています。戦後75年目のタイトルは「最大の敵は無知・無関心です。平和は私たちの『知りたい気持ち』がつくる!」。私は、京都大学人文科学研究所准教授であり、「自由と平和のための京大有志の会」の発起人のひとりでもある石井美保さんに取材させていただきました。
同会は2015年、「安保法制」、言論への威圧発言、大学への君が代や日の丸強制等の現政権による平和の破壊、学問の愚弄、憲法の蹂躙を止めさせ、新しい時代の平和を創造するために結成されました。ここでは、同会の設立と同時に発表された声明書をご紹介したいと思います。
【自由と平和のための京大有志の会 声明書】
戦争は、防衛を名目に始まる。
戦争は、兵器産業に富をもたらす。
戦争は、すぐに制御が効かなくなる。
戦争は、始めるよりも終えるほうが難しい。
戦争は、兵士だけでなく、
老人や子どもに災いをもたらす。
戦争は、人々の四肢だけでなく、
心の中にも深い傷を負わせる。
精神は、操作の対象物ではない。
生命は、誰かの持ち駒ではない。
海は、基地に押しつぶされてはならない。
空は、戦闘機の爆音に消されてはならない。
血を流すことを貢献と考える普通の国よりは、
知を生み出すことを誇る特殊な国に生きたい。
学問は、戦争の武器ではない。
学問は、商売の道具ではない。
学問は、権力の下僕ではない。
生きる場所と考える自由を守り、創るために、
私たちはまず、思い上がった権力に
くさびを打ち込まなくてはならない。
自由と平和のための京大有志の会
発表された声明書は、全国各地の集会で読み上げられたり、新聞や雑誌で取り上げられ、2か月で12歳の小学生から94歳の元海軍兵まで、2,200人を超える賛同の声が、有志の会に届けられたそう。フェイスブックのシェアも2万8,000を超え、その速度はまさに時代の危機の深刻さを反映していました。
この声明書、発表当時は日本語、英語以外の2、3か国語に翻訳され、サイトに掲載されていました。サイトを通し、多くの人の目に留まる中で、「母国語に訳してみました」や「私はスワヒリ語が出来るので、訳してみました」と、自然発生的に多言語に翻訳されていったのです。なんと「子供語に訳してみました」という人まで! 最終的には26か国語までに訳された声明書を一冊の本として出版し、子供語に訳された声明書は絵本として出版されたのです。
「京大有志の会の発起人のおひとりでもある人文科学研究所所員の藤原辰史さんが書かれた“声明書“はとても力強いですよね。そのパワーを感じて、読む人は思わず自国の言葉に訳したくなってしまうのでしょうか。シンプルな言葉で語られているので訳しやすいということもあったのかもしれません。自分の言葉で綴られた声明書を読み、その国の人が自国の現状を重ね合わせて考えて感想を送ってくださったりして、インターナショナルな結びつきも生まれたんです」と石井さんは言います。
戦後75年の今年、京大有志の会の声明書に触れ、「知らなかった、知らされなかった、知ろうとしなかった私たち」が、子どもたちの未来のために何ができるか、すべきかを考えるきっかけになればいいなと思います。