対談「伊藤万理華×根本宗子」“不安定な声”が舞台にマッチングした理由?
アイドル時代から、独特の感性と表現に対する熱意を示し続けていた伊藤万理華。乃木坂46卒業から2年が経とうとするいま、「私がやりたかったものだ!」と思える舞台への出演が叶いました。そんな月刊「根本宗子」『 今、出来る、精一杯。』の公演を控え、演出・根本宗子との初対談が実現!
20代前半の危うい感じを表現するときに、万理華ちゃんの声が良くて。
――取材が多い時期だと思いますが、お二人での対談はこれまでもありましたか?
伊藤:そう言えば……ないですね。
――なんと。では貴重な機会となりますね。それでは、根本さんから見た伊藤さんの最初の印象はどんな感じでしたか?
根本:以前に『墓場、女子高生』(劇団「ベット&メイキングス」福原充則氏脚本・演出の戯曲)という舞台に役者として出たことがあって、同じ作品を乃木坂46さんがやられるということで観に行ったとき、万理華ちゃんが主演をやっていてそれがすごく素晴らしくて。「あ、こういうことができる若い女の子、しかもアイドルをやっている可愛い子がいるんだな」って思ってそこから追いかけるようになりました。
いつかご一緒したいなって思ってタイミングを探っていて、今回この作品をやるってなったときに「“篠崎”は絶対万理華ちゃんにお願いしたいな」って思ったんです。(万理華ちゃんは)何を考えてお芝居しているかがわからなかったんですよ。それがものすごくよかったし、知りたいと思って興味が出ました。
『墓場、女子高生』では日野っていう何を考えているのかあんまり台本に描かれていない役をやってて。本人がどう思ってやっているかが大事だと思うんですが、万理華ちゃんご本人の中では筋が通ってる感じがあって、そこがいいな、どんな人なんだろうって気になっていました。それで下北沢のカフェで会ったのが最初(笑)。
伊藤:そう、下北のカフェ(笑)。
根本:台本を読んでいただいて、「そもそも興味をもってもらえてますか?」っていう話からはじめて。で、「台本が好き」っておしゃってくださって。私の舞台も観てくださっていたのも知らなかったから嬉しくて!
伊藤:あ、知らなかったんですね。
根本:あ、そうそう(笑)。
伊藤:根本さんの作品はいくつか観ましたよ。
根本:私万理華ちゃん好きなんだったら来てるの気づけよって話ですよね(笑)。
伊藤:てっきり知ってるもんだと思ってました!
根本:知らなかったです。「観に行ってた」って言ってくださったんで、それならぜひ、なおさらぜひ、お願いしたいなって。今回の作品の台本は私が今の万理華ちゃんと同じ23歳のときに書いたもので、当時の私と同じ歳の万理華ちゃんが何を思って読んだのかもすごい気になって根ほり葉ほり聞きました。「篠崎役には共感する部分が多かった」って言ってくれたので、「あ、じゃあすごくうまくいきそうだな」って。役を愛してくれる役者さんにお願いしたいなって思ってたので。それに、万理華ちゃんはお芝居の作り方もすごく面白い。
伊藤:えっ、どういう作り方なんですか?(笑)。
根本:あはは(笑)。声がすごく好きなんです。“不安定な声”が。劇場が大きいと、客席から役者の表情まで見えなかったりするじゃないですか。声のニュアンスでしか伝わらないから、声がすごい大事で。20代前半の危うい感じを表現するときに、万理華ちゃんの声が良くて。万理華ちゃんの声でセリフを言うことで空気が変わることが多いから、不安定なのが強みなのかなって。一生懸命さが素晴らしく表現できる声ですよ。
伊藤:まさか“不安定な声”が活きると思わなかったです。
根本:舞台だとバーンと力強くセリフを言えた方がいいみたいなの、ありますもんね。
伊藤:私の中では、舞台に向いている人ってそういうイメージ。声が張れて、遠くまで届くみたいな。だから、今まで乃木坂46でやってた舞台でも苦戦してました。「声を張って」っていうのをずっと言われ続けていたから、私は舞台というものに向いていないんだって思い込んでいて。そんな中だったから、根本さんの作品を観たときに変な言い方かもしれないけど「自分でもできる」っていうか、根本さんの作るものは「自分に合うんじゃないか」って思いました。なんで私はもっと早く気が付かなかったんだろうって。
根本:バーンとセリフを言える人は多いですけど、そういうお芝居ばっかりしているとやっぱり細かいニュアンスみたいのがなくなっていっちゃったりもするので。日常的なシーンになると無理してしゃべってない?感がある時もあるし。
――実際に稽古が始まって、いかがですか?
根本:万理華ちゃんはこのセリフが言いづらいんだなっていうのとか、腑に落ちていないときと腑に落ちているときの状態が分かりやすい(笑)。顔にも出るし、きっと声にも出てるのかなって。今ので大丈夫だったかな? みたいな顔しながらやってる(笑)。
伊藤:あはは(笑)。
根本:そういうときは「やりづらいですか?」みたいなのを聞いて修正するようにしています。基本的に、演技の途中で止めるスキがないというか、「今止めるのが申し訳ないな」っていう状態がずっと続くのが私の中で良い芝居だと思っているので。
伊藤:確かにそうですね。根本さんは気になったらちゃんと止めてくださいます。
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舞台『月刊「根本宗子」 今、出来る、精一杯。』
作/演出:根本宗子
音楽:清 竜人
出演:清 竜人・坂井真紀・伊藤万理華・根本宗子ほか
公演日程:2019年12月13日(金)〜19日(木)
公演場所:新国立劇場 中劇場
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伊藤万理華(いとう・まりか)
1996年生まれ。2011年に乃木坂46に1期生メンバーとして加入。2017年にグループを卒業後、2017年12月ソロ活動を開始。女優業のほか、ファッション・アート・映像などを融合させた個展を開催するなど多方面で活躍中。
根本宗子(ねもと・しゅうこ)
1989年生まれ。19歳で劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げ。劇作家であり、演出、俳優とマルチな才能を持ち、外部作品にも多数出演。劇団の本公演以外に、ラジオパーソナリティ、ドラマの脚本など、演劇以外の分野でも精力的に活動中。
Photo_Erika Iida