【中学受験相談】テストでケアレスミスが多い子どもに親の「もったいない!」発言はどう響く?
【今月の質問】
私があれこれ言って子どもを
潰してしまうんじゃないか心配です
[受験進路相談室]
Wさんの場合
【家族構成】
夫、長女(小4)、次女(小2)
【今回相談する子どもの状況】
長女が3年生の2月より日能研に通塾中。ほか、バレエ、スイミングなどの習いごとも。基本的な学力については1年前と比べてついてきた感触はあるが、ケアレスミスや問題文の早合点などが多くテストでの点数が思うように伸びない。先日もテストの振り返りをしたところ、少なく見積もっても4教科で70点ほどのケアレスミスが発覚、私がものすごく悔しく熱くなって「もったいないもったいない」と連呼してしまい娘は黙るのみ…という状況になってしまいました。
私自身が中学受験を経験しているわけではないので、アドバイスできることは高校受験から学んだ経験であり、その年齢から4〜5歳幼い小学生の子に同じことを求めるのは酷なのかな?とも思えます。とはいえ、このまま親があれこれ管理している状態ではたとえ志望校に合格しても成功だったのかな?と思ってしまいそうなのでこの受験勉強の経験を通して自律的に考えて行動できる力を養ってほしいのですが厳しすぎるでしょうか?
私ごちゃごちゃ言わなかったとか、
一瞬ギクッて思ったけどちゃんと抑えられたとか、
「できちゃった体験」に注目してください
W(相談者):新4年生から日能研に通っています。ちょっとやってみようという軽い気持ちで始めました。中学受験ってどんなものなのか、ちょっと踏み入れてみたくなったっていう親のエゴがスタートなんです。でもやるからにはちゃんとやらせたいなと思ってかなりサポートしながらやってきて。夏休み明けから点数こそ変わっていないものの、中身が変わったなっていうか、秋以降、徐々に力はついてきているなっていうのはあるんですけど、ケアレスミスだったり、問題がちゃんと読めてないだけだったり、すごくもったいないのが目立ちます。この週末のことなんですけど、そういうのをぜんぶカウントしていったら4教科で70点くらいあって、歯痒くて。
オ(おおたさん):塾に通い始めて約1年。夏休み明けから中身が変わったと。まずそこに気づけるのがすごいですよ。ケアレスミスが70点あるというのは純粋に言えばそこは伸び代で、今の時点で頑張ってるね、できてるよって、本当はあと70点分取れるんだからっていう形で使えれば、お子さんも前向きにもったいないって思えるのかなって。その惜しい部分はどういうふうにお嬢さん自身は認識しているんですか?
W:私もそうやって伝えているんですけど、そうすると満足しちゃうんですよね。「私、できてるんじゃん」って。でも、記述式ならプロセスも評価してくれるけど、そうでない場合、わかってるバツとわかってないバツって同じに捉えられちゃうから。そこが私は悔しいと思うけど、彼女は思わないっていう。
オ:なるほど、そこは僕も答えやすいなって思ってるんですけど、中学受験の目的っていうのは、今から2年後の本番で力を発揮することじゃないですか。だから、わかっているものを確実に点数に変える力が2年後についていればいいわけです。その子の性格によってケアレスミスが多い子と、それを潰すのが上手な子はいますけど、今の時点ではそんなに気にしなくていいんじゃないの?って。今、力があるんじゃんって思えるお嬢さんの性格は素晴らしいなと思いますし、それを生かして、そうだよって調子に乗せてあげることが重要かなって。逆に小さい時にあなたはケアレスミスばかりするから70点低いのよって言うと、自分はそういう人間なんだって呪いにかけられちゃうから。4年生でハイパフォーマンスを求めようとしたらいかようにもやり方ってあるんですよ。試験範囲も狭いし。でも、それをやってるとカリスマ家庭教師の安浪京子さんがよく言う「フェイク学力」になってしまう。最初は良くてもじり貧になっていく。少しの勉強でも点数に表れる子とそうでもない子がいると思うんですけど、その子なりに頑張る経験、必ずしも結果が思い通りじゃなかったとしても前向きに捉えていく内面の経験を積んでいくことが、中学受験をすることの意味だと思うので、結果に表れてなかったら無駄って思わない方が中学受験という経験を豊かなものにできるんじゃないかなって。
W:自立とか、しなやかさみたいなものとか、打たれ強さとか、そういう力がつけばいいのかなって思いはあるんだけども、見えてこない結果にもモヤモヤしてしまいます。
オ:自立性や打たれ強さ、最近の言葉で言えばレジリエンスというものを身につける中学受験っていうのは、僕の価値観とも一致するんですけど、一方で結果を求めてしまうっていうのは、まぁそりゃあ子どもが頑張ってたらその分の結果が出てほしいなっていうのは親の性だと思うので。
W:結果を成功体験やバネにしてほしいなって。
オ:結果を出すことによってやればできるっていう好循環を生むのはいいことだと思うし、結果を求めること自体は親の性だし。たとえば親子で釣りに行ってせっかく魚がかかっても逃しちゃったら「何やってるの!」ってなることありますよね。そういう親の性とどういうふうに付き合っていくか。つい本人以上に私の方が悔しくなっちゃうんだよなっていうのは、中学受験という機会に親として存分に味わってほしくて。それは親であることの醍醐味なわけだから。でも、それをそのまま子どもにぶつけてもいいことない。わが子のまだ足りない部分には親として気づいておかなければいけないんですけど、そこにあまり注目しすぎないこと。親が注目しているところを子どもは自己像として強化していってしまうので、ネガティブなところは見て見ぬフリをしていくのが原則なんだろうなって。
W:そこがどうしても態度に出ちゃうんですよね。ポジティブ変換とかすればいいんでしょうかね。
オ:いろんなやり方があるんだろうな。ポジティブ変換みたいなやり方もあるだろうし、「そこでネガティブに反応してしまう自分って何なんだろう。なんでこんなに悔しい思いをしてしまうのか。その価値観はどこで培われたものなのか」をお母さん自身が探求していくという方法もあると思う。最初から人間的に完成している親なんていないので、皆さんが似たようなプロセスを踏むんですよ。最初は「自分の受験なのになんでうちの子はこんなにやる気ないの?」って思うの。それを言いたくなっちゃう気持ちをどう処理するかっていうのは、お母さんに突きつけられた課題。お子さんが算数の難しい問題と向き合っている時に、お母さんは自分が持っている信念と向き合って、その正体を探るという課題に挑む。だいぶ抽象的なことを言っていますけどね。
W:概念的にはわかるけど、行動として自分を抑えられるかなって思いますね(笑)。
オ:そこも少しずつできるようになればいいと思いますけどね。今回、私ごちゃごちゃ言わなかったとか、一瞬ギクッて思ったけどちゃんと抑えられたとか、「できちゃった体験」に注目してください。これは心理カウンセリングなんかでもよく使う手法で、専門用語では「例外場面」って言います。その例外場面が起きた時にいつもと何が違ったのかを探ってもらいます。いつもなら顔を歪めてしまうところで「次頑張ろうよ」って言えた時は自分がどういう状態だったのかってスクリーニングする。そうやって例外場面を増やしていくんです。
中学受験ってこれだけ多様な進路があって、
自分の未来は自分で選べるんだよって
提示してあげるための機会だと思う
W:今そうやって言っていただけて、やっぱり夏休みの前半と後半で何となく私の態度は変わったかなって思いますね。それは子どもの成長を見て取れてるから、多少褒めてあげられる余裕があったなって思いますね。
オ:それは素晴らしいじゃないですか。
W:子どももうるさい親だってわかってるから、うまくすり抜けてくれてるのかもしれないです。子どもの方が大人だなって(笑)。
オ:お子さんからは、どういう親だと思われていますか?
W:うるさい母親だと思われているとは思うんですけど、そこへの対応の仕方みたいなのも彼女は体得しています。そこでやっぱり“いい子”になっちゃうから、あまり自分の意見を言わないんですよ。だから申し訳ないなって。
オ:申し訳ないなっていう気持ちもあって、それでも自分が畳み掛けるように言ってしまうのもあって?
W:たまにわがままを言ってみても、お母さんにピシャリと言われちゃう、みたいな。客観的に見て「ごめんね」って思うけど、そういう関係性ができちゃってて。中学受験で本当に苦しくなった時に自分の気持ちが言えなかったらまずいなって心配です。
オ:今お話を聞いていると、お母さん自身の「こんな自分なんですけど、どうしたらいいでしょう?」っていう相談に聞こえてくるんですけど、合ってます?
W:そうなってきちゃいましたね(笑)。
オ:変わらなきゃいけないのは自分なんですって捉えてますよね。
W:使いたくない言葉ですけど、娘にマウンティングしちゃってるんでしょうね。自分の嫌な面ばかりに気づかされます。
オ:それはお子さんに対して期待が高いんでしょうね。
W:高すぎちゃうんでしょうね。
オ:それは親ですから当然です。その期待は期待として、一方で現実は現実っていうところの境目を、乗り越えがちになってしまうっていうことなのかしらね。
W:抜けてるところも全然あって子どもにバカにされることもあるんですけど、ちゃんとする部分はちゃんとしたいので、厳しい部分もあって……。だから関係としては、悪くはないと思うんですけど。
オ:うんうん、それは伝わってきます。抜けてるところがあるお母さんなら大丈夫ですよ。「いま、これを伝えたところで効果があるか。ポジティブな作用をもたらすか」を一つ一つ吟味して言葉を選ぶ練習をしてみてください。あとは、子どもがうまく距離をとってくれたなって気づけたら、深追いしないこと。そんなふうにできれば上出来なんじゃないかな。
W:そこですよね、逃げたら追いかけてるなって。
オ:咄嗟のことってなかなか抑えられるものじゃないけど、深追いしないっていうのはできると思うから。あと、もう一つ、差し出がましいことを言うのなら、1年後くらいには志望校を具体的に考えはじめると思うんですけど、そこでこれ以下だったら意味ないじゃないみたいな損得勘定にとらわれないようにしてください。中学受験ってこれだけ多様な進路があって、自分の未来は自分で選べるんだよって提示してあげるための機会だと思うけど、ここしか行っちゃいけないって視野を狭めるようなメッセージになってしまうのは僕の中学受験観からするともったいないので。
W:そこは肝に銘じたいです。損得勘定っていう言葉にすごくドキッとしました。
オ:受験なんて構造的には相対的な競争の最たるものなんだけど、そういうイベントだからこそ、そのなかであってもどれだけ絶対的な価値観を親が伝えてあげられるかっていうところに面白みがあるはずなので。テストの点には表れなくても親だからこそ気づける成長ってあると思うんですよ。そこの目はお母さんはすごく優れていると思うので、ぜひそれを生かしてもらえれば、相対的なものにとらわれない中学受験ができるはずです。
もともとご自身に対して厳しいお母さんなんですよね、きっと。その厳しさを娘さんに投影してしまっている面はあるし、一方で結構抜けてて、自分で言うほど実際は厳しくないのに、自分は毒親になっちゃうんじゃないかって、心配しています。こういうお母さんは、中学受験でものすごく成長して、最後にどんな結果であっても、「中学受験して良かった!何より自分が変われた!」って最後に笑顔になってくれたりするんですよね。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子
VERY NaVY5月号『おおたとしまささんの「悩めるママのための、受験進路相談室」』より。詳しくは2022年4/7発売VERY NaVY5月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。
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