日本初の民事裁判「福岡セクハラ訴訟」。未来の女性たちのため、日本で最初にNO!を提起した晴野まゆみさん
「私たちのCHALLENGE STORY」を担当しているライターの上原亜希子です。今月号のテーマは「今、ハラスメントにNO!と言うことが未来を拓く」です。
今回、私が取材させていただいた方は、1989年、性的嫌がらせを理由とした日本初の民事裁判を提起した原告、晴野まゆみさんです。
正に今回のタイトルの通り、未来の女性たちのため日本で最初にNO!という声を上げた女性です。
取材前、晴野さんの著書『さらば、原告A子』と、裁判記録をまとめた本の2冊を読ませていただきました。著書に書かれた上司から投げかけられた心ない言葉の数々を読んだときには、こんなことを言う人がいるの?という驚きと、猛烈な怒りがこみ上げてきました。その後、意を決して会社の支社長と専務に自身が上司から受けている性的嫌がらせの事実を打ち明けた晴野さんでしたが、彼らの口からは思いもしない言葉が返ってきたのです。以下は晴野さんの書籍より。
「君も大変だな。だが、まあここは笑ってすませなさい。大人の女なんだから、笑ってやり過ごしなさい」。あげくに、専務から「ケンカ両成敗」だとして「明日から来るな。クビだ」という通告を受けたんです。私は、冗談じゃないと食い下がりました。性的中傷を受け、救済処置も取られずに即日解雇とは何事ですか、と。しかし、会社側はまったく聞く耳を持っていなかった。「ともかくクビだ」です。しかも、「ケンカ両成敗」のはずが、上司の処分は自宅謹慎だけだと言う。その理由を聞くと、「女性は仕事を辞めても結婚がある。男はそうはいかない。君は優秀だ。しかし、男を立てることを知らん。次の就職先では男を立てることを覚えなさい」と言うんです。悔しかった。割り切れなかった。2年半にわたる屈辱の末が、こういうことだったんです。1988年5月24日、私はボロボロになり、退職しました。
この文章を読んだとき……悔しくて我が事のように涙がでました。そういう時代だったからという理由だけでは片づけられない!とも思いました。その後、晴野さんは裁判を起こすことになるのですが、証人として出廷した関係者からは「原告はだらしのない女だ」と証言され、法廷の場でセカンドレイプ(性的二次被害)に遭うことに……。裁判の場でもまた、大きく傷つけられてしまうのです。
大きな決意をもって日本初のセクハラ裁判を起こした晴野さん。昨今のハリウッド発のセクハラや性被害を告発する「Me Too」運動、ネット社会での性的被害を訴えることについて、ご自身が裁判を起こしたあの時代よりもはるかに難しくなっているんじゃないかと懸念しているそう。
「私の訴えは、あの時代だからこそ匿名でできたことだと思っています。女性の性的被害は最も叩かれやすい材料のひとつ。現に、最近のセクハラ事件でも正確な情報ではなく主観的な思い込みが拡散され、心ない人の被害者バッシングもネットを中心に起きています。すぐにネットで何もかも明かされてしまうこの現代において、被害者の人権をどうやって守っていくのかが課題になっていると感じます」。
多くの苦しみを抱えながらも声を上げるという選択をした勇気ある女性たち。「それはおかしい!」という社会の空気を作っていくには、彼女たちの思いを受け取る側の“私たちの行動”の在り方が重要になってくるのです。晴野さんは言います「あなたが声を上げたことによって、またどこかでそのバトンを誰かが拾って走ってくれる。『あなたは決して間違っていないよ』と言ってあげたい」。