話題のSHELLYさん流性教育「くすぐりは嫌だと言われたら止めて」
性教育にタブー感が強い今の日本。そんななか、「こしょこしょしてやめてって言われたら、絶対やめています。やめてって言っても大人はやめてくれないんだって思ったら、自分のNOには力がないと思わせてしまう」と語ったSHELLYさん流の性教育に共感の声が集まっています。
この記事では、ヨーロッパでは実際にどんな性教育が行われているのか、未就学児からでもできる性教育についての鼎談を紹介。
4歳と2歳の女の子の母であるSHELLY(シェリー)さんと、性教育アドバイザー・のじまなみさんと、ヨーロッパ各国の性教育事情に明るいSowledge代表・鶴田七瀬さんにお話ししてもらいました。
2、3歳で性教育をスタートするべき、
現代ならではの理由があります
のじま 日本では学習指導要領のなかに「歯止め規定」があり、セックスなど妊娠に関わる言葉をほぼ扱いません。また、習うのは4年生の授業で1~3時間というのが現状。時間も内容も圧倒的に薄いんです。ただ現場の先生たちは、現代の事情に合っていないと大変危機感を持っています。
鶴田 ヨーロッパは小学校を通してカリキュラムが組まれ、教科書の分厚さも比ではない。生物学的な話から関係性、ジェンダー、コミュニケーションの話まであり、「性教育」という言葉で括れない内容をカバーしています。
のじま 2、3歳の子がYouTubeでアニメを見ているつもりが、エルサゲート(YouTubeなどでアニメなどと思ってクリックすると、アダルトや暴力シーンなど不適切な動画に行き着く状況を指す造語)で簡単にAVに辿り着いてしまう世の中。性教育は本当は未就学のうちから始めたいですよね。
シェリー うちは2歳半くらいからプライベートゾーンを教えています。性犯罪は決して遠い話題ではなく、小児性愛者は、子供にとって身近な生活圏にいてもおかしくない。疑えという話ではなく、2、3歳から、自分の体は自分のものだとわからせてあげないとと思って。
のじま 私は水着ゾーンと呼んでいますが、水着で隠れる部分と口は、誰にも見せても触らせてもいけないと、小さいときから教えることが大切。平成30年度の警察白書によると、13歳未満の子供が被害者となった性犯罪の認知件数は、年間1000件を上回りますが、実数の1割にも満たないのではと感じています。
鶴田 日本並みに治安がいいデンマークやフィンランドでも、「プライベートゾーンについて」「NOという意思表明をする」「子供が生まれる仕組みを話す」という3点を未就学期に教えられていることが多いです。特にデンマークのタブー感のなさがすごくて、高校生のときには授業でAVを見てディスカッションしたり、性を楽しむというレベルまで達していて。日本ではアダルトグッズの話は大人でもできないですよね。
のじま ヨーロッパでは、『みんなのうた』のノリで女性器と男性器の歌が流れていました。日本だと旦那さんに気をつかってトイレにサニタリーボックスを置けなかったり、AV育ちの大学生の男の子がレイプを武勇伝のように語ることが現実に起きている。正しい教育が必要です。
鶴田 海外も、学校での性教育を親がすんなり受け入れたわけではなくて。イギリスは移民が多い国なので、宗教観によっては嫌がる親もいます。でもイギリスでもフィンランドでも先生が親にまず性教育について説明し、反対があればディスカッションしていました。
のじま 日本では現状、子供がいつ性教育の授業を受けるかはわからないですね。教科書にセックスについて書いていないから、モヤモヤした子供は親が知らないうちにインターネット先生に頼り、AVに行き着く。それに、妊娠が低年齢化しているといわれていて、それも真面目な普通の子だったりする。身長150cm体重40kgが初潮の目安といわれており、早い子は10歳で生理がくるので、待ってはいられないんです。
性犯罪被害のリスクは、
実は男女で同じ!?
のじま 『変質者の罠から子どもを守る法』(キャロル・S. コープ他著)によると小児性愛の性犯罪者1人が生涯のうちにいたずらする数は、200人以上というデータがあり、男女のリスクは同じ。しかも加害者が身近な場合も多く、勇気を出して親に言っても「あの人がそんなことするわけない」と否定してしまったり…。子供はもう二度と言えず、その後、精通や生理がきたときにパンツを隠したりする。
シェリー もっと辛いことがあったときも親に言えなくなってしまうと思う。男の子って、ペニスをふざけて見せたりしているから、大人に触られても被害者意識を持っていない子が多いと聞きました。
のじま 『アナと雪の女王』のハンスのように、いい人に見えても悪い人だっているんだよと伝えないと。それが、いざというときに身を守るセンサーになる。
シェリー でも保育園でもカンチョウしたり、キスしたり、遊びの延長でやっていますよね。
のじま ママは子供かわいさのあまり「いいじゃんキスくらい」と思う場合も。ママの胸を普段から揉んでいるから、先生のも揉んでしまう、これは「うっかり加害者」。性教育は被害者にも加害者にもさせないための教育です。
シェリー うちは「No means No」で、嫌よ嫌よも好きのうちじゃない、やめてと言ったらすぐやめることを厳しく教えています。3歳半の長女が1歳半の次女を抱っこしようとしたとき、「やーよ!」と言われたらやめようと。徹底していれば、うっかり加害者にならずに済むと思うし、性的同意の話にもつながるはず。あと大人ってよく子供をくすぐって、嫌だと言ってもやり続けることにモヤモヤして。笑っているからかわいいけど、相手が1歳だろうが35歳だろうが、嫌だと言ったらやめてあげる。やり続けるのはいじめでもセクハラでもパワハラでもあります。小さなことかもしれないけど、NOを尊重してあげることで、私のNOは効果があるんだと自信をつけられると思うんです。
のじま そうして育てば、NOを受け入れやすくなりますね。大きくなってセックスを拒否されても、「自分が拒否された」ではなく「今日はしたくないんだ」と受け入れられる。
鶴田 私もこちょこちょよくしちゃうけど、気をつけよう。
シェリー もう一回と言われたらやればいいと思う。「お顔見て、嫌そうな顔してたらやめて」とも教えています。年齢や性格によって、あと障害がある子は嫌だと思ってても言えないことがあるから。顔色を見るというのも大事なコミュニケーションツールだし、日本人が得意なことですよね。
鶴田 「性的同意」も、言葉が堅いですよね。日本は性教育に関しての語彙が少ないなと感じます。性的同意の話をするのはヨーロッパでも高学年だけど、そこまでコミュニケーションを積み重ねていて、差を感じています。たとえばデンマークでは、5歳の子供同士が喧嘩しても、大人が介入せずディスカッションで妥協点を探すように導く。性教育はコミュニケーションの教育でもあるので、こうした土台があるとすんなり入っていくし、特別なものと思われないんだとわかりました。相手を大切にする、尊重するということは徹底しています。
日本が圧倒的に低いとされる
自己肯定感を育てて、
NOと言える子に
のじま 自分の外性器がおかしいと言って悩む子が今すごく多くて。私は泌尿器科で働いていたのでわかるのですが、本当に十本十色! 男性はペニスの大小が自己肯定感に関わることが多いですが、本来大小は関係がない。だから、男の子に大きくなったねと褒めてはいけなくて、かっこいいねと言うべき。女の子も、これからどんどんきれいになるよとお風呂などで声をかけてあげてほしい。
鶴田 デンマークの図書館では、外性器の写真がポスターにして並べられていました。みんな違うということを理解するためなのかなあと。
シェリー 自己肯定感についてよく思うのは、日本は欧米と比べて、子供を別の人間というより、分身と考えることが多いなあと。公園で子供同士順番を譲り合う場面で、「いいのうちの子なんか後で!」とつい言ってしまったり。
のじま ママにとってはママ友が大事な情報源であり仲間だから、つい相手をたててしまうことも。でもそこで一番大事な子供を傷つけたくないですよね。
シェリー そうですね。でも本当は、本人が嫌なら戦わせればいいしNOを言っていいと伝えたい。小さな日常を大事にしないと、後々、「セックスを拒んだら嫌われちゃ う」「彼に迷惑をかけるから1人で頑張って中絶しよう」とか、不思議な愛情の出し方につながるんじゃないかと大げさではなく思っていて。17歳の母親が赤ちゃんを捨てて逮捕されたというようなニュースを見ると、なぜ男は何も問われないんだろう?といつも思います。教育があれば妊娠しない可能性もあったし、産んで愛してくれる人に渡すという選択肢もあったはず。その子は一生、赤ちゃんを捨てた映像を忘れない。教育で 防げると思うのに。
鶴田 そうですね。私は性教育トイレットペーパーを作っていますが、誰かに愛していると伝えられながら育てられること、相手に嫌われてもいいと思える自己肯定感があることが、得た知識を生かして行動に変えるには必要だと思っていて。知識だけあっても望まぬ妊娠や中絶は防げなくて、そこに自己肯定感がないとダメだと知りました。 のじま 学校や家庭などで正しい知識や命の誕生について知り、そして私たちのようなサードプレイスが補完していけたらいいですね。
何歳からでも遅すぎないけど、
はじめるなら3歳からがベターです
のじま VERY世代はほとんど親から性教育をされてきていませんが、その伝統を今破るべき。やれば、性教育を通じて私たち母親の自己肯定感も上がるんです。
鶴田 チューしたいときには許可を取るんだよという、性的同意につながる話を子供にしていたママの話なのですが、子供にチューしていい?と聞かれて胸がいっぱいになったと(笑)。6歳くらいまではまだ一緒にお風呂に入るからゴールデンタイム。洗うときに、ここは大切なところだよと声かけができますし、ディスカッションする時間として活用できると思う。
シェリー セックスの話題で、親が「うっ」という顔をしないことも大事。
のじま 5歳までに約80%の子が、どうやって赤ちゃんが生まれるの?という疑問をぶつけてきます。そのときに親に嫌な顔をされると、聞いてはいけないことかと思ってしまう。「いい質問だね」とまず返して。狼狽をごまかせるし(笑)、受け入れてくれたと子供は思います。
鶴田 「わからないから調べて伝えるね」と切り返すこともできますね。
シェリー 不思議なのは、うちの子たち出産のビデオをすごく見たがるんです。次女は水中出産だから、そちらのほうが映像としておもしろいけど、長女は自分のを見たがるんです。
のじま 子供は命の誕生の話に絶対食いつきます。特に自分の出産については自分のルーツの話だから大好き。性教育の絵本を教えてくださいとよく言われるのですが、出産した日のことを話してあげるのが一番。性教育絵本をただ黙って本棚に入れておくのではなく、語り合うことが必要です。海外の絵本では、「オーガズムのときは、膣がじんじんしてきて、男の人は腰がぶるぶるします」とまで載っているけど、日本ではそこまで求めるのは今の段階では無理かもしれない。セックスとか出産とか一部を切り取るから恥ずかしいのであって、すべてつながっている話として伝えて。妊娠したときのパパの言葉、出産した日の空がどんなだったよというだけでもニコッとなりますから。
シェリー 愛情を感じますよね。自分がどう生まれたかを伝えることも、今すぐできる性教育のひとつなのかもしれません。
撮影/杉本大希〈zecca〉 ヘア・メーク/高橋純子スタイリング/松本ま生(SHELLYさん) 取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子 撮影協力/ミックスジャム ※本文中の年齢はあくまで目安です。
*VERY2019年12月号「どうして日本だと『恥ずかしい』になっちゃうの? ヨーロッパでは3・4・5歳から教えている『性教育のこと』」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。