【人生のスタンダードを考えさせられた本】文庫編集者が選んだ今月の”分かる”1冊

元Mart編集部所属で、現在は文芸畑にいる同僚Mに聞いた「明るい気持ちになれる1冊を教えて」企画第二弾。作者の三浦しをんさんといえば「舟を編む」が真っ先に思い浮かびましたが、それと同時に、女性の気持ちの描写がするどく、何度となくいい意味でぐさっときた作品群も思い出されます。ついでに言えば、長く過ごした女子校の先輩でもあるため、あの鳥かごのような楽園のような、普通とか平均とかに悩んだ日々の記憶までよみがえってきて……。”明るい”気持ちね……。どうなんだろう?といぶかしさすら感じながら読み始めました。

星間商事株式会社社史編纂室/(三浦しをん/ちくま文庫)

同僚Mのおすすめポイントは、「とにかく笑えるお仕事小説。おそらく40~20代後半なら“分かる”ポイントだらけです!」とのこと。なるほど。お仕事の描写なのね、と思いながら読み進めたものの、どうも自分が引っかかるポイントが違うのです。確かに、”職場あるある”には笑えるものの、Mの言う”分かる”が微妙に違う気がするのは、自分の年齢のせいかなと思ったり……。正直、笑うというより、今まで軽く目をそむけてきた”人生のレール”について、真正面から突き付けられた感が強く。弱いジャブを何度も打ち込まれた感じがしました。しかも、よりによって机に置いたiPhoneからBGMで流れてきたのが、ミスチルで(笑)。思わず歌詞を検索して、それをぼんやり眺めてしまう心の動揺。1冊読み切るのに、アイスコーヒーを3杯、ミスチルを10曲費やしました。

この本をどう読むのが正解か、文芸に詳しいわけではない私には語れないのですが、「心が動く」ポイントはあちこちに潜んでいたと思います。それはMのように”楽しい”という感情かもしれないし、私のように”切ない”という思いかもしれません。読後にぐったりしましたが、そうやって紡がれた言葉に自分が眠らせていた気持ちを揺さぶってもらえたのは、読書の魅力だなと改めて思ったのでした。

またすぐ読み返したい?と聞かれたら、何年後かはわかりませんが、人生のスタンダードにこだわらず、自分はこうだと自信をもって言えるようになってから手に取りたいなと思います。きっと感じ方がまた違うはず!

とまあ、大変個人的な思考のループに入った感想になってしまいましたが、メインのストーリーを固めるあちらこちらに散りばめられた”心のゆさぶり”が、非常に面白い作品だと感じました。読者それぞれが、自身の心のピースに引っかかる要素を発見することと思います。よろしければ是非、読んでみてください。

書籍選択/文庫編集M 構成/菊池由希子(Mart編集部)