厚切りジェイソンさんに英語学習法を聞きにいったらもっと深いことを教わった話

NHKEテレ「えいごであそぼ」などでもおなじみの厚切りジェイソンさん。学生時代から今の今まで英語が絶望的に苦手なライターが語学学習法を聞きに行ったら、教えていただいたのは語学学習法だけではなかった。ジェイソンさんのお話には「人生で大切にしたいこと」が満載でした。

 

 

「でもできない」という人には
何もアドバイスできない

 

──昔から英語が苦手で。道を尋ねられても困るからついついうつむいて歩く。そういう自分を変えたいんです。

 

別に恥ずかしがらずコミュニケーションをとればいいだけです。それに上手くしゃべろうとしなくても、わからないところは向こうが聞いてくれるって。

 

──とっさに単語がひとつも出てこない。どうしようどうしようってパニックになるんです。

 

そう、そういうのを今すぐヤメロ。さっきから聞いていると「話せない。どうしよう」「外国人に話しかけられたら怖い」って、宮下草薙のネタかと思ったよ。お母さんが慌てて、話しかけられないように足早に立ち去るなんて、子どもに、「英語は怖いもの」「外国人とは話さないほうがいい」、と伝えているようなものです。自分がやろうとしないしできないのに、子どもに「英語を勉強しなさい」「英語ができたほうがいいよ」と言っても説得力がないよね。

 

──歯磨きのように毎日の習慣にすればいいとも仰っていましたね。

 

そう。無理やりにでも毎日やるうちに習慣になるんです。今すぐやる。本当にそれだけ。以上!

 

──今日は調子が悪いからとか忙しいからといって後回しにして、結局三日坊主になったり……。

 

ちょっと待って。わからない(笑)。どうして歯磨きは毎日できるのに英語の勉強となると言い訳がはじまるの?
変わりたいんです、でもできないんですという人に対して、僕は何もアドバイスできないんですよ。すべては本人次第だから。

 

──ジェイソンさんはアメリカ在住のころから日本語を勉強していたんですよね?

 

日本人が英語を勉強するのと同じように、大学で日本語の授業を受けていました。でも日本で実際に話したら教科書通りにはいかなかった。「あれ? 教科書に載ってない単語使うし会話のスピードも早い」って。さて、アメリカで生まれた子どもが英語を話せるのはなぜ?

 

──……毎日使っているからですね。

 

語学学習もそれと同じで毎日やればいいだけの話。忙しい、時間がない、と言うけれど、日常生活の中で1分の余裕もないの? スマホ見ている時間、ゲームしている時間、通勤時間、夜寝る前、いくらでも時間はあるはずだよ。英語を勉強すること自体はそんなに難しくないんです。好きなことや楽しいことを英語でやり続けるのがいい。ネットフリックスで映画を見るとか。日本語でしていたことを英語でやってみてください。映画は何が好き?

 

──ええと、寅さんシリーズとか?

 

それは邦画(笑)……。僕もハリウッド映画を字幕なしの日本語吹き替え版で見ていました。ゲームも漫画もウィキペディアも日本語版に切り替えて見るようにしたら3年ほどで日本語能力試験1級を取得できました。この方法は英語学習でも使えます。

 

──子どもに英語を教えるのに良い教材はありますか? 

 

僕の子どもたちが通っているのは日本の公立小学校です。自宅で子どもたちに英語を教えるときに使っているのはアメリカの小学生用の教材。アメリカにはホームスクール制度があるので、小学校に通わず親が家庭で勉強を教えるケースも多いんです。教材はAmazon でも売っています。一冊せいぜい数百円で、アメリカの小学校で習うのと同じような勉強ができるんですよ。

 

──お子さんたちに英語を勉強するのは嫌だと言われることはありませんか?

 

一日にやるのはテキストの1、2ページくらい。それでももちろん、面倒だとかやりたくないと言われるときもありますよ。僕は、子どもたちに「英語やれよ」とは言いません。「パパは君たちが生まれる前から今日まで、一日も欠かさずに漢字を勉強してるんですよ。さあどっちが早いか競争だー」こんな感じで一緒に机に向かうようにしています。

 

──大人になって英語が苦手な人は何を使って勉強するのがいいでしょう?

 

僕が日本語をマスターした方法をもとにした英語学習本を作ったんですが、正直あまり売れませんでした……。なぜ不人気だったかというと「努力が必要だから」。人気があるのは「聞くだけで英語をマスターできる」というようななるべく時間も労力もかからずにできる方法です。でも、努力しないで目標を達成する方法はほぼ存在しないといっていいでしょう。それは語学でもダイエットでも同じだけれど、みんな「3日でできる」「食べるだけでやせる」といった魔法を信じたいんですよね。

 

──私たちが「続けられない」のは結局、できなくても別に困らないからでしょうか。

 

それはあると思います。ならば、「やらなきゃいけないのにできない」と悩むより最初からやらないと決めたほうがストレスなく過ごせると思います。でも、10年後どんな自分でいたいか考えてみて。それに英語が必要ならば今日今すぐにはじめればいい。僕も10年ほど日本語を勉強した結果、今があります。

 

 

「おさるのジョージ」の黄色の帽子のおじさんは「誤訳!?」

 

──アニメ「おさるのジョージ」が英語版と日本語吹き替え版でニュアンスが違うという話もされていました。

 

NHK で放送中のアニメ「おさるのジョージ」や「スポンジ・ボブ」を子どもたちと一緒に見ています。でも日本語バージョンだと、黄色い帽子のおじさんがちょっと嫌な奴なんですよ。英語版ですと、ジョージがどんなことをしても許してやる寛容な性格で理想のパパ的存在。でも、日本語版だと手に負えない困ったサルに付き合わされている人間という感じ。「お前はまたバカなことしやがって」と口調も心なしか荒いような。邦訳されると印象が変わってしまうんです。

 

──それは、日本語しか知らないと気づかないことですね。今、育児中の日本の親たちに伝えたいことはありますか?

 

家庭内でのコミュニケーションが不足していると思います。とくにお父さんが平日子どもと話す時間が決定的に少ない。子どもの教育は学校がすべてしてくれると思っている人もいるけれど、人生を歩んでいく上で大切なことは家庭で親たちが教える必要があるんです。

 

──ジェイソンさんは子どもたちにどんなことを伝えたいですか。

 

自分で考えることができる人になってほしいです。そのために、普段から「どう思いますか? それはなぜ?」と問いかけることを習慣にしています。
たとえば、誰かに「うるさい!」と言われたとき、それは真実なのか意見なのか。声高に言われるとつい従ってしまうかもしれませんが、必ずしも黙る必要はない。今言われたことはその人の意見や要望なのか、科学的な裏付けのある真実なのかちょっと立ち止まって考えてほしいんです。これは人種差別問題などでも同じだと思っています。子どもたちは大人、とくに親の言うことはすべて真実と思ってしまいがちです。お母さんが犬が怖いと言うと、子どもも犬は怖いものだと思ってしまう。ただそれは親の意見であって真実ではないですよね。

 

──差別的な言動を目の前にすると、それは間違いだと思っても子どもにどう伝えるか迷ってしまって。結局何も言えないこともあります。

 

親が何も言えないなら子どもは他の人が言っていたことを信じても仕方ないと思います。黙っていると同意とみなされることもあるから、自分のやっていることは意識したほうがいい。

日本では自分の考えを話すと「意識高い」などと揶揄されてしまうこともよくありますね。だから空気を読もう、人と違う行動はとらないようにしようという人は多いけれど、たとえ嫌われてもいいから、子どもたちには自分の意見を持ってもらいたいです。

娘に「パパはどうしてテレビに出ているかわかる?」と聞いたら「面白いから」と答えてくれました。うれしかった。でも、この答えは正解ではないんです。正解は「みんなと同じことをしていないから」。他人と一緒では他にいくらでもかわりのいる人にしかなれない。自分しか持っていない能力や人とは違う部分を伸ばす必要があるんです。

「英語を学ぶことは、人生の選択肢を広げることだ」by ジェイソン・D・ダニエルソン( 厚切りジェイソン)

 

 

「ジェイソン式英語トレーニング」とは……?

 

①英語は英語で考える
語学を習得するただひとつの方法は「経験」なんです。場数を踏むことがいちばん大切です。インターンで初来日したとき、大学で学んだ日本語が日本でなかなか通じないことにショックを受けた僕は、帰国してから独学で日本語をやり直しました。「これって日本語で何と言うんだろう」といちいち英語に変換していたら効率が悪い。そこで「日本語はすべて日本語で考える」ようにしました。PCもウィキペディアも日本語設定に切り替えて見るようにしました。皆さんは逆に「英語で考える」習慣を身につけてしまえばいい。

 

②生活のすべてを、英語にしてしまう
英語で考える習慣をつけるのに手っ取り早いのは、普段の生活の中でしていることを英語でやってみること。映画を見るなら、日本語吹き替えや字幕ではなく原語で見てください。赤ちゃんは字幕でテレビを見ませんよね。それでも何度も母国語に触れるうちにだんだん理解できるようになるのと同じです。はじめはわからなくても何度も同じものを繰り返すと聞き取れるようになっている。僕は「タイガー&ドラゴン」や「銭ゲバ」など当時好きだった日本のドラマを何十回も繰り返し見て日本語の勉強をしました。

 

③直訳で覚える必要はない
「英語で考える」のは難しそうという方もいるかもしれませんね。英語をマスターするには、まず英単語をたくさん覚えなくてはいけない、という先入観は一度捨ててください。実際のところ英語を日本語に直訳するのは難しいんです。日本語の「お疲れ様」を英語に直訳するといっても、使われる状況で意味合いが変わってくるのと同じ。英語でなんて言うんだっけ?と焦るよりも知っている英語で言い換えればいい。「おいしい」は「デリシャス」と知らなくてもとっさにgood!と言えれば十分。英語で考えるってつまりはそういうこと。

 

◉厚切りジェイソンさん

1986年生まれ。アメリカ・ミシガン州出身。本名はジェイソン・デイビッド・ダニエルソン。17歳でミシガン州立大学へ飛び級で入学した後イリノイ大学大学院に進学し、コンピューターサイエンスの修士課程修了。GE(ゼネラル・エレクトリック)入社を経て2011年には外資系企業の日本法人社長として来日。現在は、IT企業のテラスカイのグローバルアライアンス部長、テラスカイベンチャーズの取締役としてビジネスの第一線で活躍する傍ら、お笑い芸人としてデビューを果たし、「R-1ぐらんぷり」ファイナリストに。NHKEテレ「えいごであそぼ」に出演するなど幅広い分野で活躍中。家族は日本人の妻と3人の娘。

◉「ジェイソン式英語トレーニング覚えない英英単語400」(主婦と生活社 1,300円+税)

英語を効率よく学ぶには“英語で考える習慣”をつけることがいちばん大切。ジェイソンさん自身が日本語を習得したメソッドをもとにした「ジェイソン流英語トレーニング」の極意をコンパクトにまとめた一冊。

 

撮影/須田卓馬 取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2020年6月7月合併号「厚切りジェイソンさんに英語学習法を聞きにいったら人生で大切なことを教えてもらった話」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。