【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす⑩窓から見えるもの

ウェディングブーケを束ねる為にアトリエへ向かう。

今朝はいつもより早く目が覚めた。

明日の結婚式の為に新郎新婦がブ-ケを取りに来るのは午後、たっぷり時間があるのだが何故かソワソワする。朝食を飲み込むように済ました。

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アトリエの大きな木の戸を両手で力を入れ、ガラッと開ける。中は薄暗い。10月を越えるとフランスの朝は8時になってもなかなか夜が明けない。大きなテ-ブルの上に昨日切り出した花たちが、かすかにぽつんと見えた。

新型ウイルスの波がまたじわじわと押し寄せ、状況は好変せず規制は解除されなかった。残念ながら明日のウェディングのレセプションは延期となり、市役所での結婚式用のブ-ケだけを束ねることになった。新婦の彼女がとても気に入っていた梁の緑の飾りつけや沢山の器と秋の花に飾られたテーブルの様子が頭の隅を横切った。

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花を目の前にし、この位置に立つといつも背筋が少し伸びる。

花を手に取りその姿を一つずつ確認しながら準備をしていくにつれ、気持ちが花に吸いこまれ、今度は逆にくつろいでいく。

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最初の3本。

花を束ねる時、この3本の花が全てを決めるような気がしてならない。慌てない、無心に花の思うがままに、と自分に言い聞かせる。しかし今日はいろいろな思いが交錯し、無心どころか雑念だらけな自分に気が付いた。

そういう時は何をどうしてもうまくいかない、自分が気に入らないのだ。

技術だけで花は束ねようと思えば束ねられる。でも、それだけでは何かが足りない花になってしまうような気がしてならない。

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窓に目を向けた。

いつの間にか朝陽が登り外は明るい。自分がいる部屋の中とは対照的だった。

気持ちが滞りどこか流れていない時、先が見えにくい時、窓から外をよく見る。

風で揺れ動く木々、あちらこちらに飛び移る鳥、雲間から突然差し込むひかり。思いがけない風景が目に飛び込む瞬間を無意識に待つ自分がいる。

外の気配が一瞬にして閉じこもっていた心を連れ出してくれる。

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先が見えているようでも、何がどうなるかなんて本当は誰も分からないものかもしれない。

来春にもちこされた結婚式のレセプション。

ブ-ケを取りに来た2人はやはり残念そうだけれど秋色のブーケを見てとても喜んでくれた。

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皆の前で来年またもう一つ違うブ-ケが持てるから嬉しい、と語る新婦。マスクで表情は見えにくかったが、彼女の声は少し先を見ているような、どこか明るい響きがした。

朝からの複雑な気持ちがス-っと溶けたような気がする。

 

新しい年、新しい季節。

その時に咲く花を束ね、2人に再会する日が急に待ち遠しくなった。

 

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文・西田啓子/ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/