14歳で起業した慶大生「今の私を作った“考える”教育」

 

中学2年で起業し、今年Forbes 30 UNDER 30 JAPAN ston特別賞にも選出された仁禮彩香さん。その事業内容も気になるとこtろですが、ママである私たちとしては、自分の夢を実現し、輝いている彼女がどのような幼少期を過ごしてきたのか?とても知りたいところです。そこで、仁禮さんの原点である湘南インターナショナルスクールの魅力とともに、子ども時代のストーリーをご本人に語っていただきました。

 

子どもと全力で向き合う校長を見て
“この人なら任せられる”

 

「今の私があるのは、幼稚園から小学校まで通っていた湘南インターナショナルスクール(以下SIS)と母の影響が大きいと思っています。

 

母は私を産む前に、幼稚園の先生をしていました。母が勤めていた幼稚園は子どもと向き合う時間よりも、連絡帳を毎日書くなど親へのサービスの時間が長く母はもっと子どもたち一人一人の状態を把握したり、感情に寄り添ったり、子どもと向き合う時間が必要なのではと体制に疑問を抱いていたそうです。なので、自分が子どもを幼稚園に入れる時は、一人一人の子どもと向き合ってくれて、その子たちの才能を磨いてくれるところを探して入れると決めていたと言っていました。

 

SISに入る決め手となったのは、入園の面接で、母の顔色を一切うかがわない園長先生の姿でした。園長先生は母の顔などまったく見ずに、ずっと私のことだけを見て、私に話しかけてくれました。それを見て “この人なら任せられる”と思ったのだそうです」

 

こうして、仁禮さんのSISでの幼稚園生活が始まりました。

 

“質問のコミュニケーション”で
自分で考えることを育んだ幼稚園時代

 

 

SISの先生は、子どもたちに “質問のコミュニケーション”で接します。たとえば、私が砂場で青いシャベルで遊んでいたら、他の子がそれを取り上げてしまい、けんかが起こったとします。この時、シャベルを取った子が一方的に悪いと叱られることはよくあると思います。

 

しかしSISの先生は子どもに対して叱ったり、注意したりする代わりに “何が起きたの?” “どうして泣いているの?” “なんでシャベルを取ったの?” ”自分が相手の立場で、シャベルをいきなり奪われたらどう感じる?”と質問でコミュニケーションを始めるのです。

 

子どもたちは先生の質問をきっかけに、自分の中で “なんで相手は泣いているんだろう?” “どうすれば2人ともハッピーになれるのだろう?”と考えます。先生は質問をすることで子ども自身の中からどんどん答えが出てくるということを大事にしています。

 

授業においても同じで、この答えはこうですよ、と教えることはなく “どう思う?”と子どもたちに質問を投げかけます。 “質問のコミュニケーション”をすることで、人それぞれの考えや意見を聞く機会もでき、みんなに対して自分が発信をするチャンスもあります。これはSISの大きな特徴の一つで、子どもたちは日頃から自分の意見を述べるという経験をすることになります。

 

また、話し合ううえで、子どもがけんかをして泣いていたり、感情的になっている時は、本人たちの心が落ち着いてお互いに話す準備ができるまで、シンキングチェア(当時あった、考えるための椅子。現在は置いていない)に座って一人で考え、自分で感情を落ち着かせる時間を設け、感情と事実を分けるということも、SISが大切にしている教育です。

 

子ども扱いはされず
一人の人間として成長できた

 

「SISの先生も、母も、“まだ子どもだからできない”という目線で私を見ることはありませんでした。いつでも一人の人間として私を扱ってくれていました。“小さいし、わからないだろうから”と答えをすぐに教えたり、子どもの考えを聞かないということはなく、両親からは、難しいニュースについても “彩香はどう思う?”とよく聞かれました。

 

同じく幼稚園にいても、地球の気候変動の話など、社会で起きている問題を取り上げて“彩香ならどうする?”と問われます。子どもたちは、ちゃんと考えを持っています。きっと答えられると大人が信じて、意見を聞いてくれれば、小さな子どもでも答えられるんです。大人が聞いてくれることで、わからない時は“わからない”と言えば、教えてもらうこともできますし、それが知識を得る機会にもなります」

 

自分が感じた違和感と改善案を
校長先生に伝えに行った

 

仁禮さんは幼稚園の卒園後、公立の小学校に進学。しかし、そこでの教育が今までとはまったく違うことに戸惑います。

 

「教科書には答えが全部書いてあって、それを覚えて、テストをする。テストの答えは一つ。“どこに私の考えがあるんだろう?”と思っていました。知識を学ぶことは大事ですが、その知識をどう使うかは、一つではなく、いろいろな方法があるはず。自分がその知識に対してどう考え、どう生かすのかを話したり、表現すること、そしてクラスメイトは同じ知識をどう使うのかを見ることが学びであり、人間の生きる基本だと思うんです。日本の小学校の教育は今まで過ごしてきたSISとのギャップが大きく、私にとっては別世界で、大きな違和感を覚えてしまいました」

 

そこで、仁禮さんは校長先生に自分の意見を伝えに行きます。小学1年生の生徒が校長に掛け合うということに驚きすら感じますが、仁禮さんにとっては自然にできることだったと言います。

 

「校長先生に“こういうことはできませんか?” “私はこう感じている”と話しに行きました。私は常に周りの大人が意見を聞いてくるという環境で育ったので、子どもながらに自分のことを捉える力は十分にあったと思います。だからこそ、1年生でも校長先生に自分の意見を言うことができました」

 

 

子どもだって自分で現状を変えられる!
自分の提案で小学校の創設が実現

 

仁禮さんは学校に対して自分なりにいろいろと働きかけたものの、状況はなかなか変わりませんでした。そこで、現状を打破すべく、持ち前の行動力を発揮していきます。

 

「働きかけても変わらないのは仕方ないし、すべて私の思い通りにはならないことも理解していました。それなら、この場所であと5年我慢をするのか?それとも学校を離れるか?という選択になり、ここを離れようと思いました。

 

でも、ここを離れてどこに行くのか?自分が必要としているものはどこにあるのだろう?と考えた時、幼い自分の知識の中にはSISしかありませんでした。 “自分が理想としている幼稚園に小学校があればいいのに!”というシンプルな発想が、一番初めに思い浮かんだのです」

 

仁禮さんは、その考えをお母さんに話します。お母さんは壮大とも言える仁禮さんのアイディアを真剣に聞き、受け止め、応援してくれました。

 

「SISの小学校に行きたいと母に相談したら、“今は小学校がないけれど、どうする?” と言われ、“じゃあ、先生に作ってほしいと言いに行く”となり、園長先生に相談しに行きました。まず、母は私に幼稚園の電話番号を教えてくれて、私は自分で電話をかけ、アポイントを取りました。

 

園長先生は本当にすごい方で“自分が教えた子どもが自分の教育を理想だと言ってくれていて、助けを求めているのに小学校を作らないほうがおかしい”と、私の想いを9カ月で実現してくれたのです。先生がいなかったら、今の私はないと思っています」

 

 

行動できたのは自分で現実を変えた
たくさんの成功体験があったから

 

 

自分の現状を変えるべく、みずからアクションを起こしたことで、2年生の新学期をSISでスタートすることができた仁禮さん。その行動力はどこからきていたのでしょうか?

 

「私はSISでの幼稚園生活を通じて、自分が働きかけることで人が動いてくれたり、変わったりするという成功体験をたくさん積んでいました。お友達とけんかをしてしまったり、いやだと思ったことも、話し合えば変わるという経験もたくさんしてきました。もちろん、行動して変わらないこともあるけれど、良くなる方向に進むのではないか?と希望をもって行動を続けられたし、行動の先に未来の可能性があることを当時の私は知っていました。だから、自分の意見を迷わず言葉にできたのです」

 

“人はみんな違う”という前提で
多様性を認めるSISの教育

 

「SISの教育の大前提にあるのは“人はみんな違う”ということ。自分と友達は違う人間だから、思っていることが違ったり、すれ違ってしまうこともある。けんかになってしまったり、分かり合えない時もある。それでも、せっかく同じ場所にいて一緒に生きていくのだから、お互いがハッピーな気持ちで時間をすごすために、どうしたらいいか考え、お互いを理解していこうというスタンスがSISの教育の根底にあります。その理念も私を支え続けてくれました」

 

仁禮さんはSISの小学校を卒業後、中学生で起業。高校生の時には母校のSISを友好的に買収するという形で経営する立場となります。

 

次回は、仁禮さんの起業のきっかけとなったさまざまな出会い、そしてこれから未来へ羽ばたく子どもたちが「自分の人生を切り拓く力」を育むために、ママたちへ伝えたいメッセージをお届けします。

中2で起業した大学生「起業の後押しは大好きな“ディズニー”」

仁禮彩香(にれい・あやか)さん

1997生まれ。中学2年生で起業。現在は株式会社TimeLeapの代表取締役として教育事業を手がける。慶應義塾大学総合政策学部在学中。

TimeLeap(https://www.timeleap.today/

取材・文/加藤みれい