【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㉑緑の時間

 

雨上がりの朝、ガラス窓に空からのしずくが残っていた。

窓を開け新鮮な空気を入れようとカーテンを開けると、どこからか、すっと花の香りが漂ってきた。窓際にあるヒヤシンスが青く色づいている。

A

秋の庭に幾つか球根を植えたのだが、一つだけ家の中で水栽培で楽しむことにしたものだ。ガラスの器にちょこん、と座っている球根の下の部分から白いもやしのような根がほんの少し見え出すと、根はみるみるうちに伸び、水の中で気ままに漂いだす。本来なら土の中で見えないものが目の前に現れ、その成長する様子を見ていると、暮らしの中で植物の息吹がそっと隣に感じられて嬉しい。

小さく尖った葉が現れたのは、つい最近だったような気がするが、あっと言う間に鮮やかな花を咲かせた。

B

その横にミントが入った瓶があるのだが、茎から根が髭のようにひょろひょろと生えている。それを見るのが楽しいのか、小さい時から子供が、庭から度々手でちぎってきては瓶に挿し、根が十分に張ると庭の土に植え返したりしている。

C

開け放った窓から冷たい空気が流れてきた。

雨でうるおった緑が初々しく、苔もいつもより鮮やかで、もこもことしている。

雨上がりの冬の庭は、緑の色で埋め尽くされていた。

D

今日はいつもと違う散歩道を歩く。と言うより不思議な風景に惹きつけられそちらへ行ってしまったのだ。秋に蒔かれた麦が芽を出し、のっぺらぼうの様なこげ茶色の大地は緑の海となり、草の生えた田舎道との区別がつかなくなってしまっている。境目のない緑色の絨毯が一面に敷き詰められ、その道なき道の先には広い空が広がっていた。もやでぼやっとした色合いの空の果てにある、その何もない地平線に向ってしばらく歩き続けた。そこに道らしきものがあるのは分かっているものの、野生の動物のように、麦畑の中をどこまでも進んでいるようで何とも言えない自由を感じる。人間社会では人も車も、たいてい道と言う限られたスペスを几帳面に歩んでいる。

急に寒くなり引き返そうとしたが、犬が動かない。片足を上げじっと彼方を見つめている。遠くで野ウサギが数匹、広い麦畑を右往左往しているのが見えた。

 

緑の光線というものがあるらしい。

太陽が水平線に沈んだ瞬間、輝いたように現れるその光線が見えることはとても珍しく、それを見た人は幸せになると言う。

そんな光線のことを想うだけでもわくわくするが、自分の周りにある雑草や植物の緑を見ているだけでも十分幸せなような気がする。

E

 

午後6時。

 

太陽がそろそろ地平線に落ちる。

F

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/