「もうセックスすることはないのかな」。STORY世代の誰もが抱く不安に深く切り込む”筆剣”|大久保佳代子のあけすけ書評
恋愛ら、元夫、因縁の母……アラフィフ女性ゆえの困難が目白押し
「私は女になりたい」。ストレートなタイトルがまさにこの作品のテーマ。そして驚くのはこの手の作品の主人公は、今までならせいぜい40代前半ぐらいだったのが、今回は47歳からスタートし、物語後半は50代へ突入する閉経年齢あたりの女性の話。人生100年時代とも言われ、アンチエイジング技術も進み、世のアラフィフ女性は若くなりました。それゆえに、「ずっと女としていたい」という後ろめたく感じてしまいがちな”業”がより強くなってきたような気がします。私も現在49歳。口では「おばさんだから」とか「性欲もなくなって」と言っていますが、実際は、男性からまだまだ求められたいと切に思っています。
主人公の美容皮膚科医の奈美は47歳。14歳年下の元患者である公平と恋に落ちます。院長として仕事に邁進していた彼女がペースを乱され、祈るようにスマホを握りしめて彼からの連絡を待ったり、目に入る若い女性が全員ライバルに思えて嫉妬したり。「手をつなぐってどんな感じだったかな?」「セックスできるのだろうか?」と悩む姿は、非常にリアルで切なくなります。公平が「子育てするなら神戸の街もいいよな」みたいなことを悪気なく口にし、子供を産むのが難しい奈美の心を傷つける場面も共感でき胸が痛みます。でも奈美は、最後まで女でいることに執着します。女でいることでモノクロだった世界が色と音を持ち始めてしまったから。息子に「母さんなんて大嫌い」と辛辣な言葉で罵られることよりも、公平と別れるほうがよっぽど辛い。生活の基盤がなくなろうとも男に走ってしまおうとする。女って難儀な生き物です。
読み終わり「もう一度恋愛したい! 頑張ろう!」とは思わなかったですが、このまま恋愛をせずに死んでいくのは、やはり辛いなと改めて実感しました。アラフィフの女友達のみはるさん(モノマネ芸人)の旦那さんは、23歳年下のMr.シャチホコ君です。みはるさんに「家の中に20代の男がいるってどんな感じ?」と聞いたら、「すっごい食べるの。尋常じゃない量の唐揚げを食べるの」と嬉しそうに教えてくれたことが。若いエネルギーに満ち溢れた生き物が同じ空間にいることを想像したら、それだけで息が詰まり疲れてしまいました。やはり年上の男性との穏やかな恋愛のほうが現実的だなと思ったり、でも相手が良ければ年下との激しい恋愛もと思ったり。結局、妄想するだけで何も起こらないここ数年ですが。
60歳、いや70歳になったら「女」に翻弄されることはなくなるのでしょうか?いや、棺桶に入るまで多かれ少なかれまとわりついてくるのだと思います。なかなかの拷問。この本は、年の差がある二人の恋愛によって生じる問題から、元夫とのお金問題、因縁の母との関係などアラフィフ女性ゆえの困難が目白押しです。女友達同士で感想を話し合ったら絶対に面白い一冊です。
おおくぼかよこ/ ’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」 (TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。
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取材・文/柏崎恵理 ※情報は2021年1月号掲載時のものです