【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす㉜春はいろいろ。

 

夜が明けると裏庭の真ん中に小さな山がこんもりとできていた。

 

モグラ塚。

モグラが地中でトンネルを掘り進み、土を押し出し積み上がったものだ。冬の間おとなしくしていたモグラがそろそろまた 、いたずらを始める。盛り上がった土を見ると、ふわふわと柔らかそうで見事に細やかにこなれている。昨日、花の種を蒔く為に新しく裏庭の芝生の部分を耕し始めた。今日もその続きを、と長靴をはき、道具を持ち庭に出たとたん出くわしたモグラの仕事。自分にモグラのような強靭な前足と爪があればどんなに作業がはかどるか、とため息が出るが、やるしかない、と気を入れ直し耕すその場所へ向かった。

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その先の奥のほうに目をやると一面に緑の絨毯が見えた。丸いつやつやした葉っぱに埋めつくされた中に、小さくても太陽の輝きのような愛らしい黄色い花が海のように広がっている。

 

春になりこの景色を見ると、何故かいつも、子供の頃に住んでいた家のすぐ横にあったレンゲ畑を思い出す。小さな花が一面に咲いているのが似ているからだろうか。土を肥やすために蒔かれる緑肥の植物のひとつ、レンゲ。その当時、子供の私はそうした理由は全く知らず、ただその紫がかったピンクの花畑に惹かれ、摘みに出かけ花輪を作った。

 

原風景。

 

レンゲ畑で花を摘む。おそらく同じような思い出を持つ人はとても多いと思うが、決して特別とは言えないこの経験が、不思議に今の自分の生活に深く繋がっているような気がする。そこには何とも言えない解放感と自由さがあったのだと思う。時間を忘れ夕方になってもなかなか帰らず、母親が探しに来たことを覚えている。崖の上の畑道をぶらぶら歩き、当てもなく過ごしたり、田んぼにちょろちょろ泳ぐオタマジャクシをあきもせず見た。毎日の中の何でもない小さな自然、それが今の自分の暮らしの原体験なのかもしれない。

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朝、子供をバス停まで送りに行った帰り、車で村に向かい走っていると、遠くに桃色の桜が何本かぼんやりと靄のかかったように見えた。

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今年はあっという間に満開となった桜。芝生の上に薄紙のような花びらが、はらはらと落ちているが、その傍でまた、木々の新芽や他の花の赤ん坊が次々とのぞき始めている。野草の花々と一緒に、コデマリ、ライラック、カシスやチュ-リップが一斉に踊り出すのも、もう間近。

 

E

木々の影が長く伸びて見える。そろそろ子供が帰って来る時間。

今日は随分耕せた。さて、ここにどんな種を蒔こうか。夏、そこに花が咲く景色を想像した。

 

F

春はいろいろ。

 

青、黄、ピンク、白。

丸い花、つぶつぶの花、流れる枝。

鳥も虫も動物もわいわいと。

 

春はこうして、どんどん賑やかになる。

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/