ADHDの整理収納アドバイザー・西原三葉さん「部屋も生き方も片付けられなかった」

できることなら片づけたい、でもできない……、どうしてもできない、永遠にできない? もしかしたらそれは「脳のクセ」のせいかもしれない?という噂を聞き、ADHDの片づけに詳しい専門家にお話を伺いました。今回は、ADHDの整理収納アドバイザー・西原三葉さんのお話です。

※掲載中の情報はVERY2021年6月号(5/7発売)掲載時のものです。

 

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大人の発達障害

● ADHD(注意欠如・多動症)
先天的な発達障害のひとつ。「不注意」「多動性」「衝動性」の特性を持つ。不注意、落ち着きがない、後先考えない、など。

● ASD(自閉スペクトラム症)
強いこだわりやコミュニケーション能力の困難などの特徴がある。スペクトラムとは連続するという意味で「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」を含む。いわゆる「コミュ障」「凝り性」。

※他に、読み書きや計算が極端に苦手なLD(限局性学習症)などもある。これらは医学的には区別されているが併存する(複数同時に持っている)ことも多い。

 

とにかく仕事が
できなかったんです

──私自身、片づけがものすごく苦手です。きれいな部屋のほうがいいに決まっているのに、ものを捨てることも整理することもできない……。子どもが生まれてからはもうお手上げ状態で……。

私も子どもの頃から、忘れ物やミスが多く、片づけられないことに長年悩んできました。新卒の頃はバブル景気の売り手市場で、大学卒業と同時に大手食品メーカーに入社し、総務部門に配属になりましたが、とにかく仕事ができなかったんです。給与計算を担当しても、私がやると計算がまったく合わず、上司や同僚に迷惑をかけてしまいます。受付業務に就くと、今度はお客様の所属や名前が正確に覚えられません。学生時代までは、苦手なことはあってもなんとかやってきたので、自分が社会に適合できないなんて思ってもみませんでした。仕事がうまくいかないことがきっかけでうつ病を発症し、結局1年で退職しました。当時は発達障害という言葉が認知されていなかったので、なぜ、私はみんなと同じようにできないんだろう。自分は社会で役に立たないだめな人間だと考えるようになったんです。

40歳で発達障害の
ADHDと診断されて……

──その後、職場で出会った男性と結婚、後に離婚されます。

夫は、仕事が不安定なのに新築の家をローンで買ってしまうようなところがあり、経済的にも苦しい状況が続きました。3人の子どもが生まれましたが、実家に助けてもらえる状況ではなかったので、家事や育児は全部ひとりでやるしかありません。部屋は片づかずどんどん荒れていきました。夫婦関係に悩むことも多かったです。それが原因で精神科に通っているとき、何気なく壁に貼ってあるポスターを見ていたらADHDの人の特徴が書いてあったんです。自分に当てはまる特徴ばかりでした。その後、検査を受けてようやくADHDであることがわかりました(そして、ASDの特徴が夫に当てはまることもわかりました)。40歳になっていました。今までは自分は努力の足りないだめな人間だと思っていたので原因を知ることができてうれしかったですね。

離婚後に、自分は「カサンドラ症候群」だったことにも気がつきました。カサンドラ症候群とはASDのパートナーや家族と心を通じ合うことができずに、身体的・精神的に様々な症状が出てしまうことです。ASDの人の中には、学歴や年収も高く、独特のこだわりがあっても社会的に見たらきちんとしているように見える人も多いので、「奥さんの我慢が足りないだけだ」と言われてしまいがちです。学術的な統計があるわけではないのですが、ADHDとASDのカップルはかなり数が多い印象があります。お互い自分にないものを持っているから魅力を感じるのでしょうね。殴る蹴るといった身体的DVよりもモラハラ、パワハラにあう人が大半なので、他人に言っても、「優秀なご主人なのに」と取り合ってもらえず、さらに傷ついてしまうケースもたくさん見てきました。まだ世の中ではあまり知られていませんが、片づけがうまくできない女性の中にはADHDとカサンドラ症候群、どちらも抱えて悩んでいる人が多いようです。

──診断がおりてよかったことはありますか?

ADHDの人が集まる当事者会に参加したり、認知行動療法を受けるようになりました。皆さん困り事があっても工夫して生活する中でなんとか乗り切ろうとしているので、私も工夫しだいで変われるかもしれないと思えるようになったのです。診断がおりていなかったら悩みを共感し、応援してくれる人と出会える場所には行きついていなかったと思います。以前は夫に「一日家にいたのに何で片づいていないの?」と言われたら、それだけで「私は生きている資格がない」って思ってしまっていたんですよね。認知行動療法を受ける中で「片づけるべきなのにできないなら存在価値がない」と思ってしまう考え方のクセに気づき、修正していきました。そうして視野を広げると、悩みがゼロになるわけではないけれど、100だったものを50くらいにはできるんですよ。著書の中ではADHDを克服したと書きましたが、完全に克服できたわけではないんです。ただ、考え方を工夫することで悩み事を減らして自分を責めないで楽な気持ちでいられるようになりました。

大人の発達障害がまだ広く知られていなかった20年ほど前にベストセラーになった『片づけられない女たち』を読んだことが、「もしかしたら」と気づくきっかけになりました。

「片づけられなかった」
私だからできる仕事

──片づけをはじめるとき何から手をつけたらいいのでしょう? 

「最初は洋服からはじめましょう」とか「まず、タンスの中身を全部出しましょう」とすすめる片づけ法もありますが、全部出しをするとADHDの人はパニックになって、結局すべて出しっぱなしで翌日を迎えてしまうことも多いです。誰かに手伝ってもらうなら、荷物の総量がわかる全部出しも効果的ですが、ひとりではじめるならまず5分間だけ片づけるとか、あきらかにゴミになっているものを捨てるところからはじめるほうがいいですね。

次に洋服とか本とかごちゃごちゃになっているものを種類ごとに分けます。疲れたら無理せず休んでいいので、分けたものがまざらないように袋や箱に入れてください。その中で減らせるものがあれば減らしていきます。絶対捨てたくない、という人も実際に仲間分けをしてみると、黒いパンツばかり10本もあったとか、余分なものが見つかることがあります。

よく、「絶対リバウンドしない片づけ法」なんてタイトルの本や雑誌を見かけますが、「絶対」なんてないですからね。絶対リバウンドするのがADHDの私たちなんです。私を指名してくださったお客様の中には、有名な片づけの本を読んだり、出張片づけを頼んだのにうまくできなかったという人も多いんです。多くの片づけ法って、たくさん捨てることが大前提なんですよね。ご本人が思い入れがあって捨てたくないものでも、捨てるしかない状況に追い込まれてあとで後悔するケースもあるようです。もちろん、私のやり方が誰にでも合うわけではないですが、私がADHDであるから、と仕事を依頼してくださる方もいます。片づけが苦手だったからこそ、当事者の気持ちに寄り添って、誰かの役に立てることがうれしいです。

西原三葉(にしはら みわ)さん
整理収納アドバイザー1級、産業カウンセラー、栄養士、ライフオーガナイザー1級資格保有。食品会社勤務後、出版社に就職。現在は退職し「片づけのプロ」として活動している。片づけコンサルティングAUBE代表(aube.jp)。現在は4匹の猫とともに都内在住。

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撮影/古本麻由未 取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr. 
*VERY2021年6月号「私の家が片づかないのはなぜ?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。