【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす(51) 秋色のウエディング

 

戸を開けると部屋中が林檎の甘酸っぱい香りで満ちていた。

A

朝露でたっぷり濡れた芝生、白い息、ポケットに突っ込んだ手。アトリエに向かう今日の朝はぐっと寒い。昨日から週末のウエデイングの装花の準備を始めた。切り出した花と一緒に机の上に置いてきた姫林檎。地面に落ちていたものを拾い集めたのだが、その時は何も感じなかったのが嘘のように、いい香りをかもし出していた。暖房も入っていないその部屋が香りがくれる林檎の空気でぽっと明るく、ほんのり暖かく感じる。木箱に入っている小さな赤い林檎たち。他の花々のことなど忘れ、一つ手に取り鼻に近づけ、しばらくその甘い香りを確かめた。

 

散歩をしていると、地面にある色とりどりの落ち葉に混じり、林檎を目にすることが多くなった。赤りんごや青りんご。拾おうとすると大きな穴が開いていることもある。先客の鳥たちがしっかりとかじっているのだ。

 

B

 

春夏には姿を見せなかったシジュウカラたちがいそいそと裏庭にも帰って来ている。小さな虫がいたのだろうか、昨日は木の窓のサンにつかまり、窓をこつこつ、とたたき、挨拶もしてくれたぐらいだ。果実は一年おきに実を多くつけたりするらしいが、今年は裏庭の林檎の木の枝にあまりその黄色い実が見えない。どうやら今年は不作。それでも少しなっている小さい実がポロポロ地面に落ち、いつもの秋のようにいろんな鳥が、どこからともなく集まってくるのが見える。今年の裏庭の林檎は鳥たちのもの。拾わずそのまま放っておくことに決めた。

 

C

アトリエを出て秋色の蔦を探しに池の方へ向かう。庭にある穂が開いたグラミネや赤や黄銅色の葉の間を潜り抜けていった。確か昨日もここを歩いたはずだが何故か同じ場所のような気がしない。秋の庭は寒さと一緒に潔く色を変えていく。だから毎日どことなく感じの違う風景の中に飛び込むような感じがして、飽きることがなく散歩が一段と楽しくなる。

 

D1

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一年以上前から打ち合わせを始めた今年最後のウエデイング。古い本や緑を使い、森の中にある図書館で過ごしているようなような時間にしたい。初めて会った秋のある日、そんな新郎新婦のイメ-ジを聞いた時に思わずワクワクしたことを思い出した。やさしい木漏れ日や、緑に溶け込む古い本。本が好きで森を散歩することを欠かさない2人なのだろうか。そんな風に想像しながら目の前に秋の匂いと色が広がった。

 

E

毎日その前を通る池の傍の蔦の葉。

滝のように流れる数々の赤。

 

 

今日の赤を切り取って飾ろう。

F1

F2

 

秋は植物が呼吸をするごとに色を重ねていく。

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/