【性教育ノベル第17話】セックスって?真実を知った少女たちと初体験への思い

*Information*
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●登場人物●

キキ:雨川キキ。早くオトナの女になりたいと一心に願う。親友はアミ。大人びたスズに密かに憧れを持ち、第7話でついに初潮が訪れた。同じオトナの女になった喜びから、スズにガーベラをプレゼントした。

スズ:キキのクラスメイト、鈴木さん。オトナになりたくない気持ちと、すでに他の子より早く初潮を迎えたことのジレンマに悩む。両親は離婚寸前。小学校受験に失敗したことで家では疎外感を感じている。

アミ:竹永アミ。キキの親友で、キキと同じく早くオトナになりたいと願っている。大好きなキキと一緒にオトナになりたい気持ちから、キキが憧れるスズについ嫉妬。初潮はまだ訪れず。同じクラスの安達春人が妙に気になる存在に。

リンゴ:保健室の先生。椎名林檎と同じ場所にホクロがあることからキキが命名。3人の少女のよき相談相手。

マミさん:キキの母。ミュージシャン。

 

▶︎前回のストーリーはこちら

第16話「赤ちゃんができるということ・後編」Byリンゴ

Talk 17.

「初めて知ったセックスのほんとう」

Byアミ

「アミ!大変!事件だよ!話したい!今どこにいるの??」

買ってもらったばかりのスマホにキキからラインが入ったのは、公園から家に帰っている途中だった。

公園で、私は安達と会っていたのだ。初めて、二人きりで。

呼び出したのは、私。キキとスズには、まだそのことも話していない。

と言うのも、急にそんな流れになったから。帰りのホームルームが始まる前に、ランドセルを取りに行ったら安達が近くにいたから聞いたのだ。

「受験、どうだった?」って。

ずっと気になっていたことだったけど、本人にストレートに聞いてしまってからハッとなった。無神経な質問だったかもしれない。

でも、そんな私の心配はすぐにかき消された。

「ああ。うん。受かったよ!」満面の笑みで、安達は答えた。

その瞬間、おめでとうって気持ちと寂しさとが一緒になって私は泣きそうになってしまった。ずっと気になっていたことは、ただ一つ。安達と同じ中学に行けるのかどうか、だったから。

「どうしたの?」って、安達は私の顔を覗き込んできた。

「おめでとう」って言いながらも、中学が別になることが悲しくて、どうしたらいいのかわからなくなった私はきっと変な顔をしていたと思う。

それなのに、安達はビックリするくらい優しい声でこう言ったのだ。「ありがと。でも、大丈夫? なんだか、いつも寂しそうだよね」って。

私の心臓は、ドキッとしすぎて、あの時一回、ほんとうに止まったのかもしれないって思う。

もう、好き。もう、ほんとうに大好き。

あまりに強く実感したら、安達がいる目の前で、自分の口から言葉になってそのまんまこぼれてしまいそうで、私は唇をかんだ。

「ま。中学は別になるけど、引っ越すわけじゃないからまた近所で会おうね!」

何も言わずにうつむいている私に困ったのか、そう言って通り過ぎようとした安達のトレーナーの裾を「待って!」って、私は引っ張ってしまった。

「放課後、近所で会おうよ!」

思い出すだけで、顔がカァッと火照り出す。あれは、いったい私のどこから湧いてきた勇気だったのだろう。その瞬間から今もずっと、胸のドキドキが止まらない。

私たちは、二人きりで公園で会った。学校から、別々に行って、他の友達に私たちが一緒にいるところを見られたらどうしようって心臓が口から出そうなくらいソワソワしながら、ブランコのところで待ち合わせたのだ。好きな男の子と二人で会うなんてこと、もちろん生まれて初めてで、公園に入ってくる安達が見えた時なんか、全身が心臓になったかと思うくらいにドキドキした。あの時は、まさかこんなことが起きるなんて思ってもいなかった    

ああ、もうダメだ! 今さっき起きたことを思い出すだけで、心臓が爆発して道に倒れちゃいそう! 誰かに話したい! ううん、キキとスズに話したい!! 二人なら、絶対に秘密を守ってくれる!

「キキ、どうした? 私も話したいことがあるよ! 今、家に帰っているところだけど、どこにいる? 行くよ!」

私は立ち止まって、キキにラインを打ち込んだ。

 

 

「アミ、衝撃の事実をリンゴから聞いたの! ねぇ、セックスって実際にはどうやるか、アミは知ってた?」

キキの家に入った途端に真剣な顔をしたキキに聞かれて、私は面食らった。キキの隣にいるスズまで、「知らないよね?」みたいな顔をして私をまっすぐに見つめてくる。こちらは秘密の恋バナを胸に抱えながらキキの家の玄関に入ったばかりで、まだ靴すら脱いでいないというのに!

「なにそれ? いきなり、何!?」

「って、ことは、アミ知ってた?」

「ちょっと待ってよ!」って言いながらちょっと笑ってしまった。「それよりマミさんは? いない?」キキ母娘がいくら性の話題にオープンだからって、さすがに気になった。

「今いないよー。ま、入って入って!」

「そっか、ビックリするよ、もー。お邪魔しまーす!」

私がリビングのソファに座った途端「で、さっきの質問なんだけど……」と、目の前にキキとスズの顔が迫ってくる。一連の流れが面白くって私はついつい吹き出してしまう。と、同時に二人も笑い出す。

「セックスでしょ? 知ってるよ!」

小さな声で、だけどちょっと誇らしげに答えると、キキが「いやいや」と首を横に振って見せる。

「アミも知っているつもりになってるだけかもよ? だって私もそうだったんだもん。真相を、今日の今日まで、全く知らなかったのよ! スズもだよ! だからもう、私たち、ビーックリしちゃって!」

「え!? 真相って? だから、その、アレでしょ? でも、え? 二人も前から知っていたじゃない。だって、前にコンビニでコンドームの箱を見かけた時に、これを使って妊娠をふせぐんだよねってみんなで話したことあるよね?」

「それは、ある! 男女が裸で抱き合うときに、男の人がおちんちんにコンドームをかぶせることで、精子が女の人の卵子に入らなくするってところは知ってたの」とキキが言う。スズは隣で、ただただ顔を赤らめながら、キキの言葉に頷いている。

「じゃあ、何を知らなかったの?」

思わず聞いた。そこまで知っていて、何を今更ビックリしているのだ。「その……だから……」言いづらそうに、でも先に話し始めたのはスズだった。

「その、入れるってことを、知らなかったの……。ただ、触れるだけかと思っていたの。おちんちんを、女の人のアソコに入れるだなんて……。ううん、入れることができるだなんて、思ってもみなかった!」

「え!! アソコって、お股に? 何を??」

私は思わず叫んでいた。でも、自分で言ってから、話の流れからしてそこに入れるものは一つしかないと気づいて絶句した。

「でしょう?? 衝撃でしょう?? 知らなかったでしょう!?」

キキは、私もその事実までは知らなかったことに大喜びした様子で、目をキラキラされて抱きついてきた。

「え、でもほんとうに、どうやって? え、待って。てか、お股のどこに?」

「え? そこから?」

キキが目を丸くして、抱きついていた私からピョンッとはずむようにして離れた。そして、真面目な顔をして、小さな声で話し出す。

「あのね、ほら、生理の血が出てくるところ。膣。わかる?」

「えっと、えっと、おしっこするところ?」

「ううん。そのとなりの穴……」

「となり? え、大のほうする穴ってこと?」

「違う違う、おしっこをする穴とうんちをする穴の真ん中にある穴。ほら、赤ちゃんが出てくるところ。膣っていうんだよ」

「え……。待って。そんな穴、あったっけ? 私、あるっけ? え……」

私はもうあまりの驚きに放心状態。保健体育の授業で性教育は受けたけど、確かに女性器の絵も教科書にはのっていたけど……。え? 何もわかっていなかったことに初めて気付いてビックリが止まらない。

それに、セックス……。女の人の大事なところと男の人の大事なところが触れ合うだけだとずっと思い込んでいた。

「女の人のそこの穴におちんちんを入れるって……。ちょっとまだ信じれられないかも。だって、ほんとうに、入るものなの?」

どうしても信じられなくって、私は二人に聞く。

「うーん、膣からは赤ちゃんが出てくるくらいだから、大きさ的には入らなくはないとは思うんだけど……」

スズが真顔で答え、キキがさらに説明を始める。

「男の人が興奮すると、いつもは柔らかいおちんちんが硬くなるんだって。ほら、勃起っていうみたい。それは授業でも習った気がするんだよね。で、セックスとはつまり、硬くなったソレを女の人の膣に入れることなんだって! でね、興奮すると女の人のアソコにも変化があって。濡れるんだって。だから入りやすくはなるみたい。

でねでね、女の人が初めての場合は、膣の奥にある処女膜が破れることで出血することがあるって。ほら、まだ経験がない女の人のこと処女って言うじゃない? うちらも初女だから、膜があるみたい。それが敗れると、血が出るんだよ。それが初体験!

マミさんが前に話していた三大出血事件って、そういうことだったのかってやっと謎がとけたの。初潮、初体験、出産。流血を伴う三大イベント! もう、ビックリしすぎて、笑っちゃった!!」

「え。笑えない。私は、ちょっと笑えないくらいショック!! でも、そっか。そうなのか。だから、コンドームをつけるのかぁ。知っているって思い込みすぎていたから、知らなかったことも衝撃……。初めて知ったセックスのほんとう!」

私が言うと、「そう、そうなの! 」とキキが言葉に力を込める。

「セックス=エッチなことだよね、フフフッみたいに私たちも話しながらもどこかフンワリと流していたじゃない? その“フフフ”ってノリのせいで、肝心な情報をとり逃していたってわけ! で、それにしても、よ。ビックリして笑ってたときは気づかなかったんだけど、痛そうじゃない?」

「そうだよ! 私は笑えないよ! 考えたらゾッとしちゃう。絶対に無理。私やだ。絶対に痛いよね??」

「あ。でも」

「ん? でも?」

キキは「んー」と考えているような間を少し空けてから、話し出す。

「エッチなこと考えるとアソコがキュンッてなるじゃない? で、自分で触ったり布団にアソコを押し付けたりしてると気持ちよくなる。だから、最初は痛くっても、セックスそのものは慣れてくれば気持ち良いんだとは、思う!」

 

「え!?」スズが叫んで、「ああ、それはそうだね」と私はドギマギしていることをなんとなく知られたくなくって、わざと冷静を装って頷いてみた。

エッチなことを考えて自分のお股を触ると気持ちがいい。これに気付いたのは小学2年生の頃だけど、あまりにも恥ずかしいことだし、今の今までそんなことをしているのは世界に私だけかと思っていた……。キキもしてたんだ! なんか、ホッとしたような恥ずかしいような……。

そんなことを考えていると、「え!?」とスズが、私たちに向かってもう一度叫ぶ。

「自分で触るの!?」ほとんど絶叫しているスズに、「え、触ったことないの?!」キキがビックリして聞き返す。

私はちょっと笑いそうになってしまった。キキは、天然なのかもしれない、とこういう時にちょっと思う。

こんなことをしているのは世界で私だけかもって思って恥ずかしさを感じていたことに対して、キキは、自分もしているんだから世界中がしているって思っていたなんて。キキのそんな純粋さ、可愛いと思う。

「直接は触らないけど、押し付ける感じでクネクネしちゃってた。幼稚園の頃からだよ? しかも、程よく疲れて、グッスリ眠れるんだよ。身体にいいと思う!」

明るい声で、キキが言い切る。今までの自分の秘密を肯定された気持ちになって、私はますますキキのことが好きになる。

「わかる。けど、恥ずかしいから、人に言ったのは初めてだよ」と、キキの告白にまだドギマギしながら私も言った。

「私は、マミさんに、悪いことじゃないよって言われてたから自然にしてた。でも、人がいるところでは絶対にしちゃダメって言われてたから、確かに私も今、初めてマミさん以外の人にこのこと話した!」

「……えっと、それは、みんな、するものなの?」

スズがポカンとした顔をして私たちを見た。

「ううん。女の人は人によるみたい。しない人もいるみたい。でも男の人は、精子がつくられる年齢になると、それを外に出さなきゃって衝動が起きるから、オナニーは全員するみたい」

キキが発した言葉に、私とスズは顔を見合わせた。え、なんか私、変なこと言った? みたいな顔をしているキキに、私はあえてその言葉をもう一度言ってみた。

「……オナニー」

真面目にボソッとつぶやくと、

「やめてッ! (笑)そんなふうに言わないで!」キキが笑った。

「そんなふうってどんなふう、よ?」と私も笑う。今までなんとなく分かったような気になっていたことが、次々と種明かしされていくみたいで、色々とエッチで、でも真面目な話なのにやっぱりどこかクレイジーで、もうおかしくって笑っちゃう。

「私その言葉初めて聞いた……。ひとりエッチって言われてる行為と同じ? オナニーイコールひとりエッチ?」

スズのセリフに頷きながらも、

「だから、お願い。そんなふうに言わないで!(笑)」ってお腹を抱えて笑っているキキを見て、私も爆笑してしまう。つられてスズも笑っている。女の子同士でするエッチな話って、なんでこんなに面白いんだろう。

みんなで笑い転げていたら、何かをひらめいたような顔をして「あ!」ってキキが言う。「男の人が、おちんちんを自分で触って射精するオナニーって、女の子の生理と似たような感じだね? 身体の中でつくられる赤ちゃんのモトになるものを、外に出すってところが」

「ああ、ほんとうだ」って頷きながら、私はキキとスズ、二人を見ながら続けた。もう誰も笑っていない。私たちは真剣だ。謎を解いてゆく探偵みたいな気分ですらある。

「つまり、赤ちゃんをつくるためには、おちんちんが女の人の身体の中に入っている状態で射精して、その精子が女の人の膣のその奥まで泳いでいって、もし卵に着床したら赤ちゃんができるってことだもんね? で、受精卵を包み込むベッドのような役割をするモノ、が生理の正体。

今月は精子が入ってこなかった=受精していない=ベッドはいらないから血液と一緒に外に流れ出る=毎月の生理なんだもんね?」

「ハァ〜すごい!」とスズが拍手をして、「あぁ〜、だからかぁ」と続ける。

「ドラマとかでも、妊娠していることに生理が遅れて気づくって、そういうことなのね! あと、コンドームをつけてから中に入れることで、精子が卵までいかないようにするってことね! 今、初めていろんな点と点がハッキリと線で繋がったよ。スッキリしました」

いきなり敬語を使ったスズがおかしくって、私とスズはまた笑った。

「でも、理解はしたけど、なんだか信じられない。いつか、私たちもそんなことをする日が来るのかなぁ? ってところが。したいって思うのかな? ってところから不思議。もう、ずっとずっと先、もっともっと大人になってからのことだとは思うけど……」

スズが言う。

「もちろんそう。だって、生理があるってことは、セックスをしたら妊娠する可能性があるってことだから! ちゃんとお金も稼げるようになって、きちんと赤ちゃんを育てられる大人になってからがいいよね、妊娠は。それに、もう小学生じゃなくなるとはいえ、まだ中学生でしょう? 身体の方もね、まだまだ私たちの身体は青リンゴだよってリンゴが言ってた!」

「青リンゴって保健室のリンゴが…??」

ちょっと笑いながら私が突っ込むと、キキも微笑む。

「ぷぷ。そうそう。12歳って、発育途中。例えもう生理がきていても、まだまだ大人になるまでの準備中の子供の身体だし。心の方だってそうだし。社会的な立場からしたらそれはもう当然、セックスをするにはまだまだ早いって!

うんうんって私は頷いたんだけど、でもさぁそれ以前に! って私は言ったの。そんな人生最大レベルの初体験イベントを一緒に経験したいと思える男の人に恋をすること、両思いになること、まずはそこからって思ったら、もう想像もつかないくらい遠い未来って感じがする!

今はまだ、そこまで深く好きな人と抱き合いたいと自分が思うのかもわからない。正直痛そうだし、やりたくないもん。

でも、恋愛とか、キスとか、その先のちょっとエッチな青春とか、オトナになっていくこと自体は、すっごくすっごく楽しみでもある!! ドキドキする!!」

胸がいっぱいって顔をして両手をあげたキキを見て、「今だ」って私は思った。ついさっき起きたこと、思い出すだけでドキドキと脈が早くなるあれは私の  ある意味、これもとても素敵な初体験  

「実は、今日、私、安達と……ううん。私から、安達に……」

消え入りそうな声で切り出すと、まだ言い終わってもいないのに「キャァー!!」というキキの黄色い歓声にかき消された。「え、もしかしてアミちゃん?」スズはメガネの奥から、真っ直ぐに私をドキドキした様子で見つめている。

 

<最終話につづく>

◉LiLy
作家。1981年生まれ。ニューヨーク、フロリダでの海外生活を経て、上智大学卒。25歳でデビュー以降、赤裸々な本音が女性から圧倒的な支持を得て著作多数。作詞やドラマ脚本も手がける。最新刊は『別ればなし TOKYO2020』(幻冬舎)。11歳の男の子、9歳の女の子のママ。
Instagram: @lilylilylilycom