【性教育ワーク連載vol12】知っておこう、性暴力のこと。性加害・性被害を防ぐために(後半)

親子の15分性教育ワーク。前回と今回は、安心して暮らすことや、性加害・性被害についてがテーマです。今回は、性暴力についてです。

「カラダ」「性」「ココロ」は大切なもので、自分自身に決定権があります。そして他の人との間には「境界線」があって、それを越える時には同意が必要です。これが前回のワークの内容でした。

全ての人が「境界線」を守り、自分や他の人の「カラダ」「性」「ココロ」を尊重できればいいのですが、残念ながら同意なく他人の「境界線」を越えて傷つける行為は存在していて、その行為は暴力にあたります。

暴力には、他人を殴る、蹴る、罵倒する、精神的に追い詰める、経済的に困難な状況にする、孤立させるなど、様々な種類がありますが、その中で 「性」をターゲットにした暴力が性暴力です。

この記事のなかで取り上げている内容は「性暴力にはどんなものがあるの?」「性暴力にあってしまったらどうすればいいの?」「子どもから性被害をうちあけられたら、どうしたらいい?」といったものです。

もし、読んでいる最中に辛くなるようなことがあったら、いったん記事から離れて休んでみてください。「子どもに性暴力のことを教えないと!」と無理はせず、自分自身の心の安全を優先してください。

記事の最後に相談先を載せていますので、「専門機関に相談したい」と思ったら、そちらを参照してください。

性について知ることは、時として自分の過去や現在の辛い気持ちを呼び起こすことがあります。私たちが大人向けの性教育講座をやる際におススメしているのは、辛い気持ちを和らげるために、「ほっと出来るもの」を3個決めておくことです。

ちなみに、私たちの「ほっと出来るもの」はこんな感じです。

みさと:チョコを食べる、飼っているイモリを眺める、たくさん寝る
たかお:ストレッチをする、料理マンガを読む、モフモフしたアザラシの人形をなでる

「ほっと出来るもの」を決められたら、ここから今回のテーマ、性暴力についての話を始めます。

性暴力ときいて、どんなイメ―ジがありますか?

性暴力は「不審者」が「突発的に」してくるようなイメージをもたれることがあります。たしかにそういった種類のものもありますが、性暴力の多くは恋人、パートナー、職場の人、同級生、家族、親戚などによって起こされています。性暴力は「知人」が「日常生活の中で、計画的にあるいは偶発的に」してくるものが多いです。

つまり、性暴力は、子どもにとっても、大人にとっても、案外身近に存在しているものなのです。

前回のワークで扱ったような「境界線」や同意について知ることはとても大切なのですが、子どもの場合それだけでは相手が要求した行為がどんなものなのか分からないまま「OK」することもがあり、大きくなってからその時うけた行為が性暴力だと気付く人もいます。

また、「同意したのだから、何をしたっていいだろう」と考え、加害してしまうこともあります。子ども同士の間での性暴力も存在しています。ワークを通して、性暴力がどのようなものなのか、被害にあってしまったらどうしたらいいのかについて、親子で一緒に話してみてください。

それではワークを始めましょう!

今回の15分ワークのお題

①性暴力にはどんなものがあるの?
②性暴力にあってしまったらどうすればいいの?
【大人の方へ】子どもから性被害をうちあけられたら
③スマホに登録を!相談先一覧
④被害者をさらに傷つけることも!性暴力に関する勘違い

①性暴力にはどんなものがあるの?

子どもと一緒に下のイラストを一つずつ、「知ってる?」「見たことある?」など会話をしながら見てみましょう。

性暴力の種類を確認している最中に、もし子どもから「そういえば自分もこんな目にあった」という話が出たら、「③ 子どもから性被害をうちあけられたら」を参考にして、子どもの言葉を受け止めてください。

注意点としては、「スカートをめくる、ズボンをおろす」という行為を「子ども同士のおふざけ」「好きだからやっている」と軽く扱わないこと。「友達の服を脱がせたり、服で隠れている部分を見たりするのは性暴力なんだって」と伝えましょう。

また、「痴漢」も本当にたくさんの人が被害にあっていて、「みんな我慢している」「騒いでも無駄」と言われてしまうことがありますが、これも性暴力のひとつです。

スカートをめくる、ズボンをおろす

自分の性器をむりやりさわらせる

自分の性器を人に見せる

相手がいいと言っていないのにキスやハグをする

はだかの写真をこっそり撮ったり、むりやり撮る

相手がいいと言っていないのに体や性器をさわったり、セックスをする

むりやりセルフプレジャーをさせる

ちかん行為(乗り物や人が集まっている場所などで、体にさわったり、性器をおしつけたりする)

イラストを一通り一緒に確認したら、「性暴力は他の人のカラダやココロを傷つけることで、どれもしてはいけないことだよ。もし、こういうことを誰かにされたり、誰かがされているのを見たりしたらすぐに教えてね」と伝えましょう。

②性暴力にあってしまったらどうすればいいの?

性暴力にあってしまったら、どうしたらいいのかを、もう少し詳しく子どもと考えることも大切です。親に言えないとき、どうしたらいいのかも伝えておきましょう。

「もし、性暴力にあったら、どうしようか。ママやパパに話してほしいなとおもうけれど、話せないときは他の人でも大丈夫。誰になら話せそうかな?」と、相談相手を一緒に考えてみてください。

家族、親せき、保健室の先生、クラスの先生、習い事や塾の先生など、複数人出すことが大切です。

「電話をかけたり、ネットで性暴力のことを相談したりできるところもあるよ。電話やネットが使えなければ交番に言って警察官の人に直接話して大丈夫だよ」と伝え、③の相談先のメモを子どもに渡したり、携帯電話を持っているなら電話番号やURLを登録したりするもおすすめです。

このような知識があると、自分自身だけでなく、友達から性被害を相談された時など、周りの人を助けられるかもしれません。

さて、ここから先は、大人に知っていてほしいことです。

【子どもから性被害をうちあけられたら】

もし子どもから性被害を打ち明けられたら、こう対応してみてください。

まずは「教えてくれてありがとう」と話してください
そして「なにがあったのか」「それをしたのはだれか」と聞いてください

子どもから「性被害にあった」という話を聞いた時、大人が気をつけたいのはショックや怒りのあまり、子どもの話をうけとめきれずに「それ本当なの?」「うそ!」などと言ってしまうこと。あるいは、「5時までには帰ってきなさいと言ってたじゃない!」と、つい責めてしまうこと。そう言われることで、子どもはさらに傷つき、大人に相談ができなくなってしまいます。怒ったり責めたりするつもりではなくても、ショックを受けるとつい出てしまう言葉なので、そういうことを言わないように、普段から考えておきましょう。

また、「なんで?」「どうして?」という問いかけも、子どもは自分が責められているように感じてしまいます。「どんなことがあったのかな?」というふうに言い換える練習を普段からしておきましょう。

子どもの言葉を受け止め、状況を確認したら、学校が警察に相談してください。どうすればよく分からない場合は、専門機関にも相談できます。

③スマホに登録を!相談先一覧

全て、子どもも大人も相談ができる専門機関の連絡先です。

【性犯罪・性暴力被害のためのワンストップ支援センター(内閣府)】
電話:(はじめに#をおしてから数字をおします) #8891 覚え方「はやくワンストップ」
URL:https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html

【性犯罪被害相談電話(警察)】
電話:(はじめに#をおしてから数字をおします) #8103 覚え方「ハートさん」

【Cure time(内服府「性暴力に関するSNS相談支援促進調査研究事業」)】
URL:https://curetime.jp/
こちらは毎日17時から21時にチャットで相談が出来ます。

④被害者をさらに傷つけることも!性暴力に関する誤解・偏見に注意

性暴力に関する誤った情報は多いです。それをもとにした発言をすることで、被害にあった人をさらに傷つける「二次加害」になることがあります。まず大人が理解することが大切。そのうえで、こどもがこの中にあるようなことを言っているのを耳にした際は(すでにどこかで間違った意見をきいていることはよくあります)、親の自分はどう考えているかを伝えていきましょう。

その1「露出の多い服を着ていなければ大丈夫」
その人がどんな服を着ているのかということと、性暴力が起こることに関係はありません。たとえば、痴漢は薄着になる夏よりも春や秋の方が多いです。
「露出の多い服を着ていなければ大丈夫」という誤解、「露出の多い服を着ていたら性暴力にあっても仕方がない」という被害者の人を責める言葉へとつながります。「短いスカートをはいていたから」「派手な服装だったから」と責められることがありますが、それは間違いです。被害を受けた人がどんな服を着ていても、どんな時間でも、どんな状況でも、性暴力は全て加害した人に責任があります。

その2:「男の子は性被害にあわない」
被害にあう人の性別は女性だけではありません。異性間、同性間、色々な性別の組み合わせの中で性暴力はおきています。
「男性なのに性被害にあってしまった」と、被害にあった人が自分のことを責めたり、恥じたりすることで、被害を相談できなくなってしまう人もいます。「女の子だから心配」といった親同士の会話も、男の子をしばることになるので注意しましょう。

その3:「部屋でふたりきりになるのはOKのサイン」
誰かの部屋に遊びに行くことは、「部屋で2人きりで食事をしたり、遊んだり」することをOKしただけのこと。性的な行為をOKしたわけではありません。被害を受けた人へ「ふたりきりになったんだから、自己責任」「考えが甘かった」と言うことは、性暴力をした人の罪を軽くし、被害を受けた人に責任を押し付けているのと同じです。

その4:「性欲は本能的なもの。だから多少の性的なトラブルは仕方がない」
性暴力は「相手を支配したい」という差別的・支配的な感情や、「相手がして欲しがっていた」という認知の歪みが原因とも言われています。どんな理由であれ、性暴力は許されるものではありません。「性欲は本能的に備わっているから」という考えから、特に男性による性暴力を「本能だから仕方が無い」「男の人はそういうもの」と理解されてしまうことがあります。これは性暴力をしている人の味方をしているのと同じです。

その5:「付き合っていたらセックスするもの」「結婚していたらセックスしてあたりまえ」
恋人、夫婦、パートナー、どんな関係性であっても、性的な行為はひとつひとつ同意を取ることが必要です。そして、どんな関係性であっても、同意のない性的な行為は性暴力です。自分自身の関係性も振り返っていけるといいですね。(辛くなることがあるので、冒頭の3つの「ほっとできるもの」を挟みつつ!)

お疲れさまでした! 2回連続で、「性加害・性被害を防ぐ」ことを目的としたワークを載せました。最近はネットやSNS上での子どもへの性暴力も問題になっています。そちらは、以前の連載(vol.7vol.8)に書いてありますので、ご覧ください。

〈次回へつづく〉

次回は、思春期頃のからだの変化に伴う悩みについて扱います。からだの「毛」についてがテーマです。

イラスト/ばばめぐみ ※イラストは12月28日発売の書籍「10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック 変わるカラダのいろいろ編」(ほるぷ出版)から抜粋

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アクロストン

妻(みさと)・夫(たかお)であり、12歳、10歳の子を育てる親でもある、医師2人による性教育コンテンツ制作ユニット。
公立小の保健の授業や楽しく性について学べるワークショップを日本各地で開催。
家庭ではじめられる性教育のヒントや性に関する社会問題についてなどを発信している。

著書:「10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック 変わるカラダのいろいろ編」 (ほるぷ出版)、「3~9歳ではじめるアクロストン式 『赤ちゃんってどうやってできるの?』」、「いま、子どもに伝えたい性のQ&A 、思春期の性と恋愛 子どもたちの頭の中がこんなことになってるなんて!」(ともに主婦の友社)
監修:シールでぺたぺた「おうちせいきょういくえほん」(主婦の友社)

インスタグラム
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ホームページ
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