【性教育ノベル 最終話】「放課後の公園、男子と二人きり」ついに初めての体験

●登場人物●

キキ:雨川キキ。早くオトナの女になりたいと一心に願う。親友はアミ。大人びたスズに密かに憧れを持ち、第7話でついに初潮が訪れた。同じオトナの女になった喜びから、スズにガーベラをプレゼントした。

スズ:キキのクラスメイト、鈴木さん。オトナになりたくない気持ちと、すでに他の子より早く初潮を迎えたことのジレンマに悩む。両親は離婚寸前。小学校受験に失敗したことで家では疎外感を感じている。

アミ:竹永アミ。キキの親友で、キキと同じく早くオトナになりたいと願っている。大好きなキキと一緒にオトナになりたい気持ちから、キキが憧れるスズについ嫉妬。初潮はまだ訪れず。同じクラスの安達春人が妙に気になる存在に。

リンゴ:保健室の先生。椎名林檎と同じ場所にホクロがあることからキキが命名。3人の少女のよき相談相手。

マミさん:キキの母。ミュージシャン。

 

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第17話「初めて知ったセックスのほんとう」Byアミ

Last Talk.

「本物の恋バナ、ファーストキス、青春へ」

Byキキ

    これが恋バナ。
夢にまでみた恋バナってやつを今、している。
場所はうち。マミさんは不在。目の前にアミ。隣にスズ。

 

ついさっきまではみんなで、セックスの真相について真面目に語り合っては所々で笑い転げていたりして大忙しだった。今までのいろんな謎が一こずつとけていって、胸をドキドキ、ビックリしながらも頭と心がスッキリしたところで、アミが意味深な表情をして小さな声で切り出したのだ。

「実は」と。

そこからはもう、いつものリビングが違う景色に見える。私はもう、息すら止める勢いで全神経をアミに集中させている。真っ白なフワフワラグの上にちょこんと座って、アミが恥ずかしそうに話し出す。

「今日ね、放課後、安達と公園で待ち合わせしたの。

でね、ブランコに並んで乗って、話していて。中学のこととか」

「ちょっと待って!」

黙って聞こうと思っていたのに、つい口を挟んでしまった。

「どうやったら放課後二人で待ち合わせようって流れになるの?

もっとちゃんと聞きたい! だってこんな経験は、私も初めてだから」

「え?」プッと吹き出して、アミが真っ直ぐに私を見た。

「親友の恋バナって初めてだよ! あ、もちろん、アミが安達のこと好きって話は聞いてたけど、今日のはそれとはまたレベルが違う感じがする。ほら、誰が誰を好きとかってのは別に、保育園の頃からあったことで。でも今日のアミのは本物の恋バナって感じがするの。だから、一つずつ丁寧に聞きたいの!」

「……え、なんか、そんな真剣に聞いてくれるの、嬉しいかも」って、何故かアミが目を潤ませた。ドキッとした。アミが急にとても大人っぽく見えて、とても綺麗で、ドキッとした。

安達のことが好きだって打ち明けてくれた日も、アミは急に大人びた表情になっていたけれど、また一段とアミはオトナの女の人に近づいたように私には見える。そういえば、安達のことが好きって恋バナをしてくれた時、私は正直に言うとモヤモヤしたのだ。

その理由はシンプルで、アミは安達のこと本当に好きなの? って疑ってしまっていたから。私の初潮の話で盛り上がっていたタイミングだったから、そっちが生理で先に行くから私は恋で先に行くって感じの“負けず嫌い”を仕掛けられたように思ってしまったところがあった。そんなふうに考えてしまう自分の意地悪さも嫌だった。でも    

 

「安達は受験組だったでしょう? だから、結果次第では同じ中学には行けないんだよなぁ、春から会えなくなるのかな、どうなるんだろうって最近ずっと考えちゃってたのね。で、今日、思い切って本人に聞いてみたの。そしたら、受かったよ! って笑顔で言われて。おめでとう! って言わなきゃいけないところなのに、やっぱり寂しくて……」

途中から、アミの声は涙で震えて、潤んだ目から遂に涙がこぼれおちた。その様子を見た私は、ハッとしてしまった。

 

ほんとうに、好きなんだ。

 

そう思ったら、私まで泣きそうになってしまった。感動しちゃったのだ。好きな人のことを想って涙を流す女の子を、ドラマや映画以外で初めて見た瞬間だったから。しかもそれは、大好きな、大親友。アミが恋をした。その事実にガツンと顔面を殴られたような衝撃を受けて、そして、ごめんねって思った。

本当に好きなの? なんて心の中で疑ったりして、アミごめんね。私はまた心の中でだけ謝って、目の前で涙を拭うアミに腕を伸ばしてハグをした。

「大丈夫だよ! 中学校は別になってもスズとも会えるし、だから安達とも絶対にこれからも会えるよ!」

私が腕の中のアミを励ますと、「そうだよ! 絶対会える!」とすぐにスズも続いた。アミは涙をポロポロ流しながらも嬉しそうに微笑んで、

「うん。まさにそう言われたの、安達にも。中学は別になっても、また近所で会おうね!って。でね、私、嬉しくって、でもやっぱり寂しくって何も言えなくなってうつむいてたら、安達がね……」

言葉の続きを待てずに、私はアミから身体を少し離して顔を覗き込む。

「これ、私が安達のことを好きになったきっかけのセリフでもあるんだけど、また同じこと言ってくれたんだよね。いつも寂しそうだよね、大丈夫? って。なんかそれって、いつも私のことを気にかけて見ていてくれたのかな? って思っちゃうセリフでもあるじゃない? しかも、寂しさに気づいてくれた人は初めてだよって気持ちにもなって。もちろん、キキもスズも大好きだよ? でも、女同士の会話の中で寂しさを感じることだってあるじゃない? その……、ちょっと言いづらいけど……、前にキキとスズが生理の話をしていた時に、私だけほら、まだだから……、やっぱりちょっと会話に入れなかったことが寂しくってね……」

目を真っ赤にしながら話すアミを見ていたら、私も泣いてしまった。当事者としてよく覚えているから。今思えば、初潮がきたことに私はちょっと浮かれすぎていた。スズにお花を買ってプレゼントしたりして、よくよく考えたらアミを仲間外れにしちゃっていたように思う。

 

「ごめんね。そうだよね、疎外感をかんじさせちゃっていたこと、本当にごめんなさい」

心から謝ると、「私もごめんなさい」とスズも声を震わせながら謝って、メガネを外して目を拭った。するとアミは、あわてた様子で首を横にふる。

「ううん、ううん! 違うの! それが言いたかったんじゃなくってね。そんな時に男子から突然、寂しそうだけど大丈夫? って言われたら、やっぱりなんだろう、胸の真ん中に突き刺さったっていうか。そこからはもう、安達のことが日に日にどんどん好きになっていっちゃったってことが言いたかっただけなの」

そこまで聞いて、私は羨望のまなざしをアミに向けた。本物の恋……。私がまだ知らない感情を胸に抱いているアミが、とても眩しかった。

「なんて言ったらいいのかわからないけど」と前置きしてから、スズがまたメガネをかけて、慎重に言葉を選んでいる様子でゆっくりと話し出す。

「状況は違っても、すごくよくわかるなぁって。その、誰にもわかってもらえないと思っていた孤独に寄り添ってもらうって、本当に泣きたくなるほど嬉しんだよね。

私も、同じだったから。親の離婚問題で悩んで一人で泣いていた時に、キキちゃんに声をかけてもらって。そしてこうしてアミちゃんとも仲良くしてもらって、本当に本当に救われたから。

だからアミちゃんにとって、それが安達くんだったなら、それは本当に素敵な恋だなぁって思って。なんだろう、うっとりしています、私、今。なんて言うんだろう、今、私、憧れてる、大人っぽくって素敵なアミちゃんに!」

スズが言い終わった途端に、「全く同じく!! ちょー憧れる!!」私は心から叫んでいた。アミがクスクス笑って「憧れるって言われたの生まれて初めて」って嬉しそうにはにかんだ。

そして、「この恋バナ、まだ続きがあるんだけど、いい?」

「もちろん! 早く話して! でもゆっくり話して! 丁寧に聞きたいの!」

アミはフーッと深呼吸をしてから、両手で頬を包んでうつむいて、恥ずかしそうに話し始めた。その仕草がとても大人っぽくって、私とスズはアミから目を離せなかった。

「大丈夫? って気遣ってもらって、それから、中学は別になるけど近所だし会おうね! って言ってもらって、私の中の大好きって気持ちが爆発しちゃったのね。私、気づいたら自分から誘っちゃってたの。今日の放課後、近所で会おう? って。今思っても顔から火が出そうになるんだけど、勇気を出すって意識するより先に、声が出ちゃってたって感じだったの。好きが溢れ出す! みたいな感じで」

息継ぎも忘れる勢いで、私とスズはアミの話に聞き入っている。今まで読んだどんな本より、今まで観たどんなアニメより、続きが気になる。実際に知っている人が登場する、正真正銘のリアルなラブストーリーに、全身が引き込まれる。

「安達は何て??」

ついつい、続きを急かしてしまう。

「安達は、いいよって。じゃあ、一回帰ってランドセル置いたら三角公園に行くから、ブランコのとこいてって言われたの。もう、私、死んじゃうかと思うくらいドキドキしちゃって。その会話の後に帰りのホームルームが始まったんだけど、ちょっと記憶がないくらいなんだ。ダッシュで帰って、髪をちょっとなおしてリップクリームつけて、学校の友達に会わないかソワソワしながら、いつもとはちょっと違う裏道使って公園まで走って行ったの」

「わぁ、わぁぁぁ。聞いてる私がドキドキしちゃうよ〜」とスズまで顔を真っ赤にしている私はもう、声も出ない。

「で、ブランコに座って、安達が来るのを待ってる時間が地獄だった。急に、不安になっちゃったのね。本当に来るのかな? って。ほんの5分くらいの時間だったんだけど、ものすごく長く感じた。途中からは、来るのが遅かったのは自分のほうで、安達は先に来たけど私がいないから帰っちゃったんじゃないかって、そこまで考えて落ち込んで。いや、違う、安達は誘われたから断るのが気まずかったからああ言っただけで、もう忘れちゃってるのかもしれないって思ったりもして。で、もう耐えられないから帰ろうってブランコから立ち上がった時に、安達が公園に入ってくるのが見えたの」

「ッ!!」

もうダメ。アミの気持ちを思うだけで、胸がいっぱいになるし、もし自分がアミの立場にいたらって想像するだけで、嬉しさと恥ずかしさで倒れそうになってしまう。

「安達くんも、ドキドキしてたんじゃない??」

スズが聞くと、アミは「ううん、それが、普通! 普通な感じだったの!」と声を弾ませた。

「私を見て、よお! みたいな感じで片腕をあげて、隣のブランコに座ってゆっくり漕ぎはじめたのね。受験終わって本当オレ嬉しいんだよね〜って。

で、あまりにも安達はいつもの感じだから、逆にすっごい意識してた自分が恥ずかしくなってきて、これを恋だと思ってるのは私だけなのかなって不安も出てきたりして、もう心の中、大忙しで!」

 

「うんうん」私が言う。

「うんうんうんうん」スズも言う。

 

「でも、安達が言ったの。今日誘ってくれてありがとうって。女子と二人で会うのオレ初めてだからちょっと来る前は緊張したって。なんかすごく素直にそんなふうに言ってくれて、私もだよって、私なんか今もめっちゃ緊張してるよって、私も素直に伝えて」

「うんうん」興奮した様子でスズが言う。「うんうんうんうん」私もさっきの百倍のテンションで「うん」ばかり繰り返す。

「で、オレ親にちょっとコンビニ行ってくるって言って家でたからもう帰らなきゃだけど、またここで二人で会おうよって言ってくれたの……!!」

「ええええ!! ヤバイ! ヤバイヤバイヤバイ」って私は「うん」の代わりに「ヤバイ」をバカみたいに連呼していた。だって、それって、それって、両想いでしかないじゃん! 興奮しちゃって、あまりにも嬉しくって走り出したいような気持ちになっている。

「でしょ? ヤバイよねぇ? で、もっとヤバイことに、私、そう言ってもらってもう舞い上がっちゃって、ブランコから立ち上がってバイバイする時に、安達に、その、安達の頬に、私、その……」

その先の言葉に詰まったアミの顔が真っ赤で、その先に続く言葉の予想がついてしまったスズも私も息を呑んだ。

 

「……キス、

キスしちゃいました」

 

うわぁぁぁぁぁぁ!!!!! もう、声にならない叫びがお腹の底から出てきて、私は立ち上がっちゃった。親友のファーストキス!!!!! 目の前で小さくなっているアミよりも私のほうが大興奮しちゃって、

「ウオぉぉぉぉぉぉ!!」

狼みたいに叫んじゃった。私の全身は今、大きな感動で包み込まれている。そんな私に、スズとアミがドン引きしたのかキョトンとしていて、次の瞬間、私たちは互いの目を見合わせて大笑いしてしまった。

アミが言うには、頬にキスをされた安達はびっくりした様子で、でもポケットからスマホを取り出して「あ、ライン教えて?」って冷静な声で聞いたんだとか。なんか、私は、安達を心の底から見直した。大人っぽ過ぎる!! クラスでも目立つほうではないし、私は話したこともないけれど、彼にそんなにクールな一面があったとは!! そしてそれを見抜いて惚れたアミにも改めてしびれている。

「お似合い!! なんか、とってもお似合いなカップルだと思う。素敵すぎる!!」

興奮が止まらない私がそう言うと、

「まだ、付き合ってないよー。もうーせっかち!! でも、中学生になって安達と付き合えたら、本当に最高だなー。ああ、でも本当にもう、ずっとドキドキが止まらなくって」

アミがそう言いながら、スマホをポケットから取り出した。

ラインを交換したばかりの安達のアイコンを見せてくれる。それは犬の写真で「受験に受かったご褒美で、飼い始めたんだって。安達、ワンちゃん飼うのが夢だったんだって。保護犬ちゃんなんだって。超可愛いんだって」と、アミがニヤニヤがとまらない可愛い顔をして嬉しそうに説明する。

「でも、ライン、どうしよ。安達からきてないし、私からもしてないけど、てか、ほっぺとはいえ、自分からキスなんかしちゃって超恥ずかしいし、自分からなんて送ればいいかわからないし、でドキドキしっぱなしでここにきたら、セックスのビックリ事実を聞かされるしで、今日はもう、あーーー、なんだか信じられない1日だよ!!」

「うんうんうん」ってスズが頷いて、私は「うん」って1回だけ深く頷いてから言った。

「なんか私たち、今日のこと、一生忘れない気がしない??」

「うんうんうん」ってアミが頷いて、スズが今度は「うん」って1回だけ深く頷いた。クスッとなった私は、アミとスズにある提案をすることにした。

「なんかね、そういう日には、音楽を聴くといいってマミさんが。その曲の中に、思い出をタイムマシーンみたいに詰め込めるんだって。だから今日、今、みんなでその曲を聴いて今の気持ちを染み込ませておくと、10年後にまた同じ曲を聴いた時に、今の感情がブワッて蘇るんだって。だから、何聴く?? 誰の曲にする?? どの曲にする??」

私たちは話し合って、でもすぐに決めた。

この部屋に三人が集まる放課後に、マミさんが何度かギターで弾き語りをしてくれた椎名林檎の「ここでキスして」。

もう、こんな放課後もすぐに過去に流れていってしまう。私たちは、もうすぐに小学生ではなくなる。スズは引っ越して、違う中学校に行ってしまう。リンゴも赤ちゃんを産むために、保健室の先生を一年休む。今まで当たり前のように過ごしてきた日常は、カタチを変える。

 

だけど、これは終わりではなくて、
今まで育んできた
私たちの友情と絆をもとに幕開ける、
新しいステージのはじまりはじまり。

 

寂しくない、むしろ楽しみ、だけど寂しい。期待と不安、ソワソワとドキドキ。いろんな感情が次から次へと込み上げてくる今を、この想いを、私たちは無言で音楽の中へと染み込ませる。

 

この曲がタイムカプセル。忘れたくない。

      12歳。私たちの記憶。

 

聴いているうちに、

私たちは一緒に歌い出していた。

 

アミが歌う。

きっと安達のことを想っている。

私は歌いながら、マミさんと初めてブラジャーを買いに行った夜の渋谷で目にした、大人っぽい女子高生たちを思い出している。

スズが歌う。

私が急にスズと仲良くなった頃、ヤキモチからアミがスズにダサいって暴言を吐いて揉めたことが、とっても昔のことのように私には思える。

私たちは歌う。

これからも仲良くしてねって気持ちを込めて、今此処にいる私たちを想って私たちは歌った。ちょっと泣きそうになりながら。

すると突然、大音量で椎名林檎を流していたリビングにマミさんが入ってきた。私たちはびっくりし過ぎて、文字通り床にひっくり返った。

「なに、あなたたち、どしたの??」

目をまん丸にしてマミさんが聞く。私たちは目を見合わせて、「秘密!!」と元気いっぱいの声を揃えた。

 

<The End>

◉LiLy
作家。1981年生まれ。ニューヨーク、フロリダでの海外生活を経て、上智大学卒。25歳でデビュー以降、赤裸々な本音が女性から圧倒的な支持を得て著作多数。作詞やドラマ脚本も手がける。11歳の男の子、9歳の女の子のママ。Instagram: @lilylilylilycom

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