トップ脚本家・野島伸司「二次元から世界的バンドを作る!」音楽・ファッション連動のマンガ『シード・オブ・ライフ』に抱く”野望”

『101回目のプロポーズ』『高校教師』『ひとつ屋根の下』……日本を代表する傑作ドラマを手掛けてきた脚本家・野島伸司氏。4月6日より、野島氏が原作を務める新星バンドコミック『シード・オブ・ライフ(以下、シード)』が、JJの特設ページで連載をスタートさせた。本作は、日本から世界進出を志すロックバンドに集った”天才”メンバーたちの群像劇。野島氏ならではの刺激的なストーリー展開はもちろんだが、最大の特徴は劇中に登場するバンドの曲が実際に制作されているところにある。バンドマンガ史上、他に類を見ないこの試みを実現した音楽プロデューサー・Daisuke”DAIS”Miyachi氏(本作の音楽を全面監修)同席のもと、野島氏の”野望”を訊いた。

『シード・オブ・ライフ』のあらすじ

”世界進出も間近”と呼び声の高い日本のロックバンド「CURIOUSER AND CURIOUSER(キュリオサー アンド キュリオサー/愛称:キュリキリ)」。全国ツアーの最終公演、アンコールソング『Spread my wings』が満員の横浜アリーナでファンと一体の大合唱を巻き起こし、感動的なラストを迎えた。ところがその後まもなくカリスマボーカルのカカオが突然、不可解な死を遂げてしまう――。メンバー、ファンともに悲しみに暮れ、誰もがキュリキリの終わりを覚悟した。

カカオが亡くなって1年、活動再開をすべくキュリキリの新ボーカルオーディションがおこなわれる。夢を掴もうとたくさんの青年たちがオーディション会場に集う中、就職面接会場と間違えて参加してしまう就活中の男子大学生・セキ。作詞作曲を手掛けるキーボードのアメが現れ、事態は急展開を迎える……。

二次元のバンドに”実在感”を…曲はマンガのキャラクターが作る

これまで数多くの実写ドラマを描いてきた野島氏。なぜ新たな創作の題材に「音楽マンガ」を選んだのか。

野島「日本のバンドには、韓国のK-POPのように世界で活躍するスターっていないじゃないですか。日本が世界に誇れるエンタメといえば、やっぱりマンガやアニメ。もしかしたら二次元からのアプローチなら、世界に通用するスーパーなバンドが作れるのかなってところが入り口でした。

それから、ストーリーと音楽がフィットするとすごく気持ちいい。これまでも『ここでこの音楽がかかる』と考えながらドラマの脚本を書くことがありました。『シード』もアニメ化されたときに音楽が物語やバンドの世界観とマッチしたら、体感したことがないようなグループ感が出るんじゃないかなと期待しています。

さらに今は、技術的に二次元のキャラクターのステージを再現できる時代になってきています。つまり、バーチャルバンドのコンサートを世界に持っていくのが可能だということ。マンガに感情移入してくれるファンができて、そこにいい曲がリンクすれば、世界で評価を受けることも夢ではなくなります。『シード』でそんなことができたら、おもしろいですよね」

作品の音楽面を支えるDaisuke”DAIS”Miyachi氏は、二次元のバンドの音楽をプロデュースするという前代未聞の挑戦に、どのように取り組んでいるのか。

DAIS「『シード』は、野島さんがゼロからキャラクターを生み出したというより、実在するバンドに野島さんがストーリーを与えているという感覚を大事にしています。たとえば、『セキはこういう声をしている!』という制作チームのコンセンサスが絶対になくちゃいけない。さらにキュリキリは楽曲によって書くメンバーが違いますので、音楽性も書く歌詞のニュアンスも当然、一人ひとり違う。それぞれの個性に合わせて音楽をプロデュースしていく必要があると思っています。

そして何より、ストーリーと融合した音楽が生まれるようにサポートしていきたいですね。存在がバーチャルであっても、この作品にはセキやアメ、カカオなど、メンバーが作った音楽が根底の部分で鳴り続けています。だから、その世界観に入り込んでもらえる楽曲に仕上げていきたい。野島さんが目指されているのも、そこだと思っています」

実制作される音楽は『QUEEN』の存在感+J-POP⁉「キュリキリ」楽曲の創作秘話

音楽について、野島氏から要望はあったのだろうか。

DAIS「野島さんが作品の構想をスタートされた最初のころは、週に2回くらい食事をしながらイメージを共有していました。僕が最初に取り掛かったのは、いずれ公開される”第0話”で演奏される横浜アリーナでのツアーファイナルのアンコール曲から。『ずっと歌いつづけられる』『みんなで大合唱してファンと一体になれる』というキーワードが出てきました。『最後、ラララで合唱できるようにしたらどうですか?』っていう話もありましたよね?」

野島「曲が上がってきて最初に聴いたときに『いいじゃん!』って思いました。DAISさんはいい曲に仕上げてくれるので、安心してお任せしています。真面目な話、音楽のクオリティが高くないとバンドマンガをやった意味がありません。『この程度の音楽のバンドが国民的バンドじゃないし、バズるわけないじゃん!』と、読者に思われたら台無しですから(笑)」

楽曲のテイストも、執筆・制作が進むうちに変化していった。

野島「僕が最初にイメージしていたのは、『QUEEN』の存在感。世界的な音楽スターを作ろうというコンセプトが最初にあったから、『フレディ・マーキュリーとか、「ジャクソン5」のころのマイケル・ジャクソンとか、すごいボーカルってどこにいるんだろ?』といったことから話して、ストーリーと楽曲のイメージを膨らませていった記憶がありますね。あと、日本だったらグループサウンズの『ザ・スパイダース』とか…」

DAIS「世界に通ずるインパクトを求めてヘビーメタルバンドにしようという話もあったんですけど(笑)、作品が進んでいくうちに楽曲のイメージが変わっていきました。野島さんの作られるストーリーはところどころに”トゲ”のような仕掛けがありますし、奇想天外なことも起こる一方で、メンバーたちの個性や生い立ちを含めたストーリーにポップさやカラフルさを感じる部分があり、J-POP的な要素を楽曲に取り入れるなど試行錯誤しました」

ちなみに本作では、メンバーのファッションをすべて現実の一流スタイリスト・袴田能生氏がコーディネートしている。

DAIS「バンドがステージに立つときは、自分たちで衣装を制作もしくは購入するか、スタイリストにコーディネートしてもらいますよね。それで『シード』では、キュリキリの衣装すべてをリアルのスタイリストにお願いすることにしたんです。バーチャルのバンドが現実のプロに囲まれた環境で育っていくのは、おもしろい仕組みだなと」

野島「マンガを読んでもファッションはやっぱり洗練されていますよね。今回の作品は『JJ』で連載するから、ファッションにアンテナが立っている女性たちにも意識を向けました。だからスタイリストがコーディネートするという取り組みは、すごく大事なことだったと思っています。今後、彼らが着ている服が現実世界でも販売されて、『これ、○○で売ってるよ』みたいなに展開していったら、さらにおもしろいですね。

『シード』は、どこからでもファンが楽しめる作品にしなければなりません。たとえば、ある人が『この音楽すごくいい』と思ったときに、『それ、じつはマンガのバンドの曲なんだよ』と誘導できるようにしたい。読者の入り口はマンガでも、音楽でも、ファッションでも、どのルートでもいいから、最終的に『シード』に集まる形にできたらいいなと思っています」

●シード・オブ・ライフの連載はコチラ

profile 野島伸司/のじましんじ

日本のトップ脚本家。伴一彦に師事し、『時には母のない子のように』で1988年実施の「第2回フジテレビヤングシナリオ大賞」を受賞。同年『君が嘘をついた』(フジテレビ系)で連続テレビドラマの脚本家としてデビュー以来、数々のトレンディドラマを手掛けた。代表作に『101回目のプロポーズ』『高校教師』『ひとつ屋根の下』『薔薇のない花屋』、企画担当として『家なき子』などがある。近年は詩や作詞、絵本、小説、マンガにも活動領域を広げている。

写真・飯岡拓也

取材&文・小石原悠介