BiSHセントチヒロ・チッチが告ぐ「渡辺淳之介を崇拝するな」社長との”正しい”付き合い方
6月29日の東京ドーム公演をもって解散する女性6人組アーティスト「BiSH」。解散を目前に”WACKの副社長”ともいわれるBiSHのセントチヒロ・チッチが、所属事務所WACK代表の渡辺淳之介氏と”名物企画”合宿オーディションについて語る。
チッチがBiSHの面接オーディションを受けたとき、前職・つばさレコーズの会社員時代にBiS(第一期)をヒットさせた渡辺さんは”有名人”だった。
「ぶっちゃけ、私は渡辺さんのことをあまり意識していませんでした。渡辺さん個人よりも『BiSを作っている人たちってすげえな』と。じつは面接のときは、どの人が誰でというのをわからずに話していました。
入ったばかりの頃は渡辺さんが怖かったし、『嫌われたくない、怒られたくない』と恐れていて。WACKに入ったら渡辺さんに毎日報告メールをしなきゃいけないんですけど、それが嫌でした(苦笑)。一期BiS時代のプー・ルイさんが報告メールをまとめて本(『BiStory-アイドルを殺したのは誰?-(エムオン・エンタテインメント)』)を出していたのを知っていたから、私も必死にやっていたんですけど、あるとき限界がきてしまって。
ほかのBiSHメンバーはもうとっくに報告メールをやめていて、続けていたのは私だけでした。当時の私は精神的にちょっと変で、『やんなきゃ』って思うと手が動かなくなったりして。めっちゃ重荷だったんですけど、『やらなかったらキャプテンを降ろされるかも』と思ってやめられませんでした。結局ダイエット企画で失敗してキャプテン降格になり、メールもやめました」
結成から7年でBiSHは渡辺さんと一緒に日本のトップアーティストへの階段を駆け上がり、その関係性も大きく変化した。
「今はすごく対等に話してくれる人ですし、『こんなにおもしろい社長いる?』って自信を持って言えるくらい好きです。バックヤードを考える一人として私をいちばん信頼してくれているなと感じるようになったのが、昔と変わったところかな。
一期BiSが解散ライブをした横浜アリーナで私たちもライブやった頃からは、BiSHと一緒に”未知の世界”へ飛び込んでいっているわけで。渡辺さんだって、正解がわからないまま何に対してもずっともがいてると思うんですよ。WACK全体でもいろんなことに失敗して、また新しいことを始めてを繰り返しているから、正解がわかることなんてないんだろうなと思います。
渡辺さんはじつは一番怖がりだし寂しがりなんですけど、そうじゃない人って思われがち。だから、ときどきTwitterでつぶやく弱音は本心なんだろうな、と私は見ています(笑)」
2人の信頼関係は、チッチがトレーナーとして参加した2020年の合宿オーディションに密着したドキュメンタリー映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』に映されている。
これからのWACKに絶対必要だとチッチさんが期待を寄せる候補生を、落選させた渡辺さん。猛然と抗議をしにいくチッチさんだったが、「このまま合格させたら辞めるから」という渡辺さんの言葉に一瞬で納得する名シーンだ。
「渡辺さんが辞めるって言った子は、だいたい辞めちゃうんですよ(苦笑)。あと私は渡辺さんに『なんでこの子をあのグループに昇格させないんですか?』とよく聞くんですが、あのグループには違う子を入れた方がいいという意見に、いつも納得しています。
渡辺さんだけじゃないんですけど、『この人が言うならそうだろうな』と”経験知”でわかっていることがたくさんあって。そんなときでも、これは言い逃れかもしれないと思えば、もうちょっと聞いてみることもあります。
ただ、あの合宿のときの『辞める』は、自分でも絶対その通りになるやつだと直感的に思っちゃって。ショックを受けながら、気づいたら『そうなんだ…』って言ってました。結局、『この子いいよね』って思う子は、渡辺さんといつも同じなんです。『でもここがダメなんだよね』って渡辺さんが言うときは、逆に『そこをどうにか伸ばしてあげたい』と思うんですけど(笑)」
「合宿がおもしろくない」危機を感じた"助っ人"チッチが現役メンバーに喝!
合格、昇格、落選――参加者の人生を変える瞬間が続く6泊7日のあいだ、24時間ずっとニコニコ生放送で中継されているのがWACKの合宿オーディションだ。チッチの視線は、トレーナーを務める現役メンバーにも注がれている。
「他人の人生がかかっているので、WACKメンバーには中途半端な気持ち行ってほしくないなと思っています。私自身、自分の候補生に対する姿勢が人生を変えると思って合宿に行くから、すごく感情移入しちゃって。自分たちもいろんなことに気づかせてもらえて成長できるので、とても意味がある場所です。
合宿では、そこに立ったからこそ見えてしまう”悪い部分”が容赦なくさらされます。合宿がなかったら、ぬるま湯に浸かったような気持ちでいる現役メンバーもたくさんいると思うし、決して候補生だけじゃなくて参加する全員にとって”修行の場”なんです」
これから初めて見る人に、WACK合宿オーディションの見どころを挙げるなら?
「オーディションってルックスとか歌やダンスの上手さが見られがちなんですけど、WACKの合宿の良さはそこにはありません。パフォーマンスが上手い下手じゃなくて、どれだけ候補生が真剣に立ち向かっているかと、一方でまわりが見えているか。あと基本的なとことで、恥ずかしがらないことや、目つきも大事ですね。そういう”素顔”を観て、応援していただけたら。
WACKのオーディションはとくに”独りよがりになっちゃう子”が落ちるんですよ。たとえば私が最後に行った2022年の合宿だと、候補生だったチーチー(合格してASPに加入したチッチチチーチーチー)は自分だけしか見えなくなりかけてて、ギリギリだったと思います。でも元々パフォーマンスのポテンシャルは高かったし、まわりを見ることができるようになったから受かったのかなと」
生中継され、ドキュメンタリー映画にもなるこの合宿は、オーディションであると同時に”エンターテインメント”でもある。
「2022年の合宿は、行く前から観ていておもしろいと思う瞬間が本当に少なくて、すごく危機感を感じていました。結局、合宿をどう変えていくかは現役メンバーにかかっているはずなんですが、”こなして”いるようにしか見えなかった。それに比べると、たとえば2021年の合宿は普段そんなことしないタイプの子が候補生に必死で思いを伝えていて、現役メンバーが頑張っている姿がおもしろかったんです。
候補生たちも年々スペックが上がってきていて元から出来る子が多かったし、ニコ生や映画で勉強した”合宿の正解”みたいなものに寄せてきていたから、余計つまらなかった。現役メンバーからも候補生からも『これがしたい』という意思が伝わってこなくて、『この合宿、このままで大丈夫かな』って」
ニコ生で見守っていたチッチさんは、助っ人トレーナーとして4日目から1泊2日で参戦。現地で”動く”ことに。
「『合宿は所属グループを背負って行くもの』といわれているんですけど、私は本当にそうだなと思っていて。どんな環境でも『BiSHってこんなもんなんだ』って思われたら情けないし、後輩たちにも申し訳ないですから。
BiSHからはハシヤスメ(・アツコ)が代表で参加したんですけど、合宿での様子を見て私たちは正直あ然としていました。私が1泊2日の助っ人として最初に行くことになっていたので、ハシヤスメを叱咤してきてほしいと行く前にメンバーみんなから言われて。私自身もちゃんと伝えなきゃと思っていたから、『これじゃBiSHとして恥ずかしいよ』って合宿中に面と向かって話しました」
その思いは、後輩にも伝えられた。
「個人的に、月ノ(ウサギ[GANG PARADE])に対しても思うところがあって。彼女は私がBiSH代表で参加した2020年から毎年合宿に行っていたんですけど、『3年連続で行く意味を考えた方がいいよ』と伝えました。
月ノはアイドルとして超完璧なのに、私と一緒ですごく頭が固いのがもったいないんです。合宿中のコント課題で殻を破ったり、合宿を通じて少しずつ変わってきたので『惜しい!』と前から思っていて。月ノからも『どうしたらいいですか?』と聞かれたので、『合宿の意味を考えて動けるといいね』って話したんです」
後輩から畏怖を集める"先輩チッチ"が「怖いと思った候補生」とは?
1泊2日の助っ人でも、相手が候補生でも、チッチの真摯な姿勢は変わらない。就寝前の自由時間、ある候補生から焦点の定まらない相談を持ちかけられると、延々と同じ話がループしながら、30分近く話を聞き続けた。
「その子がずっと微妙な顔をしていたから、そのままじゃ気持ち悪いし、私も納得できないまま終わりたくなくて話し続けました。しゃべっていて怒っても響かないない子だと思ったので、ヒートアップしないで話そうと決めていて。怒ることが効く人とそうでない人では、普段から話し方を変えています」
そんななか、期待を寄せていたメンバーが……。
「候補生のときからおもしろかったのが、リオンタウン(合格してASPに加入)。私は合宿に行くとみんなから怖がられることもありますし、2022年のときは『チッチさん、チッチさん』とみんな慕ってきてくれたんですが、リオンタウンだけは『…押忍』という距離感で。むしろ私がちょっと怖いなと思ったくらい(笑)。
それで、『この子、変わってる。なにも怖がらなそうだし、入ったらいいな』と思いました。そしたら受かってました。これからWACKを変えていってくれたらいいですね」
合宿をはじめWACKの伝統が受け継がれていくなかで、チッチさんには後輩メンバーにどうしても伝えたいことがある。
「渡辺さんを崇拝するのをやめてほしい。ちゃんと考えて渡辺さんと話したほうが、もっと”WACKのよさ”を出せるようになると思っています。『渡辺さんが…大人たちが…』と頭が固くなっちゃっている後輩メンバーをよく見るんですけど、言うとおりにすることを渡辺さんは求めていないし、すごくもったいないなって。
崇拝対象じゃなくて”プロデュースをしてくれる人”として見て、話をたくさんして、ときにぶつかって。みんなが『目の前のお客さんたちは”自分たちにどうあってほしいか”』を、もっと渡辺さんと一緒に考えられようになれたらいいなと思います。しっかり目の前を見て、愛情を込めていろんな人に接することが、何より大切だから」
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※6月11日(日)23:59まで
profile/セントチヒロ・チッチ(せんとちひろ・ちっち)
2023年6月29日の東京ドーム公演をもって”楽器をもたないパンクバンド”BiSHで、2015年の結成時から活動中。グループではリーダー的な役割を果たす。音楽、ファッション、フィルムカメラ、カレーと趣味は多岐にわたり、スパイス探求番組『スパイストラベラー』(フジテレビNEXT)でMCを務める。またソロアーティスト「CENT(セント)」としても活動中。2ndデジタルシングル『すてきな予感』が好評配信中。
Twitter:@Chittiii_BiSH
Instagram:@cc_chittiii_bish
写真・Takuya Iioka
ヘアメーク・Chigira[RIM]
ロケーション協力/Studio Clara[ADDICT_CASE]
※「月刊WACK」は6月11日(日)23:59まで公式サイトで予約受付中