「大人は恋と仕事を両立できますか?」上野千鶴子先生から読者の悩みへの回答は…|CLASSY.
「仕事を優先すると恋愛がうまくいかなくなるのでは?」「今のカレと結婚するとなると、仕事を続けられるか迷う…」選択肢があるからこそ悩む、CLASSY.世代。フェミニズムの第一人者であり素敵な女性の、上野先生にモヤモヤを聞きました。
仕事と恋愛は両立できる。世間や親のプレッシャーからもっと自由になって
「上野先生のフェミニズム関連の著書はどれも何回も重版されており、日本でもここ数年特に女性活躍の波を感じます。CLASSY.読者も働く女性が多いんです」
日本の今の「女性活躍」のかけ声は、単刀直入に言うと人手不足が原因。多くの企業が女性にも活躍してもらいたい、と考え始めたということでしょう。女性が急速に高学歴化して、彼女たちが企業に入り、男性からしたら、使ってみたら使えたということ。女性は能力が高いから、あたりまえですが。
中国では私の著書「上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!」が13万部売れたとか、フェミニズムがブームです。東京大学の女性比率は2割ですが、中国のトップ大学である北京大学の学生の男女比は半々だそう。日本では娘より息子により教育投資を傾斜配分する傾向がありますが、中国にはひとりっ子で大事に育てられた娘たちがたくさんいて、教育にもお金をかけています。結果的に、成績さえ良ければ性別問わずにいい大学に入るようです。
日本では親が娘に「がんばって東大に行け」とはなかなか言いません。逆に「東大に行ったらお嫁に行けないよ」と水をかけるようなことを言う。以前は、娘に浪人をさせる親も少なかったと思います。私の体感では、2000年代以降、東大女子の浪人経験率は上がっています。東大をめざしてもう一踏ん張りする娘を、親がサポートする傾向が高まっているようです。
経済的自立は恋愛の資源、どんなときも収入源は手放さずにいてほしい
「自立した女性は恋愛も有利でしょうか?気を付けるべきことはありますか?」
最近読んだ石島亜由美さんの『妾と愛人のフェミニズム』(青弓社、2023年)に、戦前の妾が、戦後は愛人に変わったと書かれていて、面白い指摘だなと思いました。この変化の背景にあるのは、依存ではなく自立する女性が増えたということ。妾は囲うもの、養うもの、お金のかかるもので、いわば男の財力の証でしたが、愛人はお金がかからない。自立した女性は、自分で自分をメンテナンスしてくれるので、甲斐性のない男性でも愛人が持てるようになりました。経済的自立は恋愛の自由の基本のきですが、女性の自立は男性に都合のいいことなのかもしれません。自立した女性が、なんだか家父長制の補完物のような気もしますね(苦笑)。
それは妻の方でも注意すべきこと。妻に家庭の負担を一切押しつけて、愛人が美味しいところだけ持っていく、という事態も起こり得ます。恋愛は自由ですからいつでも止められるけれど、結婚したらそう簡単に妻という立場から降りることはできないですから。だからこそ、離婚を選べる自由を持っておくことが大切です。今や離婚は珍しいものではありませんが、離婚理由の3分の1はDVというデータもあります。若い夫たちもけっこうDVやモラハラをやっていますが、今の妻たちは昔の妻と違って、ガマンしなくなったということでしょう。離婚できる条件を確保するためにも、収入源は絶対に手放さずにいてほしいですね。
「仕事を優先していると、彼に浮気されたという話もよく聞きます」
あなたが仕事を優先してもしなくても、この彼はきっと浮気をしたでしょう(笑)。仕事が忙しいかどうかは関係ありません。よく、「忙しいので恋愛ができない」とか「出会う機会がない」という声を聞きますが、時間資源は恋愛の妨げにはなりません。ヒマな人が恋愛をするわけではないし、どんなに忙しい人でも恋愛する人はします。恋愛は寸暇を惜しんでするもの。育児となると時間資源が決定的なファクターになるので仕事と両立できないのは分かりますが、仕事と恋愛が両立できないなんてことはありません。
そもそも恋愛欲と結婚欲は別、というのが私の仮説。若い世代と接していると、恋愛と結婚は別物と考えている人も増えています。彼女たちは結婚しても恋愛欲を諦めません。恋愛と結婚では相手の選び方も違います。結婚相手には親に紹介できない人は選べないと彼女たちは言いますが、恋愛相手にはワルも選ぶ。恋愛と結婚は別なので、それでいいんです。だから、自分にあるのは、恋愛欲なのか結婚欲なのか、切り分けて考えてみてください。結婚欲だったら婚活するとか結婚する気がある相手を対象にするとか、それに相応しいふるまいをした方がよいでしょう。
恋愛はしなくてはいけないものじゃない。食べたくないものは食べなくていいように自分で決めたらいい
「恋愛も仕事もしていないと、なんだか充実していない気になってしまうという声もあります」
2022年に内閣府が発表した「男女共同参画白書」では、20代女性の51.4%が「恋人・配偶者がいない」と回答していました。女性の平均初婚年齢は29歳、男性は30歳なので、20代のうちに恋人がいない場合、その年齢までにゴールインできる可能性は低い。そもそも誰かと付き合ったことも結婚願望もない20代の男女が相当数増えている現状があります。
そもそも恋愛欲も結婚欲もなければ、無理にしなくてもいいでしょう。恋愛しなくても楽しいことはいっぱいあるし、男性よりも女友達と出掛ける方が盛り上がることもあります。男性との食事では、相手の懐具合に忖度して手頃なレストランを選び、本当に自分が食べたいものは身銭を切って女友達と行く方がラク、という意見も最近よく聞きます。もっと、世間や親のプレッシャーから解放されたらどうでしょうか。食べたくないものは食べなくていいように、恋愛しなくてすむのであれば、それでいいじゃないですか。恋愛も結婚も、もっと外圧から自由になって、自分に正直に生きたらよいと思います。
教えてくれたのは...上野千鶴子先生
CHIZUKO UENO
1948年富山県生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学・ジェンダー研究の第一人者で、近年は東大祝辞でも話題になった。写真の著書は『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』(田房永子氏との共著/大和書房)『限界から始まる』(鈴木涼美氏との共著/幻冬舎)『女の子はどう生きるか教えて上野先生!』(岩波ジュニア新書)など。他著書多数。