男役トップスターがヒロインを演じるまで。元宝塚・望海風斗さん、退団後の一年を語る

退団後もさまざまなフィールドで活躍し、輝き続ける宝塚OG。今回は、 圧倒的な歌唱力、芝居、ダンスと三拍子揃った男役トップスターとして一時代を築いた望海風斗(のぞみふうと)さん。 退団から一年、次々と話題作でヒロインをつとめる望海さんに、 男役という枠から解き放たれた美しい生き方についてお聞きしました。

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ときめきの瞬間に人は美しくなると思っています

お話を伺ったのは……望海風斗さん

《Profile》
神奈川県出身。小学4年生で宝塚と出合い、男役への憧れを温め高校生で受験。2003年、89期生として次席入団。花組に配属後、新人公演、バウホール主演を重ね、2014年雪組に組替え。2017年『ひかりふる路/SUPER VOYAGER!』で雪組トップスターに就任し、『ファントム』など名作に出演。2021年4月、ベートーベン役を演じた『fff/シルクロード』をもって退団後は『DREAMGIRLS』など話題作への主演が続く。2023年第48回菊田一夫演劇賞など受賞多数。

──宝塚では退団発表直後にコロナ禍となり、退団公演も延期に。精神的にも大変だったのでは?

トップってずっと走り続けているので、皆さん退団したら一度休んでリセットする必要があるんですよね。私も退団を決めた時は、ゆっくり休んで旅行に行き、インプットする時間を作りたいと思っていました。

でも自粛期間があったおかげで、退団前に今後のことをじっくり考える時間ができて舞台に立ち続けたいという気持ちを確認できたのは、無駄ではなかったと思っています。男役にすべてを懸けてきたので、女性として演じることに躊躇がありましたが、新しいことに挑戦して視野を広げてみたいという気持ちになれました。

──舞台『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』でもセクシーなヒロイン、サティーンを見事に演じられていました

退団後に『ムーラン・ルージュ』のオーディションを受けたんです。初めての挑戦でしたが、今後の役に立つと思いまして。女役に自分でもすごく違和感があり、でもお芝居って楽しい! と思えたんですよね。そこで課題も見えてきて、その後出演した『ドリームガールズ』などを経て少しずつ女性を演じる壁を乗り越えていった感じです。

今でも稽古中にぶつかり合う強いシーンになると、つい目に力が入ってしまい、相手役の方に「目が怖い」と言われることはありますが(笑)。

──逆に宝塚の経験が役立っていると思うことは?

大劇場にどう立つか、どう自分を見せるかの感覚、特にショーシーンの時の経験です。でも宝塚ではリフトする側だったので、今、男性にリフトしてもらう時はどうしたらきれいに見えるかを考えています。「ありがとうございます」と感謝しながら(笑)。

──舞台で表現したいことも変わりましたか?

ミュージカルって現実を離れて違う世界観に浸る非日常の時間。それは宝塚も今も変わりませんが、男役として守らねばならない一線がなくなって、今はもっと生身の人間を出せるようになりました。

芝居は相手役に向かうけど、歌は客席に向かいます。きれいに歌うというよりすべてをさらけ出して歌うことで、見ている方も心を解放できる気がするんです。観客との一体感を感じられる、そんな瞬間を作りたいと思って歌っています。

──お忙しい日々ですが、お休みが取れたら何をしたいですか?

旅をしたい! ヨーロッパを周遊してお城を見たり古い歴史を辿ったりしたいですね。私が旅の計画を立てるとなぜか休館日に当たったりちょっと惜しいことになるので、計画は誰かにお任せしたいです(笑)。

──最後に、望海さんにとって美しく生きるとは?

心のときめきを感じることを大事にしています。コスメを選ぶ時間や、推し活もそう。ときめきが輝きを与えてくれる気がします。何より舞台に立っている時が一番ときめく時間。女性用の服も選べるようになったし、ときめきの幅が広がりました。今はそれを思い切り楽しんでいます。

望海風斗さんからのメッセージ

「目下の私の推し活はBTSのVとパク・ソジュン。Vは本当にきれいでクラシカルな雰囲気もあるし、人間性も素晴らしいんです。同じくBTSファンの友達から送られてくる情報を見ながらときめいています」

《衣装クレジット》
コート¥97,900、パンツ¥60,500(ともにディウカ/ドレスアンレーヴ)ネックリング¥138,600、バングル¥74,800、ピアス¥47,850、イヤカフ¥154,000、中指のリング¥41,800、人差し指のリング¥31,900(すべてジョージ ジェンセン)サンダル、ベルト、インナー(スタイリスト私物)

2023年『美ST』11月号掲載
撮影/八木 淳(SIGNO)〈人物、静物〉 ヘア・メーク/yuto スタイリスト/早川和美  取材/稲益智恵子 編集/石原晶子

美ST