オリンピック柔道金メダリスト松本薫さんが、引退後に”アイスクリーム屋さん”になった理由とは

4年に一度の祭典で世界中を感動の渦に巻き込むオリンピアン。引退後、皆が指導者や競技に関わる職業に就くわけではなく、選ぶ道は人それぞれ。でも新たな道を決めるきっかけとなったのは、やはり「選手」だったからこそ見えた景色、出会い、思いだったようです。

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松本 薫さん 36歳・東京都在住
(株)ダシーズファクトリー勤務
柔道 ’12 ロンドン五輪 金メダル ’16 リオデジャネイロ 五輪 銅メダル

アイスを通じて笑顔を届けたい。
柔道とは違う道でもすべてを全力で

「アイスクリームつくります」という引退会見が記憶に新しい松本薫さん。オリンピック2大会連続でメダルを獲得した選手のセカンドキャリアとしては異例、と注目されました。

引退を意識し始めたのは第一子を出産したあと。「子育てで思うように練習ができなくて、〝野獣〟になる作り込みができなかったのですが、試合に出場すると、あろうことか、勝ててしまったんです」。そんな経験から、柔道がつまらなく感じ、勝つことが面倒だなと思うようになったそう。「大事な試合の決勝戦では負けてしまったのに、『悔しい』という気持ちが湧きませんでした。子供との時間を削ってまで柔道をするよりも、子供と一緒の時間を作りたいと思うようになったんです」。

引退について考え始めたときは具体的な引退後のプランは決めていなかったといいます。アイスクリーム事業をやろうと決意したのは、所属先の社長と引退について話をしていたときのこと。「元々甘いものが好きなんですが、ジュニア時代から栄養指導があって、アイスやお菓子禁止令が出されていて、なかなか食べることができなかったんです。また、海外遠征に行ったときには宗教によって同じ食べものを口にできない人もいます。そんな経験から、みんなが笑顔になれるアイスクリームを作ろうと、事業に携わることを決めました」。

最初は慣れない仕事に、壁にぶち当たることもあったそう。「最初に感じたのは、集中力の使い方の違い。柔道は数時間だけ集中して練習しますが、事業の仕事は朝から夕方まで働きますよね。それなのに朝から全力で集中して取り組んでいたら、午前中で疲れ切ってしまって。お昼頃には眠くなるし頭痛はするし、抜け殻みたいになっていました」。

人間関係でも柔道との違いがありました。「今までは柔道で勝つという同じ志を持った仲間ばかりでしたが、会社では今までとは違う考えを持つ人たちと仕事をすることになり、戸惑うことがありました。柔道では相手の弱点を探していましたが、今は相手のいいところを探すようにしています。でも柔道の練習に比べたら本当に楽しくて(笑)。アイスクリーム事業を通して、どうやったら会社が成長できるか、どうやって社員やお客様を笑顔にできるかを探している途中なんです」。

未来のアスリートにはこんなエールを送ります。「今やっていることは必ず100%未来につながるから、疎かにせず全力でやること。じゃないと中途半端になってしまう。未来のことが不安になって中途半端にやるよりも、全力でやること。必ずどんな未来にもつながるはずだから」。

元柔道女子57kg級全日本代表。2大会連続オリンピックでメダルを獲得。現在は2人の子育てとアイスクリーム事業に奮闘中。柔道教室や講演会、TV番組の出演など多岐にわたって活躍中。「ダシーズの広報としても重要な業務の一つです」。

<編集後記>自分のためではなく誰かのためなら頑張れる!

柔道は好きではなかったと話す松本さん。オリンピックという目標を達成できたのは、両親との約束があったから。次に子供のために頑張ろうと奮起したそうですが、子育ての時間が大切になったという話が印象的でした。松本さんのお子さんと、我が家の子どもたちが同級生ということが分かり、子育て話に花が咲いた取材となりました!(ライター 星 花絵)

撮影/BOCO ヘア・メーク/野田みなよ〈六本木美容室〉取材/星 花絵 ※情報は2024年9月号掲載時のものです。

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