今まで体験したことのない厳しい修行…女性鮨職人が見た 努力の先に見えた景色とは?

「職人として生きる」――厳しい修業に耐え、強い信念と志を持ち、絶えず高い技術を追求していかなければならない日々。男社会と言われる世界で、彼女たちは何を思ったのでしょうか。男も女も、老いも若いも目に入らぬほど熱中し、心の底から楽しむ――そんな女性職人のエピソードは、私たちの胸を熱くさせてくれます。

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鮨職人 幸後綿衣さん
36歳・東京都在住

辛くて泣いても諦めずに精進。
ようやく理想を体現する店を持てました

福岡出身、中学時代はご本人いわく〝グレて〟いて、勉強は一切せず、髪を染め、スカートを短くしていたそう。中高一貫校でしたが高校に進学できず、東京の高校へ進学。「成績が悪いと痛いめにあうことを学んだので、高校では勉強して成績はトップに」。すると、外見を咎められることもなく、上智大学に進学しました。「4年間よく遊び、アパレルやら飲食やらいろいろなバイトをしましたが、成功できると思えず、就職活動もしませんでした」。

そんなとき、お父さんから「鮨職人になれば?」と言われたのです。「食べることが好きな家庭に生まれ、鮨店にもよく訪れました。確かに女性の鮨職人は希少だし、世界に通用する職業かもしれないと感じたんです」。そこで、仕事を知るため専門学校「すしアカデミー」に入学し、鮨店でアルバイトもしました。「当時、おもしろいと思えることが少なかった中で、鮨職人は楽しいと思えたんです」。

そうして卒業後の’13年、四谷の名店「すし匠」の門を叩きました。「以前、両親と来たことがある店でした。従業員の公募はなかったので、直接電話をして、面接をしてもらいました。すると大将は、『いいよ、でも厳しいよ』とすんなり受け入れてくれました。入る人より辞める人のほうが多いので、来る者は拒まずだったのかもしれません」。

ところが、そこは今まで経験したことのない体育会系の世界。掃除、挨拶から始まり「仕事は同期同士で取り合いでした。1回教えてもらったら、自分の仕事と思って完璧にこなしたいので、休みの日には材料を買ってきて練習しました。ただ勤務時間が長く、家にいられるのは4~5時間ほど。体力的に厳しくて、毎日が辞めたい、辛いの連続でした。母校のキラキラした女子大生が通るのを見ては泣き、同期の17~18歳の男の子に慰めてもらっていました。でも、やると決めた以上は諦めたくなかった」。

その後、大将に相談し、昼営業がなく女性のソムリエもいる「西麻布 拓」に修業の場を移しました。「『すし匠』で挫折したわけです。結果、環境が少し優しくなったからといって、甘えてはいられない。ワインも好きだったので、1年間毎日勉強をして、ソムリエ資格をとりました」。

’15年に「すし匠」の二番手だった新井氏が独立したのをきっかけに「鮨あらい」に入店。’18年に1年のフランス留学を経て、5年後には二番手として腕を振い、個室を任されるまでになりました。自身の店「めい乃」をオープンしたのは、’23年のこと。「二番手というのは、新井さんの味、求めるクオリティ、理想を体現できるということ。何事も自分でやらないと意味がないと父に教えられてきたこともあり、私も自分の店を持ち、味はもちろん、内装から器まで、理想を追求するのが夢でした」。

オープンすると、かつての常連さんたちも通ってくれ、連日満席、予約のとれない店へと成長しました。「お客様は食事を楽しむだけでなく、商談だったり、デートだったり、さまざまな目的で店に来てくださいます。それによって、料理の出し方も変わってきます。カウンター商売だからこその気遣いができるのは楽しく、その分シビアでもあります。技術だけでなく、人間性がよく、魅力的でないといけないといつも思っています。お客様が喜んで帰ってくれることが一番の喜び。また、スタッフが成長し、自分のまわりのみんなが幸せに生きてくれることが私の幸せです。この先の展望は? とよく聞かれるのですが、先のことは考えていません。自分が好きなものを好きな形で出せる今は、ストレスがなく、楽しくて。日々、まじめにやるべきことをやる。今はただそれだけです」。

<編集後記>男社会を変えるのでなく、自分が馴染もうとした努力人

「すし匠」には女性の先輩、後輩もいましたが、今も続けている人はいないそう。そんな中、郷に入れば郷に従う精神で、自分を馴染ませていった綿衣さん。休日には生産者を訪ね、夜にはお酒を酌み交わして信頼関係を深めるといいます。「生産者の顔が浮かぶと泣きたくなる」というほど、料理に思い入れを持つ姿がかっこよかったです。(ライター 秋元恵美)

撮影/吉澤健太 ヘア・メーク/KOUTA 取材/秋元恵美 ※情報は2025年7月号掲載時のものです。

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