子どもが最初に覚える言葉って?「人が言葉を身につけていく過程」が深すぎる!『子どもとめぐることばの世界』誌上読書会

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2児のパパで書評家の吉田大助さんがホストを務めるVERY的誌上読書会。今回は、哲学者・谷川嘉浩さん推薦『子どもとめぐることばの世界』を深掘り。子どもの言葉の揺らぎに寄り添う一冊で、何気ない育児の日常がきらめき出す理由を語ります。

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「今、語りたい一冊」は?
VERY的 誌上読書会

『スマホ時代の哲学』が大ヒット中、
京都在住の職業哲学家
谷川 嘉浩さん

Recommend!

『子どもとめぐることばの世界』
子どもの世界の見え方
を忘れた大人が
ワクワクする一冊

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『子どもとめぐることばの世界』
萩原広道 著 (ミネルヴァ書房)
子どもがどのように言葉を身につけていくかを、発語前、話し言葉、やりとりのステップを通じて解説。乳幼児ママだったら「子どもへの声掛けってこんな意味があるんだ!」と腹落ちする内容盛りだくさん。

「傷つかない育児書」
ありふれた日常が
キラキラと輝きます

吉田 カテゴリ的には「育児書」にも入れられると思うのですが、哲学書のようでもある、不思議な読み心地の一冊でした。
谷川 私自身に子どもはいませんが、“人が変化していく瞬間”に昔から関心があり、読書でもそうしたテーマに惹かれます。著者、萩原さんは作業療法士・公認心理師として現場と研究を行き来しながら、“子どもが世界をどう理解しているのか”を、とても丁寧に言葉にしている。大人から見ると「なぜ?」と不可解に見える行動も、否定せずそのまま観察する姿勢が一貫していて、そこに強く心をつかまれました。
吉田 想像以上にスリリングで、ワクワクする読書体験でした! うちの次女もちょうど2歳で、小さいおもちゃの箱に何故か入りたがるのですが、「これ『スケールエラー』っていうのか」なんて。
谷川 子どもは、「これは“入る”もの」というカテゴリの理解が先にあり、実際の大きさはまだうまく処理できない。子どもの世界では「ちゃんと筋が通っている」というのが面白いですよね。ところで吉田さん、お子さんの最初の言葉って覚えていますか?
吉田 「ママ」でしたね。「パパじゃないのか…」と傷つきました(笑)。
谷川 でも、それが本当に「ママ本人」を指していたかは分からないんですよね。「ママ」という言葉が、「みんなこっちに来て」とか「なんとかして」という意味だった可能性もある。初期は言葉の意味がゆらいでいるということも、この本は教えてくれています。
吉田 そうか、娘は本当は「パパ」と言いたかったのかも(笑)。
谷川 「クック」とかも、靴そのものより「外に行きたい」という合図だったり。実は萩原さんとは大学院の同期で、その縁で「これは靴かどうか」を子どもが判別する実験に立ち会ったことがあります。でも子どもがカゴに足を入れようとする様子を見ているうちに「カゴもスニーカーも…どっちも靴でいいじゃん!」とだんだん思い始めて(笑)。子どもにとっては、足を入れようとするもの全てが靴になる。その意味の揺れこそ、言葉が育っていくプロセスなんです。
吉田 子どもの言葉や行動ひとつに、こんな深さがあるとは思っていませんでした。子どもとのありふれた日常が、きらきらと輝いて見えてきます。ところで、もう一冊迷った本があると伺いましたが。
谷川 アリソン・ゴプニックの『思いどおりになんて育たない』です。親が「こう育ってほしい」と思う気持ちと、子どもが実際に歩む現実のズレを、とても誠実に扱っている本で。
吉田 ご自身の経験とも重なりますか?
谷川 私は完全に「親の思い通りには育たなかった子」でした。親はもう少し普通の道を望んでいたと思いますが、僕は興味の向くほうへ進み、研究の道へ。年収や将来、恋愛のことまで、心配は多かったはず。それでも途中で、コントロールを手放してくれたんですよね。最終的に「どう育っても見守ろう」と思ってくれていたのだと、今は感じています。
吉田 育児書をきっかけに、ご自身の育てられ方まで捉え直してしまう谷川さんの視点に、深くうなずかされました。
谷川 結局、子どもは大人の予定や論理で動くわけじゃない。2冊ともそこが共通しています。子どもを大人の枠に押し込めるのではなく、子どもが世界をどう見ているかに寄り添う視点。そこに大人のほうの見方が変わるきっかけがある。そんな感覚をくれる読書でした。

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『思いどおりになんて育たない』
アリソン・ゴプニック 著(森北出版)
心理学者の著者が、親は「子どもを思い通りに形づくる職人」ではなく「環境を整える庭師」であるべきだと説く。最新の科学知見をもとに子どもの好奇心や学びが育つプロセスをわかりやすく示してくれる。

Profile

谷川嘉浩さん

京都大学大学院で哲学を学び、現在は京都市立芸術大学専任講師。社会の変化を丁寧に読み解き、現代人の思考やコミュニケーションのあり方を考察する著作で注目を集める。『スマホ時代の哲学』は10万部を超えるベストセラー。

[ ホスト ]

吉田大助さん
書評家・ライター。文芸からカルチャーまで幅広く批評を手がける。ロングインタビューをまとめた『別冊ダ・ヴィンチ 令和版 解体全書 小説家15名の人生と作品、好きの履歴書』が発売中。2児のパパ。

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撮影/坂田幸一 取材・文/樋口可奈子 編集/中台麻理恵
*VERY2026年2月号「今、語りたい一冊は?VERY的誌上読書会」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。