投稿開始からわずか3年。noteから10万部超えの売れっ子作家へ【秋谷りんこさんの軌跡】

小説家になるなんて、無理。夢のまた夢、と努力もせずに諦める人が多いなか、他の仕事を持ちながら、地道に書き続け、夢への切符を手にした同世代の女性たちがいます。彼女らの姿を見ていると、自分の夢だって頑張れば叶うのかも、と思えてくるのです。

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秋谷りんこさん 45歳・神奈川県在住

元看護師が投稿を始めて3年で、
売れっ子作家に大転身

24年5月に43歳で作家デビューした秋谷りんこさん。前職はなんと看護師でした。看護師を志したのは、高校生のころ。「人の心理や精神に興味があり、人と接する仕事をしたかったんです。本好きで、文章に携わる仕事をしたいという気持ちもありましたが、安定を選んで、精神科の看護師を目指しました」。

そして短大卒業後は、大学病院に6年、専門病院で7年半勤務。「担当は精神科・閉鎖病棟の身体合併症病床。がんや骨折など、病気やケガがありつつ、精神科の病気も抱えている方が入院しています。患者さんには、自分が病気という自覚がなく、治療を受けたくない、死にたいと思っている方もいます。病気であることを認識してもらい一緒に治療に取り組むのは、大変だけれどやりがいがありました。精神科の看護師くらい、他の人の人生を詳しく知って、内面にまで関わっていける仕事は、他にはないなと。病気の症状から暴言や噓を言う方もいましたが、感情的にならず、言動から症状や病気の段階を判断して対応しなければなりません。そのため、看護師自身が肉体的にも精神的にも安定していることが大切でした」。

その後、28歳で結婚したのを機にパート勤務に移行。「子どもが欲しかったんです。でも、なかなか恵まれず。30歳で婦人科の病気を治療したあと、不妊治療を始めました。これが本当に大変で、数年続けましたが妊娠には至らず、体にも心にも大きなダメージが残りました」。

体調が悪化し、35歳で休職、37歳で仕事を辞め、家に引きこもるようになってしまいました。

体調を崩さなければ看護師を続けていたかも……という秋谷さんですが、デビューから1年半で7作を出版する売れっ子作家に。

「少し回復したのが39歳ごろ。子どもがいない人生を受け入れると同時に、今後どうやって生きていくかを考えるようになりました。そのときにふと、高校時代に抱いた淡い憧れを思い出したんです。40歳からでも文章って書いていいのかなと。それでnoteを始めたんです」。

noteとは、文章や画像、音声、動画を投稿できるプラットホームで、誰でも利用できます。「多種多様な作品の投稿があり、見よう見まねで、日記やショートショート、エッセイ、小説などを投稿しました。本好きが集まってくるので、交流が生まれ、フォロワーさんが感想を寄せてくれたり、お勧めの本や作品を紹介しあったり。やり取りが楽しくて。夢中で投稿し続けました。中には商業作家を目指し、出版社やnoteの賞に応募する方もいて、私も’21年から応募を始めたんです」。

すると、投稿開始わずか3年の’23年秋、note主催の創作大賞で、別冊文藝春秋賞を受賞。翌年5月には作家デビューを果たしたのです。「それまで、看護師の経験が強みになるとは思っていなかったんです。編集者さんから『看護師あるあるとか、休憩中の様子とかを、読者さんは知りたい』と言われ、え? そうなの? と。『シリーズ化される可能性があるので、2作目の準備を』とも言われ、『なわけない』と思っていたのですが、実現して驚いています」。シリーズは累計10万部を超える大ヒットとなり、その後も多数作品を発表。昨年12月にも新刊が発売されました。

noteは誰もが自由にコンテンツを発信でき、読者がコメント等で応援ができるメディア。多くの作家や漫画家等を輩出している。

「大転身と言われますが、私としては、看護師を13年半やって専業主婦になり、40歳で次の仕事を見つけた、というだけ。再就職に近い感覚です。ただ、このタイミングで新しい挑戦をして本当によかったと思っています。40代って、体調も仕事や家庭を含めた環境も変化する時期で、今、岐路にいる方もいるかもしれません。でも今なら、人生経験を重ね、気力体力もあって頑張れるし、失敗してもダメージは少ないはず。まずやってみるのはおすすめです」。

<編集後記> 本はもちろん面白いけれどnote作品も秀逸! 必読です

「商業作家として成功したいわけではないので、売れなくなったら、アマチュアとして書き続けたい」と言う秋谷さん。謙虚な言葉と透明感あるお姿に、ズキュンときました。「小説を書くのが大好きで、今もnoteに投稿している」と聞き、noteも読んでみましたが、こちらも面白い! 新刊は医療ものではない分野。目が離せません。(ライター 秋元恵美)

撮影/吉澤健太 取材/秋元恵美 撮影協力/note Place ※情報は2026年3月号掲載時のものです。

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