「好きな子いるの?」とは聞かない。小島慶子さんに学ぶ「恋する我が子」との関わり方
エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「恋愛」について。
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小島慶子さん
1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外の大学に進学し、一昨年から10年ぶりの日本定住生活に。
『親が恋する我が子にしてあげられることは?』
親子で恋の話、しますか? 子どもの恋をそっと見守ればいいのか、良き相談相手になればいいのか。悩ましいですね。
私と夫は子どもの恋愛には不干渉です。今付き合っている人がいるかどうかも知りません。彼らが自分から話さない限り、「好きな子いるの?」「あの子素敵だよね」などと言うこともない。決めたわけじゃないけど、自然とそうなりました。恋をするのもしないのも、傷つくのも学ぶのも、息子たちの人生。二人を信頼しています。
解剖学者の養老孟司さんは「恋は脳の計算ミス」とおっしゃっています。納得しかありません。あとで振り返って、なぜあんなに夢中に…? と自分が信じられなくなるようなこと、ありますよね。恋は認知の歪みなんですね。それなのに、何か神聖で特別なものだと思われている。恋の達人は人生の達人とか、恋愛経験が豊富な人は人間として成熟しているとか。でも、恋多きクソ野郎やモテモテの性悪女もいます。
恋が成就=100%幸福! というイメージもありますね。確かに両思いは楽しいけど、必ずしも幸せとは限りません。両思いだけど家事負担が偏っているとか、両思いだけど実家の人々が最悪とか、皆さんもいろいろ経験があるでしょう。失恋が自分を強く優しくしてくれたとも言うけどやっぱり傷つくのはつらいもの。
恋愛が特別扱いされるのは、なぜか。ひとえに恋の快楽が強烈だからでしょう。性欲とか独占欲とか支配欲とか、いろんな欲望が発露するのが恋愛関係。感染症やメンタル不調、望まない妊娠のリスクもあります。だからこそ、親は気を揉むのです。我が子が傷ついたらどうしよう。どうかまともな、いい恋をしてほしいと。
では、まともないい恋って、どんな恋なんでしょうか。裕福で平穏な結婚を約束する恋かしら。どなた様にも叱られないような品行方正な恋かしら。いい恋ができそうな相手を冷静に見極めて、好きになればいいのかな。
でも、ある既婚者の恋愛騒動の時に、瀬戸内寂聴さんが言ってましたよ。「恋は雷に打たれるようなもの。誰も避けることはできないんです」と。寂聴さんご自身も夫ある身で恋に落ち、家族を捨て、やがて仏門に入られました。のちに出家の理由を問われて「更年期だったから」とあっさりホルモンのせいにしていらっしゃいます。ホルモン、恐ろしいですね。恋をするのも、世を捨てるのも、脳みそはいろんな理屈をつけるけど、所詮はごく微量の化学物質に振り回されて生きるのが人の宿命なのでしょう。
では、心配性の親にできることはないのでしょうか。我が子が恋の雷を避けることができない運命なら、なすすべはないのか。大丈夫、ありますあります。恋で大事なのは、知識です。我が子にいい恋をしてほしいと願うなら、包括的性教育と人権教育をしっかり行いましょう。市場原理で恋愛至上主義や犯罪まがいのセックスの情報をぐりぐり刷り込まれる前に、幼児期から人体へのリスペクトと相手の意思を尊重する態度を身につけることが肝心です。それが豊かで幸福な人間関係を築くための大事な基礎になります。
それでも寂聴さんの言う通り、恋の雷を避けることはできません。きっとあなたのお子さんもあなた同様にしょうもない恋をするでしょう。傷つくことも、傷つけることもあるでしょう。その苦しみを親が取り除いてあげることはできないですが、これまた事前に教えてあげられることはあります。苦しい時に人に相談したり、困った時に助けを求めるのは大事なことだよ、人を頼ってもいいんだよということです。
痛みを一人で抱え込むと思い詰めたり、視野が狭くなったりしてしまうもの。つらい時は人に頼っていいし、恋愛に限らず、困った時に誰に頼るか、どのように助けを求めるかを自分で決められることが、真の自立です。当事者研究で知られる小児科医の熊谷晋一郎さんの「自立とは依存先を増やすこと」という言葉があります。これは本当に大事なことです。
親は子どもの恋をコントロールすることはできないしするべきではないけれど、手助けはできます。子どもが恋という激しい認知の歪みを経験した時に、欲望をどう扱うのか、自他の身体と尊厳をどのように守るのか、痛みや苦しみとどのように折り合いをつければいいのかを自分で判断できるようにするための知識と経験を、普段の生活の中で与えてあげることができるのです。
もしかしたら大人にも、そんな知識と知恵が必要なのかも。人生は予測のつかない出来事の連続です。ある朝玄関を出た瞬間に、恋の雷に打たれてしまうかもしれません。今ひそかに誰にも言えない苦しい恋をしている人も、いつか穏やかな気持ちで今日を振り返ることができますように!
文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2026年7月号掲載時のものです。
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