自己肯定感の低い私が、「あなたから買いたい」と言わせた接客のコツとは Clienteling Advisory代表・土井美和さん
女性としてこれからのキャリアについて悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。個人として評価され活躍される女性リーダーの方々には、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。今回ご登場いただくのは、一度の出会いを「あなたに会いたい」と永久リピートに変える接客のノウハウを多くの販売員に伝授している株式会社Clienteling Advisory代表取締役の土井美和さんです。(全2回の1回目)
土井美和さん(44歳)
株式会社Clienteling Advisory代表取締役
2001年にルイ・ヴィトン ジャパンに入社。二度の産休・育休を経て、エキスパート、トップパフォーマー、スペシャリストとして活躍。2012年には全国1500名の販売員の中で顧客保有数1位になり、その後も常に150名以上のトップ顧客数を保有。2020年に退職し起業。現在はただ販売力をあげる接客ではなく、永久リピート顧客の作り方を他企業に渡り、講演会等で伝授している。夫と18歳の長男、15歳の長女の4人家族。
自己肯定感の低かった私が、ルイ・ヴィトンの顧客保有数No.1の実績を上げるまで
STORY編集部(以下同)――土井さんが、ルイ・ヴィトン ジャパンに入社されたきっかけを教えてください。
高校時代にケンタッキー・フライド・チキンのアルバイトから始め、レストランや居酒屋まで飲食店で働く機会がありました。短期ですが留学もしたので、「英語での接客もしたい」と積極的にコミュニケーションをしていたら、「接客が楽しい」という気持ちが徐々に芽生えてきました。けれども時代は就職氷河期で、就活は難航しましたね。何十社もエントリーしたのですが、唯一合格通知をいただけたのがルイ・ヴィトン ジャパンだったんです。
後日人事の方にお話しする機会をいただけた時に、“店頭に立っている姿がイメージできるか” が採用の視点だったとおっしゃっていたので、当時の田舎くさい私の姿で採用していただけたのは……ご縁でしたね(笑)。
――顧客作りのスペシャリストとして活躍された土井さんは、何を一番大事にして接客されてきたのでしょうか?
ルイ・ヴィトンの商品はどこで買っても同じクオリティですし、同じ価格で購入ができます。でも私から買う意味を感じていただけたらうれしいと思っていたので、「またあなたから買いたい」と思っていただけるための接客をしてきました。そのためにはお客様と販売員という関係だけでなく、人と人とが共感している、その関係性を作り上げることが大事だと思っています。
――具体的にはどのようなことをされてその関係性を築いてこられたのですか?
私が他の販売員と違ったのは、質問と同じくらい私のパーソナルな部分をお伝えするようにしてきたことです。自己開示からお客様との共通点を見つけ、そして会話を楽しむことを心がけてきました。
現在はECが発達しているので、商品の情報は全部そこでわかります。でも実店舗に足を運んでくださり、わざわざ人から買う意味がどこにあるかを考えると、人柄に触れたり、お休みの過ごし方などを聞いてバックグランドを知ることが大切だと思ったんです。「私もこうなんですよ」と1つでも共通点が見つかると、お客様にはその買い物の時間自体も楽しんでいただけます。案外お客様との雑談の中には、商品の提案になるようなヒントがたくさんあるんです。
買い物は体験ごと買う物だと思っているので、 ワンクリックで購入しないからこそ、実際に店舗で商品を触っていただき、販売員との会話を楽しんで「この人から買ってよかった」と思える時間にしたいですよね。それがまた会いに来てくださるリピートに繋がると思っています。
――笑顔が素敵な土井さんだから、お客様との会話が弾む様子が目に浮かびます。ご自身の中での一番の武器は何だと思いますか?
販売員として制服も着ていたので、よく見せようとしていた時期もありましたが、飾らないところかもしれませんね。けれども実は私の一番の武器は“自信のなさ”かもしれません。幼少期から自己肯定感が低く、自信がありませんでした。ちょっとネガティブなワードですが、自分に自信がないからこそ現在まで努力し続けてこられたと思っています。
弱い部分やコンプレックスは誰しもが持っていると思うので、そんなお客様の気持ちにも寄り添えますし、それを話すことでお客様が安心できるので、弱い部分も開示するようにしています。
――接客をしていてうれしかったお言葉やエピソードがあれば教えてください。
私がルイ・ヴィトン ジャパンに在籍していた期間は19年でしたが、先日、長きに渡って大切なお客様でいてくださった方と再会する機会がありました。「土井さんがいたからこんなにルイ・ヴィトンが好きになった」と言われて……その言葉は一番のご褒美ですよね。 泣きそうになりました(笑)。
あとは、当時17歳の高校生だった方と、18年間という月日を経て、もはや販売員とお客様の域を超えた家族のような存在になれた、というエピソードがあります。初めはアルバイトで貯めたお金で商品を買ってくださり、歳も近かったので距離が早く縮まり接客中は楽しい時間を過ごしていました。そこからキーケースやお財布など、1年に一度くらいしかご来店されませんでしたが、いつも連絡してから来てくださっていたんです。
社会人になられてからは彼女を紹介してくれて、「結婚する時は婚約指輪も結婚指輪も土井さんから買いたいです」と言っていただき、うれしかったですね。本当に購入してくださったときには、弟のように可愛く思えました。「挙式に参列してほしい」と招待状までいただき、購入してくださった指輪がチャペルで交換される瞬間に立ち会えたことには言葉にできないほど感動し、この思い出は私の宝物になっています。お子さんが生まれた報告も写真で送ってくれて。もはや親戚のような関係です(笑)。
こんなにお客様に恵まれていた私がこの仕事を辞めることになるとは、この時は想像もしていませんでした。
(後編につづく)
撮影/BOCO 取材/孫理奈
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