堂本光一・主演『チャーリーとチョコレート工場』初日公演レポート【辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2023 vol.51】
ジョニー・デップ主演の映画版でも知られている『チャーリーとチョコレート工場』が、演出・ウォーリー木下、訳詞・森雪之丞、アートディレクション・増田セバスチャン、そして主演・堂本光一という満を持した布陣で帝国劇場で開幕。豪華すぎるカンパニーによる話題の作品の初日公演を辛酸さんにレビューしていただきます!
堂本光一主演で『チョコレート工場』が帝劇に出現!
食欲の秋、チョコレートへの訴求力が高まる季節に帝国劇場で始まった『チャーリーとチョコレート工場』ミュージカル。堂本光一が主演で、映画版でジョニー・デップが演じていたウィリー・ウォンカ役をつとめます。ゆるぎないプロ意識とカリスマ感、そして妖しさが漂う堂本光一にぴったりの役柄かと思い、期待を胸に帝国劇場へ。当然のように満席で、観月ありさ、小堺一機、森公美子、彩吹真央など共演者も豪華です。プログラムに収録された演出や振り付けのスタッフとのスペシャルトークには、堂本光一の以下のような言葉が。「この作品に関して、僕はまあ騙されたので(笑)」「『1幕はちょっとだけの出番。2幕もチャーリーが主役だからその場にいればいいんだよ』みたいに聞いて、『そうなんだ。この年齢になったしそういう役もいいかもね』ってことを言ってたら、ずっと出てるじゃないですか(笑)」チャーリー役の少年はトリプルキャストで3人がかわるがわる出演。ウィリー・ウォンカ役の堂本光一はほとんど出っぱなしです。でも、『SHOCK』シリーズで1900回公演を達成した堂本光一に不可能はありません。
幕が開くと、村を表すセットの階段の上にたたずむウィリー・ウォンカが。やはり堂本光一は階段が似合いすぎます……。年齢不詳の伝説のカリスマ・ショコラティエ、ウィリー・ウォンカはこの村にキャンディショップをオープンさせました。そこにやってきたのがチョコレート大好き少年のチャーリーです。ウィリー・ウォンカの工場で昔働いていたジョーおじいちゃんに話を聞かされ、チャーリーもすっかりウィリー・ウォンカに心酔していました。でもキャンディショップの主がウィリー・ウォンカとは知らず、無邪気にチョコレートの魅力について語り、歌います。少年のボーイソプラノのピュアな歌声に癒されます。一方、堂本光一の歌声は大人の包容力や色気を感じさせました。音程も完璧で安心感が。ウィリー・ウォンカは選ばれた5人の子どもたちを秘密の工場に招待するキャンペーンを打ち出します。チョコレートの中にゴールデンチケットが入っていたらそれが当たりで、秘密の工場への招待状となります。世界中からお金持ちの子どもたちが次々と選ばれていきます。ソーセージ大好きの太っちょの少年、常にガムを噛んでいる少女、何でも欲しがるバレエ少女、TVゲームに夢中の少年など。チャーリーも人一倍工場に行きたい気持ちはあるのですが、家が貧しく、動けないお年寄り3人と母親と同居。食事は腐りかけのキャベツという、困窮した生活でした。誕生日に1枚だけチョコレートをもらえるのが楽しみ、というピュアな少年です。チャーリーの母親・バケット夫人(夫とは死別)を演じているのは観月ありさです。40代の堂本光一と観月ありさが舞台でスターオーラを放つ姿を見ると同世代は励まされることでしょう。ちなみに、特にストーリーでは恋愛が生まれる気配はなかったです。恋愛よりも多幸感をもたらしてくれるのはチョコレート、というメッセージなのでしょうか。
サイケデリックなセットで出演者のテンションもアップ!
チャーリーは、なんとか最後の1枚のゴールデンチケットをを入手。ちなみにプログラムには「Q.あなたが手に入れたいゴールデンチケットは?」というキャストへの質問が掲載されていて、堂本光一は「『自分がステージに立っている姿を観られるチケット』ですね」と答えていました。この自己肯定感の高さも素敵です。チャーリーがウィリー・ウォンカはどういう人か想像するシーンでは、ウィリー・ウォンカが「きっと顔もいいんだろうね」などと自画自賛するセリフで笑いが起こっていました。そしていよいよ秘密のチョコレート工場の見学の日になりました。わがままなお金持ちの子どもたちと保護者が集まってきます。チャーリーはジョーおじいちゃんと一緒に工場の中へ。チョコレート工場の内部は、アートディレクションを手がける増田セバスチャンのファンタジックでかわいくて毒々しい世界観が炸裂しています。そのポップでサイケな空間で、出演者のテンションも自然と上がっているのが感じられました。堂本光一も楽しそうにノリノリで演じています。
工場の中を移動するピンクの船に乗り込んだ面々。「お~い、お~い!」と遠くに向かって叫ぶウィリー・ウォンカ。「みなさんもやってみてください」と促された参加者の親子たちが「お~い!!」と叫ぶと、間髪入れずに「うるせぇな!!」とどなっていました。笑いを呼ぶとともに、ウィリー・ウォンカの危険な性格を表現。工場見学をしていくうちに、わがままな子どもたちはおしおきを受けるかのように姿を消していき……ファンタジックだけれど猟奇的な面もあるストーリーです。一人ずつ子どもがフィーチャーされ、歌ったり踊ったりする時にさり気なく一緒に踊っているウィリー・ウォンカ。しかしお菓子の多幸感の後にはシビアな現実が待っています。チャーリーとジョーおじさんは時折、他の子どもたちを心配するような様子を見せますが、基本的にはウィリー・ウォンカに従順についていきます。中毒性のあるチョコレートに、心も胃袋もつかまれてしまったようです。もしかしたら、逆らわないことで自己防衛する処世術なのかもしれません。「このツアーは災難続きですね~」というウィリー・ウォンカの言葉に「僕は楽しんでるよ!」と即答するチャーリー。権力者に気に入られるコツをつかんでいます。
随所で繰り広げられるアドリブにも注目
小ネタもところどころ充実していて、たとえばガチャガチャのシーンではジョーおじさんを演じる小堺一機が「何が出るかな♪」と軽く歌って、笑いを取っていました。観劇したのは初日でしたが、もしかしたら会を重ねるごとに新たなアドリブも出てくるのかもしれません。ウィリー・ウォンカがテレビに手をかざし「来てます、来てます」というシーンは、昭和生まれにとっては懐かしく笑えます。『チャーリーとチョコレート工場』は子どもが大好きな物語ですが、大人世代の心をつかむ仕掛けも随所にあります。長い間工場を経営してきたウィリー・ウォンカは年齢不詳のキャラです。そういう面も堂本光一と共通しているような……。チャーリーに何度も「おじさん」と呼びかけられますが、おじさん感はありません。もしかしたらウィリー・ウォンカのチョコレートやスイーツを食べている間、集団催眠にかけられているのでしょうか。この舞台も甘いお菓子のように、見る人に一時的に魔法をかけてトリップさせる効果が。でもお菓子と違うのは、血糖値も乱れないし、糖分過多でだるくもならず、副作用がないということです。チョコレートのおいしい季節、実際食べなくてもチョコ以上の幸せの余韻を感じることができました。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」「大人のマナー術」(光文社新書)など。