小島慶子さん、日本の女性は男性の5.5倍も無償労働を・・・40代ママ達は「最小限でいい」|連載エッセイ

エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「みなし力」について。

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小島慶子さん

1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜’23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外大学に進学し、今年から10年ぶりの日本定住生活に。

『多スクは「みなし力」で最小化できる』

「多スクママ」という造語を初めて知りました。辞書に載せたいですね。仕事と家事と育児でやることだらけ、自分の時間なんて排泄時だけ! という人も多いでしょう。

多いという字はカタカナの「タ」が2つだけど、5つにしたい。だって、日本の女性は男性の5.5倍も無償労働をしているんですよ。日本は世界でも突出して女性の負担が大きい国なのです。OECD加盟国中、日本の女性の有償労働時間は4番目に長く、睡眠時間は最も短い。加えて夫の5倍以上の無償労働だから世界一の働きすぎ状態なのですね。

日本ではまだ男性が家事や育児に時間を割ける働き方が浸透していないし、家事や育児は女性がするものという考え方が残っていることも理由の一つだけど、そもそも家事に求めるレベルが高すぎるのかも? とも思うのです。あの片付け女王のこんまりさんですら「子どもを産んだら、片付けるのは無理だってわかりました。子ども達が元気ならOK、自分は歯を磨いていればよし」と語って世界を震撼させたぐらいですから、完璧な子育てをしながらお家をピカピカになんて無理なんですよね。

私も多スクママ時代には、膝から下の世界は存在しないことにしていました。視線を上に。床は見ない。膝下の世界を意識するのは、散らばっているレゴブロックを踏んだ時だけ。足の裏にめり込んだプラスチックの直方体を取り除く時に、部屋の隅に埃の玉が吹き溜まっているのがチラッと目に入っても、脳で消去。大人の生活空間がほぼ全て子ども達のもので埋め尽くされても、床さえ見なければ片付けタスクが劇的に減らせます。

「みなし」って大事です。乾いた洗濯物は、定位置に置いた時点で片付けたとみなす。直径1メートルくらいのカゴを買ってきてソファに置き、乾燥機から取り出してカゴにドーンとぶちまけたら片付け終了です。そこから引き出して着るもよし。これは夫がオーストラリアで10年間ワンオペ育児をした際にも継続されて、我が家の伝統となりました。

子どもが小さかった時は、掃除も2週に一度、家事スタッフの方にお任せしていました。お金はかかったけど、そのぶん親子で過ごす時間や自分の時間が取れるので惜しくはありませんでした。

忙しいと、恨みっぽくなります。時間に余裕がないのって本当に辛いから、わりとメンタルやられますよね。イライラしてドーンと落ち込んで「私がこんなに辛いのは、うざい上司とできない後輩と、油断ならないママ友と手のかかる家族のせい!!」と周囲を恨んで泣いたりします。事実そうかもしれないのだけど、恨むのは全く生産的ではないので、5分くらいでやめておいた方が健康にもいいでしょう。辛くなったらどんどん自分を甘やかし、家事と育児のハードルを下げて、散らかった空間でアイス食べながら「生きてればよし!」と声に出して言う。

人付き合いも最小限でよし、です。ママ友疲労で心身やられるくらいなら、群れずに野良ママでいいのではないでしょうか。私は一貫して野良ママだったので、陰で何を言われていたか知らないけど至って平和に過ごせました。何を言われているか知らなくてもいいの!? と心配する人がいるけど、人の噂話なんて床に散らばってるおもちゃと同じです。見ないと決めたら、存在しないも同然ですから。

「ああこんな忙しい暮らし、いつまで続くの?」と気が遠くなることもあるでしょう。安心してください。今のままの状態はそう長くは続きません。それに、こなさなくちゃいけないと思っている多スクのうち、本当に子育てに必要なことは2割ぐらいです。ただ、多スクは永遠に発生し続けます。子どもが成長すればお尻拭きや送り迎えはいらなくなるけど、塾や部活が始まる。でも子どもだっていろいろ自分でできるようになるから、確実にママにも自分の時間が戻ってきます。

オーストラリアのキッズが持ってくるランチは、オレンジ1個とシリアルバーとかジャムを挟んだパンとか、実にあっさりしていました。夫は息子達のリクエストに応えておにぎりを作ってあげていたけど、学校の売店でランチを買うのもあり。家事にかけた時間と、子どもへの愛情の量は無関係です。完璧な家事を目指すと、忙しい親達は罪悪感を覚え、無理して心や体を壊しかねません。

散らかってていいから、寝ちゃいな! 10年前の自分にそう言ってあげたいです。今戦場のようなリビングでこれを読んでいるあなたも、そのまま寝ちゃってください。なんとかなります!

文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2024年8月号掲載時のものです。

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