小説家・角田光代さんが「韓国ドラマ」に魅せられた理由とは
人気小説家・角田光代さんがすっかりハマっているという「韓国ドラマ」の魅力について、教えてくださいました。
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角田光代さんprofile
1967年3月8日、神奈川県生まれ。1990年に『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞してデビュー。2005年に『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞を受賞し、小説の映像化も多数。最新作に『方舟を燃やす』(新潮社)がある。
単なるラブコメは苦手。 深部に人間の業を 描く作品が好き
◇ 人間の美しさを信じる、熱き作り手の思いに魅せられて
韓国ドラマにハマったのは、コロナ禍に飲みに行けなくなったのがきっかけ。9時から17時まで仕事をして、その後は残業せずに飲みに行く、というのが私のお決まりのスタイルだったのですが、それが一変。仕事後は、まっすぐ帰宅して夕食後に夢中で韓ドラを観る毎日になりました。
私がこんなにも韓ドラに魅せられた大きな理由は、根底に流れる社会への問題意識。それをスピーディにドラマに取り入れ、目を逸らさずにストレートに描く、そこに作り手の意思を感じるから。
例えば、「私たちのブルース」は、障がいを持つ方と1年間対話を重ねて作品に落とし込んだというし、「サイコだけど大丈夫」は、主人公が自閉症スペクトラム障がいの兄をケアする、いわゆる“きょうだい児”問題を描いて、恋愛より何より、登場人物たちがいかに自分自身を解放させられるかをテーマにしているのだと思うんです。
女性差別、ジェンダー問題、経済格差やいじめと重い題材も逃げることなく取り上げるドラマの作り手は、本当に人間の美しさを信じているのでしょう。平等が実現する理想、「良きもの」に価値を置く信念、そこに向かおうとする“熱さ”が感じられるのも、私が“好き”な理由です。
◇ 歴史の過ちを忘れないよう、美化せずエンタメで共有を
韓ドラを観るようになってから、韓国や日韓の歴史に興味を持つようになり、ここ4年で歴史を猛勉強しました。統治時代から終戦を経て、朝鮮戦争、大統領暗殺、民主化運動から現代のろうそく革命……、歴史に関しても社会問題同様に美化せず、誇張もせずに、エンターテインメントにしているのがすごい。韓国って国が狭いし、人口も日本の約半分。その中に複雑な背景がありすぎるから、常に咀嚼してその歴史を忘れないよう、映画や文学でくり返し取り上げて、世代を超えて共有しようという意思が感じられるんです。
私がハマるきっかけとなった「愛の不時着」は北朝鮮と韓国の男女の恋愛を描いたドラマですが、常に役中の俳優さんが自らの気持ちをしゃべり続けているのが印象的で、セリフが多い作品です。これは北朝鮮と韓国、言葉が通じ合うのに戦わねばならないという背景があるからこそ、より言葉でわかり合おうとするからではないでしょうか。歴史の汚点をも美化しない姿勢に敬意を覚えます。
◇ 10話からが見どころかも!? 骨太作品に挑戦を
7年ほど前、私の小説『紙の月』も、韓国ドラマ化のお話をいただきました。年に一度くらい、難航中という連絡が来てはいましたが、たち消えになるんだろうなと思っていたら、ある時「やっと決まりました」というメールをもらってビックリ(笑)。それも、たった一人で取り組んでいたみたいで。7年にもわたって映像化の交渉を諦めない熱意に感動しました。出来上がった作品は、かなり脚色が入っていましたが、かえってそれも面白かった。日本のドラマはスポンサーへの配慮、コンプライアンスなどでガチガチに縛られているのか、作り手の熱さが不完全燃焼になっているような気がします。
とはいえ、韓国ドラマは、作り手の思いを貫いた結果、10話までは我慢! という作品もしばしば(笑)。「まぶしくてー私たちの輝く時間―」もタイトルだけ見ると絶対観ない! という印象でしたが、10話まで我慢して観ると、“老い”に向き合った作品に、その先は号泣の連続でした。年末年始は、そんな作り手の熱き思いにじっくり付き合ういい機会。我慢の先には思いもよらない感動が待っているかもしれません。
7年がかりで実現した、角田さんの小説が原作の韓国ドラマ。満たされない主婦(キム・ソヒョン)が銀行のお金を横領する衝撃の展開。
撮影/田頭拓人 取材/味澤彩子、柏崎恵理 ※情報は2025年1月号掲載時のものです。
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