【中学受験】野球のために一流校を志望する息子に、親としてベストな選択肢は?

『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化された、話題の連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、野球のために中学受験に挑む息子さんと、自身には会社から海外赴任を打診され、選択に迷うお母様からの相談です。

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【今月の質問】

野球のために慶應を志望するようになった息子
親としてベストな選択肢が何なのか
考え始めてしまいました
[受験進路相談室]

Yさんの場合

【家族構成】
夫、長男(小4)、長女(4歳)

【今回相談する子どもの状況】
小4の息子は小さい頃から野球に夢中。高校野球で見た慶應の野球部で野球するのを夢見て、「慶應に行く」と頑張っています。とはいえ塾での偏差値50と中堅層なので、現実のシナリオをどう持つか悩みはじめております。慶應一本で落ちたら公立に行くのか、野球の強い学校を探して併願するのか、野球のことを考えずに現実的な併願校を探すのか…。学区の公立も悪くないのですが、私個人としては、公立の中学から慶應高校に推薦で入れるほど野球でいけるかもわからないし、なかなかキャラが濃いので先生との相性で内申も取れる気がしないし、ケガとかもあるし…。慶應でなくても、今勉強して中学受験で野球が強い学校に入れたら中学高校安心して、むしろ野球に没頭できるんじゃないかと。息子も単純に勝ち負けが好きで、俺、慶應に行くわと頑張り始めた戦いなので、当初の目的の野球からブレるのはやめたい、でもそうなると選択肢が少ないので、それでいいのかと悩み始めてしまいました。

Yさん(相談者):4年生の秋で、もうすぐ5年生だねみたいな感じになってきて、いよいよ中学受験が本格化していくのかなと恐くなっています。でもうちは野球をわりと本気でやっていて、そっちも忙しいんです。塾や模試と野球とどっちをとるかみたいなことも今後頻繁に起きてくるだろうし、野球を続けることを前提にした場合の学校選びもわからないので、相談したいと思いました。究極的に言えば、私すごくいいことだと思うんですが、昔からうちの子は意欲が高いんですよ。やりたいと思ったことはやりたいって、やり抜くんです。

オ(おおたさん):へー、すばらしい。

Y:私は子どものころ、なりたいものなんてない、普通の子でした。でもうちの子は、メジャーリーガーになりたい、お金を稼いでお嫁さんをもらって、家族を旅行に連れていくとか、堂々と言えちゃう。

オ:面白いですね。

Y:1歳半くらいのころ、テレビで高校野球を一生懸命見ていたから、野球に興味があるのかなと思って、しゃもじを持たせてみたんです。そうしたら、ぶんぶんそれを振って。小さなバットを買ってあげて、ボールをトスしたら、当たるんですよ。年中さんから地域の少年野球に入って、夫もいまはそこでコーチをしています。夫自身は野球をやったことないんですけど。私は野球に詳しくなかったんですけど、ものすごく頭も使うスポーツなんですね。2023年、甲子園で慶應高校が大活躍しましたよね。あれに憧れて、「俺、慶應に行く」と言い出しました。だったら中学受験という方法もあるよって入れ知恵したら、「俺、塾に行く」と乗ってきました。

オ:お母さんが中学受験の選択肢を見せたんですね。

Y:お友だちが通っているエルカミノという塾に通い始めました。やってみると、偏差値的には中堅で、相当頑張っても慶應には手が届かないかもという気がしています。究極的に考えると、「このひとって自分で未来を選びとる力があるかもしれないのに、私が介入していいのかな」と思ってしまって。

オ:どういうことですか?

Y:オプションをいろいろ考え出したんです、親としては。慶應に入れたら中学受験としては万々歳ですが、慶應に入ったがために、シニアリーグを経て高校から入学した野球の猛者たちの中で、結局ボールにも触らせてもらえないということもあるんじゃないかとか。慶應に入れなかった場合、リアルに考えているのは法政や明治です。逆に例えば桐蔭学園で野球をやるなら、高校から入ったほうがいいんです。中学から入る中高一貫コースでは、全国的に有名な桐蔭学園高校の野球部には入れないんです。慶應、法政、明治を受けてダメなら地元の中学に行って、シニアリーグで野球は続けて、高校進学のときに自分で進路を選ばせたほうがいいかなという気もします。

オ:なるほど。いろいろ考えれば考えるほど選択肢の多さに気づいて、決められなくなる。それはすごくまっとうなことだと思います。「これだ!」って思えちゃうときって、たいてい視野が狭くなってるだけだから。それに子どもの人生に介入していいのか不安になるというのも親としてものすごくまっとうだと思います。お子さんへの信頼も素晴らしいし、バットの代わりにまずはしゃもじを持たせるセンスも最高です。しゃもじを差し出されれば振るし、中学受験を提案されれば乗るし、その親子関係もいいですね。お母さんがお子さんのことをよく見ていらっしゃるのだと思います。

Y:ありがとうございます。

オ:野球を続けることを前提にして中学受験の意味みたいなことを考えているわけじゃないですか。それ自体はとても普遍的な話だと思います。それぞれのおうちに大事にしているものがあって、それを守るうえで中学受験は是か非かみたいなことは、本来みんな考えなきゃいけない。で、この話は、どう進めていけばいいのかな。選択肢って、その三校くらいなんですか?

Y:桐光学園も野球で有名ですけど、大学受験をしなきゃいけないですよね。

オ:最近、桐朋からメジャーリーグに直接挑戦するという選手がいましたよね。

Y:知りませんでした。

オ:大学付属校でなくていいなら、甲子園常連校でなくていいなら、選択肢はほかにもあるような気がします。

Y:県大会にちょっと出られるくらいでいいんじゃないかと、親としては思うのですが、塾の先生からは、慶應を目指すならすべて付属校で固めたほうが対策をしやすいと言われています。慶應というモチベーションは奪ってしまってはいけないとも。

オ:慶應というモチベーションは絶対に奪っちゃダメですね。だったら併願校も付属校で固めようというのは、なるほどいかにも塾の先生らしいアドバイスだと思います。最終的な過去問の対策のしやすさを考えるとそれも一理あるのかもしれないですね。そのへんは私は詳しくないのですが。野球を本気でやりながら、大学受験するのも大変そうだなという観点もありますが。

Y:そうなんです。

オ:まずは野球部が強い付属校で第一志望群を考え、ほかにも野球部が頑張っている学校を第二志望群的に選ぶという二段構えはありかもしれないですね。選択肢を増やすことを考えるなら。公立の中学に進むなら、野球はシニアリーグで頑張るってことですかね。

Y:そうです。

オ:そこで頭角を現せば、監督の推薦で強豪校に入れるんですよね。

Y:でも推薦がもらえなかったら結局高校受験をしなければいけないですよね。それでどんなところに入れるんだろうと考えると、頭は悪くないのにもったいないなと、着地点も考えちゃいます。

オ:まあ、いまそこまで考えても実際にどうなるかはわからないですよ。どう転んでもうまく行くと思うんです、そういう性格の息子さんなら。

Y:そうであってほしいと思います。思春期に変わっちゃうかもしれませんけど、いまのところは。

オ:いまは野球に夢中になっている子が目の前にいるからそれを前提に考えちゃうかもしれないけれど、それもコロコロ変わるかもしれないし。変わらないとしても、野球の神様が微笑んでくれないってこともあるし。

Y:そうですね。怪我とか。

オ:だけれど、それも神様が見捨てたってことじゃなくて、本人の思い通りにならないってことが神様からの贈り物で、人生の糧になっていくことって往々にしてあると思うので。一生懸命やっていれば、どんな結果になろうとも、「ああ、やって良かったな」と思えるので。そういう意味では、息子さんが真っ直ぐ自分の意思を表現できていて、やりたいことができているって素晴らしいと思います。でも実際には既に中学受験のレールには乗っている。慶應は無理そうだとか、慶應には入れてもレギュラーにはなれそうにないとかいう理由で、慶應への憧れをいま諦めさせるのはあり得ないですよね。Yさんは実際にはこのまま中学受験の道を進むんだと思います。いまはいろんな選択肢と比較しながら、中学受験で慶應を目指す理由を明確にしていくプロセスの中にいるだけだと思います。

どんな結果になろうとも一生懸命やれば「やってよかった」に
親がやりたいことをやるのを見せるのも教育のひとつ

Y:もう一つ、不確定要素があるんです。

オ:どうぞ。

Y:私は外資系の会社で働いていて、海外転勤の可能性があるんです。子どもの中学受験をサポートしなきゃいけない時期に母親が子どもをおいて海外赴任ってアリなのかなって。普通はないですよね。夫は「行ってもいいよ」と言ってくれています。夫は自分で家事もできるんです。でも受験サポートまでワンオペでできるかな?と。

オ:でも、世の中的には父親が家のことも中学受験のこともノータッチで、母親がワンオペしているってことはよくあるわけだから、その男女がひっくり返っただけだと思えば、できないことはないと思いますけど。でも、いい話ですよ。息子さんには野球があって、お母さんには情熱を向けられる仕事がある。それぞれに主体的に生きているからこその葛藤だと思います。

Y:誰に聞いても、「いまあなたが海外に行くなんてあり得ないでしょっ!」て言われるなと思っていて。

オ:えー、そうなんですか!? それが世間一般の常識か。僕の感覚だと、ここでお母さんが海外に行くってすごく面白いな、わくわくするなって思うんです。

Y:「Are you mobile?」って上司に聞かれて、「Yes」って答えている自分がいて。

オ:お母さんがそういうキャラなら、それを活かすべきですよ。そういう姿を息子さんに見せることは、中学受験以上の教育的な価値があると思います。そこで「行ってくれば」って言えるお父さんもすごい。

Y:私よりも夫のほうがコツコツ堅実に動くタイプです。一人になったら一人になったで、じいじ、ばあばに頼ったりするでしょうし。

オ:そういうリソースが揃っているなら、いいんじゃないですか?

Y:そうですよね。

オ:やりたいことをやるっていう姿を見せるのも、親としての教育だと思います。お母さんの才能とチャンスと条件が揃っているなら、面白いと思う。そういう息子さんなら主体的に中学受験をやると思います。お父さんも野球を通じて息子さんと関わりをもっていると思うから、その延長線上で中学受験に関わっていくのは不可能じゃないと思います。

Y:みなさん、子どもの中学受験のために仕事をセーブしたりすると聞くから、そうするものなのかなって。

オ:それぞれの人生があるわけだし、お母さんも自分の道があるから。お母さんと離れても、野球をやりたい。何かを手に入れるために何かを失うこともあるってことを学べたら、偏差値1、2上げるよりも価値があるから。縁起でもないことを言いますが、慶應に届かなかったとしても、それはお母さんが海外に行ったこととは関係ない。日本に残ったって受からないかもしれないし、海外に行ったって受かるかもしれない。

Y:息子が野球をやりたい、慶應に行きたいって堂々と言えるのと同じように、私も仕事に対して堂々と言っていいんだなと気づきました。回り道になってもいいから、自分の行きたい道を行くべきだって。

オ:夢破れることだって、人生には当然ある。でも歩んできた道のり自体に誇りがもてるかどうかじゃないですか。中学受験のためにお母さんが自分の道を諦めることはないし、もしそれをやってしまったら、息子に「野球を貫きなさい」って言ってきたことと矛盾してきちゃうし。

Y:たしかに、たしかに。

オ:すごくね、親子の人生のあり方を考えさせてもらいました。

【 おおたさんからひとこと 】

親と子の人生は違うという、ものすごく深い話に、最後はなりました。子どものために自分を犠牲にする親の話は美談になりがちですが、一方で、自分の生き方を子どもに見せることも大事な教育だと思います。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など80冊以上。http://toshimasaota.jp/

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イラスト/Jody Asano コーディネート/樋口可奈子 編集/水澤 薫

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