元『Ranzuki』モデル・鎌田安里紗さんが紐解く「ファッション産業の疑問と課題」って?

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堀田茜が「30代になってなんだか気になる…」と感じるタイムリーな話題を、今会いたい識者に直接聞きに行く連載24回目。今回のゲストは元『Ranzuki』モデルで、現在は一般社団法人unistepsの共同代表理事として「衣服の生産から廃棄の過程で環境や社会への影響に目を向けることを促す企画」を幅広く展開している鎌田安里紗さん。ファッション産業の疑問と課題について紐解いていただきました。

ファッションが好きだからこそ、できることってたくさんありますね

今月のゲストは…一般社団法人unisteps共同代表理事 鎌田安里紗さん

【今月の茜のモヤモヤ案件】
近年、ファッション産業の環境破壊や労働環境の問題がよくニュースになるので実態が気になります。「サステナブル」とはよく言うけれどどこまで進んでいるのか。ファッションを健全に楽しむにはどんな選択ができますか?

「無理な納期、人権侵害。そして環境破壊。ファッション産業にも多くの問題があります」(鎌田)

鎌田:堀田さん、同い年ですよね。
茜:私、高校生の頃ギャルに憧れてたので、その時代にギャルモデルをやっていらしたんだなと思うと今こうしてお話できることが感慨深いです。モデルの経験を通して今の仕事をはじめたんですか?
鎌田:そうなんです。ギャル誌のモデルをしながら、ショップ店員と買い付けもさせてもらってたんです。海外のファストファッションがどんどん日本に上陸して、お客様の服の買い方がデザインよりも価格に寄っていき、店頭にならぶ服の品質が変わっていくことに疑問を持ち、今の仕事をはじめるに至りました。ファッション産業を健康的にしたい想いで、様々な企画、提案、研究を行っています。
茜:モデルのときにたくさん服を着て、販売員のときには売ることもして生産過程も見て、一消費者でもある鎌田さんだから、いろんな立場の方のことがわかりそうですね。
鎌田:生活者としてできることを提案するだけでなく、服を作る企業やデザイナー、行政など、様々な立場の人々と対話し、架け橋となり、いろんな角度からファッション界がヘルシーな状態でいられるように働きかけるのが私たち団体の役割です。
茜:今ファッション産業にはどんな問題がありますか?
鎌田:大きく分けると2つ。1つめは労働環境。問題が浮き彫りになったきっかけが2013年にバングラデシュで起きたラナ・プラザという縫製工場が多数入った商業ビルの崩壊。1100名を超える死者が出た大事故ですが、前日にはビルに亀裂が入っていてビルの使用中止の警告が出ていたのに、オーナーたちは仕事を止めなかった。納期遅延をすると賃金が払われないなどのペナルティがあるから止められなかったんですよね。無理してコストを削っているから古い工場を直すお金もないし、安全を確保できないし、仕事も止められない。その苦労を発注元のブランドに言えないパワーバランス自体が問題ですよね。2つめは環境破壊。ファッション産業のCO2排出量は非常に多く、気候変動の原因になっています。たとえば、服に色をつける染色の工程ではお湯を使うので熱エネルギーが必要で、水汚染の原因にもなり得ます。
茜:ウルトラファストファッションと言われる、信じられないほど安い服もありますよね。
鎌田:服の生産量は2000年以降急激に増えて、過去15年間で2倍に服の価格も所有期間も半分くらいになったと言われているから、そのエネルギーを短い期間で消費することになっています。
茜:人口が急増しているわけでもないのに…。こういう環境問題のことを発信してみたいと思うこともあるんですけど、自分が完璧じゃないから言う勇気がなくて。
鎌田:環境活動をしてる人たちとよく話すんですけど「あなたがそういう物を買うから企業が作るんだ」と環境の問題を個人のせいにする人が多すぎるんですよね。本来は社会のシステムが変わらなきゃいけない。今自分たちがどういう仕組みの中で生きてるのかを学び、自覚していく必要はありますが、完璧に対応できないことはその人のせいではないので。完璧にできない自分を責めるべきではないと思います。
茜:「みんなで共通認識を持ってがんばっていこう」ってできるのがいいですね。
鎌田:ですよね。高校生に向けて講演することもあるのですが「激安な服は買わないほうがいいですか?」と聞かれることがあります。どんなブランドの服でも本当に欲しいものは買って大切にすればいいし、もし生産背景が心配であれば、不安な気持ちをブランドに伝えてほしいと話しています。

元々はモデル出身。ファッション産業に興味と疑問を持ちました

「服一着の背景にあることに目を向けて、何を買うか選ぶ楽しみもありますね」(茜)

茜:一消費者としてはどんな選択ができますか?
鎌田:安さを理由に買って、やっぱり着ないからと早いペースで使い捨てることをなくす。自動で服が出てくる機械なんてなくて、必ずどこかで誰かが縫ってるんです。どんな服も資源を消費し、誰かが作っていることを感じてもらえたら。
茜:そういう情報って、調べて出てくればいいほうで、一着ずつがどう作られたかはほとんどわからないから、考えも及ばないことのほうが多いですよね…。
鎌田:服の製造過程には複雑で長いサプライチェーンがあって、全部を把握することは製造側でも難しいくらい。製品を作る過程で人や環境にどんな影響があるのかを確認しようと思うと、時間もお金もかかります。そのコストも含まれた値段が服の適正価格だと思います。サステナブル製品は高いという声もありますが、今売られている服が安すぎるのかもしれません。
茜:本当ですね。サステナブルな商品やメーカーが増えましたけど、それを調べて買うのも良いですよね?
鎌田:そうですね。ブランドのエシカル度を評価するシフトシーというサイトでは、自分で簡単に調べることができます。私もアドバイザーとして関わらせてもらっているのですが、環境と人権と動物に対してどのくらい配慮してるブランドなのかが5段階評価で出てきます。5000以上のブランドの評価が見られるので、自分の好きなブランドや服の製造背景が気になったらぜひ使ってみてください。最後に、不要になった衣類はただ捨てるのではなく、企業や行政がやっている衣類回収に出すと、服の寿命が伸びる可能性が高まるので、そんな手段も選んでみてもらえたらと思います。
茜:私たちにできることって、意外とたくさんありますね。今日CLASSY.でこのお話をしていただけてよかったです。
鎌田:ファッションをもっと楽しむためにも、今の課題と変化に向けて取り組めることを知って、ファッションとの向き合い方をぜひ一度考えてみていただけたらうれしいです。

\茜の取材ノート/

ここには書ききれませんでしたが、手持ちの衣類のリメイクや染め直しの楽しさについてもお話してくださって、環境に配慮する以上に、その選択を持つことがオシャレで素敵だと思いました。こういう現実を見て見ぬフリにせず、今自分に何ができるか考えながら服を買うこともファッションの一部。そういう選択ができることも楽しいし大人だなと感じます。パワフルでお話が上手で素敵な方でした。

鎌田安里紗さん(一般社団法人unisteps共同代表理事)
1992年、徳島県生まれ。2009年〜2013年までギャル雑誌『Ranzuki』の専属モデル。現在は「多様で健康的なファッション産業に」をビジョンに、衣服の生産から廃棄の過程で環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。消費者庁「サステナブルファッションサポーター」、経済産業省「これからのファッションを考える研究会」「繊維製品における資源循環システム検討会」委員。

[堀田茜さん衣装]ニットベスト¥19,800(アンタイトル)パンツ¥25,300(カデュネ/カデュネプレスルーム)イヤリング¥12,100(アビステ)ネックレス¥184,800(ジジ/ホワイトオフィス)
※鎌田安里紗さんの衣装は私物

撮影/杉本大希 スタイリング/大野由加里[堀田さん分] ヘアメイク/小原愛奈[堀田さん分] TONOE[鎌田さん分] 取材/野田春香 編集/小林麻衣子 再構成/Bravoworks,Inc.
※CLASSY.2025年3月号「堀田茜のほったらかしにしたらアカン!」より。
※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。