すべての女性を、ヘルスケアでサポートし続けたい|WRAY代表取締役 谷内侑希子さん 

女性としてこれからのキャリアに悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。第一線で活躍している女性リーダーの方々にお話を伺うと、そこには、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。今回ご登場いただくのは、女性のためのウェルネス事業を展開する、株式会社WRAY 代表取締役の谷内侑希子さんです。(全3回の1回目)

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谷内侑希子さん(41歳)
株式会社WRAY 代表取締役

大阪府出身。早稲田大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券会社に入社。その後メリルリンチ日本証券、コンサルティング会社、ブランドPRマーケティング会社を経て、2020年にセルフケアブランド WRAY(レイ)を立ち上げる。プライベートでは3児の母で、現在はオランダ・アムステルダムと日本の二拠点生活を送っている。


 

家族経営をする家庭に生まれ育ち、経営に興味を持ったのは必然だった

STORY編集部(以下同)――大学卒業後は外資系金融で働かれていた谷内さんですが、金融の道に進まれた経緯を教えてください。

もともと母が経営者、祖父母も父も経営陣という、家族経営を行っている一家のもとに生まれました。会社はBtoBのメーカーで、母は現役バリバリの社長。家族で食卓を囲んでいる時も経営に関する会話が飛び交っていたし、幼少期から商業的な言葉を浴びるように聞いて育ちました。お金や経済について日常的に触れていたので、潜在意識の中に「経営者になる」という漠然とした思いは既にあったのかもしれません。

そんな背景から、大学では商学部を専攻。授業での学びを通して、資本主義の基盤となる経済にますます強い関心を持つようになりました。そこで、しっかり稼げて、なおかつ将来的にキャリアアップにも繋がる業界を選ぼうと、外資系の金融に就職。入社後にはリーマンショックも経験しました。

――起業するまでに転職を経験されていますが、経緯を教えてください。

新卒からがむしゃらに金融で働いて5年ほど経った頃、夫に海外転勤の辞令が出ました。当時、私は一人目を妊娠中。ちょうど産休・育休を取ろうと思っていたタイミングだったので、思い切って会社を辞め、夫のロンドン赴任に帯同することにしたんです。現地では専業主婦をしていたのですが、次第に“また働きたい”という思いが募ってきて。インターン的な立ち位置で、日本からの仕事をリモートで行いつつ、帰国後はすぐに転職活動を開始。金融に戻るとは決めておらず、ゼロからの再出発でした。その時に真っ先に頭に浮かんだのが、大学の授業で一番面白いと思っていたマーケティング。金融とは違う畑に飛び込もうと決めて、知り合い伝に転職活動をし、コンサルティング会社に就職することになりました。

そこではまず、社内ベンチャーとして立ち上げられたばかりのベビースキンケアのブランドでマーケティングを担当しました。その事業がどんどん大きくなり、あれよあれよという間に私は取締役に就任。マーケティングや商品開発に加えて、採用にも携わりながら充実した日々を送っていました。そんな時、ファッションPRの会社の社長から経営企画で人を探していると耳にしたんです。ずっと経営に近い業務に携わっていたので興味が沸き、その会社で働くことに。事業計画から人事の昇格制度まで、ありとあらゆる経営周りの業務をこなしながら、会社の根幹と全体像を学びました。もともとの気質もあり、経営に関する仕事は面白くて仕方がなく、夢中で取り組んでいましたね。

――起業することになったきっかけは、何だったのでしょうか?

経営企画を一通り経験して面白さを実感していた頃、勤めていたPR会社が上場企業のグループ傘下に入ることになりました。その時に初めて、「自分で事業を起こしたい」という明確な想いに気づいたんです。それまではあまり自覚もなく、人生設計として具体的に”起業”を組み込んでいたわけではありませんでした。

自身のバックグラウンドも手伝って、意図せず経営に携わることになり、経営者を間近で見ているうちに起業への解像度が上がり……。経験も含めて全てのピースが揃って、「今だ!」というタイミングが目の前にやってきた。ずっと頭の片隅にあった起業の2文字が顕在化したような感覚でした。過去から未来の点と点が繋がり、導かれるように経営の道を選んでいたような気がします。

起業の原点は、「女性をウェルネスでサポートしたい」という想い

――事業としてフェムテックを選んだ理由はありますか?

最初からフェムテックで起業しようとは考えていませんでした。もともとは、「女性のための仕事をしたい」というのがスタート。女性のキャリアについて相談されることが多かったので、最初に頭に浮かんだのは転職支援などの人材系。他には同じ働く女性として共感できる、シッターや家事サポートも候補に挙がっていました。

そんな時、アメリカで吸水ショーツが売れているというニュースに感銘を受けて。今までタブーとされていた女性特有の話が、今後はもっと表舞台に出るようになる。ブランドとして確立される時代が日本にもやってくるんだと確信したんです。アメリカの潮流に刺激され、私自身が金融時代にハードワークで月経不順に悩んだ経験も重なり、まずはフェムテックの分野で起業しようと決めました。

WRAYで最初に手がけた商品は、超薄手の腹巻。以前から、自分自身も欲しいと思っていたものでした。姿勢が固定され、空調の効き過ぎたオフィスで働く女性こそ温活が大事だけど、オフィスファッションと腹巻は相性があまり良くないですよね。薄くてコーデに響かず、スタイリッシュで上質なシルクの腹巻があったらいいなと。あとはサプリやハーブティー、ホルモンバランスに着目した美容液も作りました。あえてジャンルレスに、”全方位的に女性のセルフケアを促せる商品”という軸で商品開発をしています。仕事や母業に追われている女性は、つい自分のことを後回しにしがち。忙しい日々だからこそ、セルフケアの大切さに気づくきっかけづくりをしたいというところから始まりました。

会社名の”WRAY”は、ウーマンのWに、光線を意味するRAYを繋げた造語です。どんな事業であっても、Wが必ず入るもの、つまり女性に関わるビジネスをやっていこうという想いでWを一番前に配置。RAYは”強い光”を表すので、「真っ直ぐ進む光で道を照らし、誰かを輝かせたい」、そんな意味が込められています。WOMANとRAYを繋いだ社名を見るたびに、女性のウェルネスケアを全面的にサポートしたいという原点に立ち返ることができる。とても気に入っていて、自分でも「よく思いついたな」と思いますね(笑)。

――起業されてからこれまで、挫折や苦労したことなどはありましたか?

一見順風満帆に思っていただけることが多く、嬉しいことなのですが、実際には忙しさに追われる日々で、苦労や挫折も沢山あります。思い通りの商品に仕上がらない、商品はできたけど不具合が生じてしまった……なんてことは日常茶飯事。ちょうど会社を立ち上げたのがコロナ禍だったこともあり、スタートした途端に先行きは不透明。日々目まぐるしく変わる世の中に適応しようと、必死にもがいていました。その時に、もっと先のことを見通して想像できる余裕があれば、今とは違う姿もあったかもしれないと思うことも。その教訓を胸に、目の前のことよりも先の時間軸で想像するように心がけています。

もともと明るい性格ですが、思えばことごとくそのポジティブさをへし折られてきた数年間でしたね(笑)。自分のパーソナリティを疑いたくなるほど落ち込んだことも少なくはなかった。でももうそんな苦労にも慣れてきて、最近は「そんなもんか」と思えるマインドが身につきました。

お客様の生の声をもとに、長く愛される商品作りをしたい

――事業展開に関しての戦略があれば、教えてください。

今までは展示会に来てくださったお客様の口コミでユーザーが増えたり、ファンになってリピートしてくださる方が多く、地道に少しずつ売り上げを伸ばしてきました。

WRAYには、商品開発を手伝ってもらえる専用のインスタアカウントがあり、登録してくださっているメンバーは200人ほど。中には、WRAYのアイテムを発売当初から長年愛用されているお客様もいらっしゃいます。もともとシルクの腹巻きがとても人気だったのですが、開発メンバーから「他にもシルクのアイテムを作ってほしい」という声が多数挙がって。その意見を参考に、パジャマやマスクなどシルクのバリエーションを増やしたら売れ行きがよく、着心地の良さを追求したラウンジウエア、ワンマイルウエアが定番商品になりました。トレンドを追うよりも、まずはお客様が求めるものを第一優先に形にしていく。その結果として、気づけば売り上げも上がっていたように思います。

販売面では、自社オンライン以外にも他社のECサイトや、アパレルブランド、ライフスタイルショップなどの店舗にも商品を卸しているので、チャネルを幅広く持っているのも強みの1つ。今後は広告を打つ施策も視野に入れ、商品開発からマーケティングまで、しっかり取り組んでいきたいですね。

撮影/沼尾翔平 取材/渡部夕子

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