小島慶子さん『失敗バンザイ!人生はああもこうも生きられる』

エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「失敗」について。

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小島慶子さん

1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外の大学に進学し、一昨年から10年ぶりの日本定住生活に。

『人生は、ああもこうも生きられる。子どもも大人も失敗できる社会を!』

絶対に失敗したくない。最近の学生はそういう気持ちがとても強いと、大学で教えている知人が言っていました。

あなたはどんな失敗をしてきましたか。「もしもあのとき」と思うこともありますよね。もしもあの学校に合格していたら、あの会社に就職していたら、あのチャンスをものにしていたら……と。中年の危機のお年頃にはよくあることです。何かの結果がAかBかでBだったとき、あるいはABどちらかを選ばなくちゃいけなくて悩んだ末にBを選んだときに、これでよかったんだ!って思いたいですよね。

私と夫は考え方が違います。私がBを手にしたら、夫は安心させようと「きっとAは、イマイチだよ」とか言ってくれます。いわゆる、あのブドウは酸っぱいに違いない! ってやつです。

私はそうではなくて「AもBも美味しいだろう」と考えます。同時に二つは食べられないのだから、わざわざAのブドウを貶す必要はありません。口に入れたのも手の届かないところにあるのも、選んだのも選ばなかったのも、どっちも美味しいブドウだと思えば、私にとってこの世はどう転んでも甘いブドウばかりのいいところ。どこへ行ってもなんとかなりそうです。人生はああもこうも生きられる、って思えます。

数年前に知人に勧められて、ある留学制度に応募したのですが、補欠で不合格でした。その後もまた別の知人に勧められてある選考に応募してみたのだけど、これも最終で落ちました。どちらも仕事に追われてしっかり準備をしなかったので、やっぱり準備って大事だなと痛感した次第です(当たり前)。ともあれ、チャレンジの過程で学んだことも多かったので、なんでもやってみるものですね。人さまの勧めには素直に従ってみるものです。

もし受かっていたら、きっと面白いことがたくさんあったでしょう。受かったからこそ出会える素敵な世界もあったでしょう。苦労もあったかもしれない、やってみたら性に合わなかったかもしれない。不合格だった私には、死ぬまでわからないことです。

では現在私が生きている「不合格だった人生」はどうかというと、これはこれで楽しいことも嬉しいこともあります。もちろん苦労もある。合格した慶子と今の慶子とどっちが幸せかは、両方生きてみることができないので比べられません。わかったのは、留学してもしなくても、合格してもしなくても、人生はそれなりに楽しく、それなりに苦労もあるようだということです。

息子たちの受験や就職の時にはこう伝えました。何かに挑戦するのはいいことだよ、望んだ通りの結果になればとっても嬉しいよ。もし違う結果になっても、人生は続くよ。どっちに転ぼうと、人生はああもこうも生きられるんだよ、と。つまりは生きるってどのみち面白いよ、ってことですね。思い通りにならないこともたくさんあるけど、思いがけない喜びも必ずあるものだと。

先日ある経営者が「ときどき大学で講師をするのだけど、仕事の実績の話をするとみんな寝る。失敗談だとみんな起きてる」と言っていました。親子も失敗談こそ積極的にシェアしたいものです。

私も息子たちが幼い頃から、日々のフレッシュな失敗や挫折をシェアしてきました。おかげさまで材料には事欠かず、息子たちは母親が仕事や私生活でしくじりや失意を重ねながらもどっこい生きているのを見ながら成長しました。人には、失敗する自由もあると思うのです。子どもが自由に失敗できるように、大人たちは失敗しても人生が終わらない社会を作らなくちゃいけません。

失敗談だけでなく、私は自分が経験した偶然や不思議なご縁についても息子たちによく話します。生きているといろんな巡り合わせがあるんだよ、何のおかげかはわからないけど、面白いし、有り難いよねと。きっとあなたにもそんな経験があると思います。

進路選択の際など、つい「言う通りにしなさい。落ちたら人生終わりだよ」などと言いたくなることもあるでしょう。でも、子どもの進路選びで大事なのは、自分で決めること。よく考えて準備して、もし志望通りにならなかった場合にどんなやりようがあるか、他にどんな選択肢があるかを自分で考えることじゃないでしょうか。そして上手に助けを求められるようになること。

「この道しかない」だと、人生は砂漠の中の一本道です。一歩踏み外したら終わりだ……と、震えて歩く孤独な旅になります。「ああもこうも生きられる」なら、人生は広大な森の中を幾重にも枝分かれして流れる大河。たとえコースを外れても、森には美味しい果実がなっている。それなら回り道を恐れることなく、最善を尽くそうと思えますよね。

この世は砂漠か、豊かな森か。子どもに語り聞かせる世界観は、祝福にも呪いにもなります。上手に転べる知恵を。転んだ人に労りを。痛みを知る人に敬意を。その語りかけは、親が自らの傷を癒す助けにもなるはずです。失敗バンザイですね!

文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2026年3月号掲載時のものです。

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