SHELLYさんと考える「日本のシングルマザーが生きにくい理由」

ひとクラス30人いたら、2、3人の家庭は「ひとり親」。ここ最近シングルマザー=貧困として語られ、実際その割合は大きく、社会問題化しています。しかし現在は「ひとり親」になる理由や生活ぶりも多様化しているようです。昨年シングルになったSHELLYさんと、現状をデータとともに考えます。

 

 

数字で見る
世界的に日本のシングルマザーが
生きにくい理由

そのうち可処分所得が貧困線の50%に満たない「ディープ・プア」世帯は13.3%。父子世帯は相対的貧困率22.9%、ディープ・プアは8.6%、ふたり親世帯はそれぞれ5.9%、0.5%。大人が2人以上世帯の貧困率の10.7%と比べても明らかに高い。
25年間で、離婚母子が約20%増加、未婚の母が約4%増加している。2012年、母子世帯のひとり親になった理由は80.8%が離婚、父子家庭では74.3%。 *厚生労働省(2015年)ひとり親家庭等の現状について
母子世帯全体の平均年間収入は348万円だが、母子のみにより構成される母子世帯75万世帯の平均世帯年収は243万円。「児童のいる世帯」平均世帯年収739万円(厚生労働省2017年国民生活基礎調査の概況)の3分の1にとどまる。
1978年では49.9%が死別だったが、以降年を追うごとに下がり、2016年では8%。ひとり親になった時の平均年齢は38.8歳、そのときの末子の平均は6.5歳。
43.8%がパート・アルバイト等。父子世帯は68.2%が正規の職員・従業員、18.2%が自営業者。ひとり親世帯となった時点の末子の年齢は、父子世帯6.5歳に対し母子世帯は4.4歳と未就学が多く、労働時間を調整している可能性がある。母の帰宅時間は18時台が32.3%、19時台が19.6%に対し、父は19時台が24.5%、20時台が20.4%。
離別した父親と子どもとの面会や会話等の交流の頻度は、「年に数回以上」の割合は37.3%。離婚5年以上の半数以上(51.6%)が子どもとの交流がない。
全国1位の東京に次いで沖縄の21.7%、大阪の21.4%、京都の17.3%で全国平均では15%。2005年では12.1%だった。23区内ではさらに突出し、港区では53.6%。ほかに千代田、中央、台東、目黒、渋谷、豊島、足立で30%を超えている。全国的にも近年急増している。
「過去に受けたことがある」は15.5%、「受けたことがない」は56%。受けている・受けたことがある母子世帯の養育費は平均月額43,707円。

 

知っておきたい
日本のシングルマザーをとりまく
環境と多様性について

 

◉お話を伺ったのは
日本シングルマザー支援協会
江成道子さん
(左)

◉江成道子さん
1968年生まれ。20歳で結婚し3人を出産後27歳で離婚。31歳で再婚し2人を授かるも37歳で再び離婚。営業職として働き5人姉妹を育て、現在は孫も。2013年に協会を設立、さまざまな形でシングルマザーを支援。

SHELLYさん(以下S):離婚を発表してから、「実は離婚したいと悩んでいる」といろんな人から聞く機会があって。それで思ったのは、私は今のところ経済的に困っていないから「二人の気持ちが離れたから離婚しようか」とトントン拍子に話が進んだけど、もし仕事していなかったら離婚できなかったかもしれないと。貧困率過半数超えは衝撃ですね。

 

江成さん(以下江):旦那さんが一馬力でバリバリ稼いで裕福な家庭でも、離婚したらすぐ貧困化する可能性が大きい。旦那さんの仕事がうまくいかなくなり離婚という場合も増えました。女性が主婦でも、家庭の財布を夫が握っている場合も多く、極端な場合は経済DVをされていることも。離婚しても、夫が稼いだお金だからという意識が強く、財産分与の請求をしないんですね。

 

S:養育費をもらえているのが24%だけというのも驚き。女性が育て、さらには経済的なことも担う。父親は自分の子どもなのに、どうして払わないんだろう?って。例えばカリフォルニアではノーフォルトステートといって、離婚でどちらが悪いとかは関係なく、結婚後に手に入れたものはすべて夫婦の共有財産になり、離婚したら半分ずつになります。

 

江:子どもにとっては親が何をしたかは関係ないですからね。感情論のまま、養育費などの問題を論じてしまうのが問題だと思います。子どもにとっての利益が何かを冷静に考えなければ。

S:離婚後の養育費不払いを国が立て替える制度導入も議論されていますね。

 

江:男性側にも税金控除がなく、女性が受けたとき税金がかかる今の制度には問題も多く、天引きシステムや立て替えの法的整備は必要だと思います。ただ父親側もない袖が振れなくなっている場合も増えています。これは社会の意識も変えていかなければとも思います。養育費はもちろん払われるべきですが、女性が経済力をつける流れを作ることも大事だと思っています。

 

S:女性に経済力があれば、DV夫に我慢することなく離婚できるケースも増えますよね。そもそも、経済力がなくても女性が子どもを引き取る前提なのも、不思議だなと思います。

 

江:よほど不利なことがない限り、ほぼ自動的に母親が親権を持ちますね。その後は父親と子どもの交流が途絶えることも多く、養育費が払われていない場合はより顕著です。離別した父親の44%は子どもとの交流がないというデータには、日本的な価値観や法律などいろいろな問題が絡んでいます。共同親権についても、早急に議論していくべきだと思います。

 

S:貧困率が高いのは女性が稼ぎづらい社会なことも原因かと。アメリカだと、男性と同じ職種についていても女性というだけで賃金のギャップがあります。日本も同じではないでしょうか。

 

江:日本はもっと手前で、男性と同じ仕事にすらつけないことも。医学部入試の不正も問題になりましたが、同じ大学を出ても、仕事内容が違っていたりする。女性がパートを選び、それでうまくいっていた頃とは社会情勢が違うのに、今も責任のない仕事を結果的に選ばざるを得ない女性は多い。環境が整えば本来は男性と同じ仕事ができるのに、シングルマザーの正社員率はシングルファーザーよりも低く、44%にとどまっています。

 

S:女性も男性も長時間労働をなくしたり、多様な働き方に寄り添える保育所の確保も必要ですよね。

 

江:はい。そして今は未婚のシングルマザーも増え、割合は死別を抜き、都内では4人に1人が未婚。経済力をつけた女性が選択した場合も多くなっています。母子世帯の5%は年収800万以上で、年齢もさまざま。一口にひとり親、母子家庭といっても、今は多様なパターンがありますね。

 

S:多様化しているんですね。シングルファーザーの状況はいかがですか?

 

江:父親は経済のことを優先する傾向にあり、実親との同居率は女性の倍です。女性の場合、実家に帰ると親子で揉めたり、孫がかわいそうだからと娘が働くのをよしとしないケースもよく耳にします。

 

S:3歳児神話なり、母は家にいるべきという考えは日本社会では根強いですよね。私もバラエティでできるだけ言うようにしていますが、週1回お掃除を外注しているし、夕飯だって毎日作っているわけではありません。

 

江:私たちも、社員食堂で夕飯を安く買って帰れる福利厚生のしくみを企業と作ったりしています。家事育児との両立のため働くのを諦めなくてもいい社会、離婚しても1人で経済的な負担を背負わなくていい社会にしたい。シングルマザーになっても生きていける社会の仕組みと同じくらい、母に求められるさまざまな重圧も軽くしていきたいですね。生き方の多様性が認められる世の中になってほしいと思います。

◉SHELLYさん
1984年生まれ。14歳でモデルデビュー、テレビやラジオのDJ、VJ、情報番組のキャスターや司会としても活躍。2014年結婚し、2016年に女児を出産。2019年11月に離婚を発表した。

撮影/須藤敬一 ヘア・メーク/高橋純子 スタイリング/松本ま生(SHELLYさん) 取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子
*VERY2020年4月号「SHELLYさんと考える 数字で見る、『シングルマザー』」より。
*掲載中の情報は、誌面掲載時のものです。