暑苦しくない‟スマートおでん”/ひと皿の向こう側
おでんといえば寒い冬、ほわっと漂う優しい湯気とともに冷えた体を温めてくれる……だけでなく、夏には冷房で冷えた体も温めてくれて、ハフハフと頬張りながらなぜか笑顔になる、そんな一年中食べたくなる癒し系メニューです。
【Cozakura de Oden】は、“女性同士でも気軽にフラリと立ち寄れる”カフェのようなおでんの専門店。清潔感のあるすっきりとしたインテリアのアクセントになっているのが壁を飾る数点のポップなアクリル画、そして、「ティファニー」を思わせる、上品なブルーの小物や器です。
こちらが誌面で紹介した「おでん」(大根、半熟卵ともに¥300、こんにゃく¥250、海老蓮根¥700/すべて税別)。
店内におでんの香りは漂っていませんが、ひとたびおでんが運ばれてくると、テーブルはたちまち昆布や魚介系の上質な香りに包まれます。おでんの要となるだしは、昆布、鰹節、あごなどの魚介を使って丁寧に取ったスープをベースにしたとても繊細な味わいです。種は15種類ほど。種それぞれに適した加熱や調理をして、オーダーが入ったらだしで仕上げます。美しく澄んだだしはそんなひと手間の証なのです。
実はこちらのお店は渋谷にある【牛だし おでん酒場 COZAKURA】の姉妹店。
渋谷のお店は店名の通り“牛だし”で、2〜3日かけてスープを作るそうです。
「老若男女に好まれるメニューということで、おでんの専門店を作ろうと思い、ほかとは違うインパクトのあるおでんを考えました。僕がニューヨークに暮らしていたときに豚骨ラーメンが流行っていたので、豚骨スープのおでんというのも面白いかなと思ったのですが、豚骨は香りがかなり強いのでおでんにはちょっと難しい(笑)。チーズフォンデュをイメージしたおでんも考えましたがこれも難しく、それなら王道の美味しいだしをしっかり作ろうと。」(代表/神谷徳大さん)
前日に仕込んで一日かけて作るだしは、お酒と合わせることを考えて塩分をほんの少しだけ強めにしてあるそうですが、飲み干すこと必至の美味しさです。おでん種は、馴染みのあるものばかり。「海老蓮根」は、粗みじん切りにした蓮根を海老に巻き、だしで味付けをしてから揚げたもの。余すところなく全部食べられます。
こちらは、一見するとケーキのモンブランのような「コザクラ de ポテサラ」(¥680・税別)。
玉ねぎときゅうりの入ったシンプルなポテトサラダの周囲をかぼちゃの柔らかながソースが覆っています。味がまろやかになって、いつものポテサラとはひと味もふた味も違う美味しさ。
そして、こちらもデザートのように可愛らしい「シラスとカラスミのだし巻き卵」(¥980・税別)。
上にのっているのはおろした紅芯大根。お皿にはカラスミが散りばめてあり、塩分が足りないと感じた方はそれをつけて食せばOK。ポテサラ、だし巻き卵といった定番的な料理に、絶妙な加減の捻りを加えた一品料理にもセンスを感じます。
「おでん以外の一品料理は馴染みのある、いわゆる居酒屋メニューに一捻り加えたもの。捻りすぎ、凝りすぎて創作和食のようになってしまうと、馴染みがなくて記憶に残らなかったり、飽きられてしまうこともあるのかなと。普段使いしていただける店にしたいと思っています。」(神谷さん)
こちらは、〆にお勧めの「真鯛の出汁茶漬け」(¥980・税別)。
お店自慢のだしを堪能できる一品。真鯛無しの「おでん出汁茶漬け」(¥680・税別)もあります。
おでんと一緒に味わいたいのがクラフトビール。タップで提供される厳選6種類のクラフトビールが味わえます。ハートランドビールと、BROOKLYNBREWERY(ニューヨーク)のラガーは定番。
そのほかの4種類は、1〜2週間で変わる国産クラフトビール。写真のビールはオホーツクブルーの「網走ビール/流氷ドラフト」。見た目通りのすっきりと爽やかな味わいです。テーブルに置かれたカードでそれぞれの特徴を確認することができます。
ティファニーの小さなボックスに入れて供されるお通しは燻製ナッツ。
和食との相性がいいジンは8割が国産。個性豊かなクラフトジンが揃っています。
右から、九州の南端、宮崎県日南市油津で造られる「油津吟 YUZU GIN」(京屋酒造/宮崎)、ジュニパベリーをはじめ広島県産ボタニカルのみで製造した「SAKURAO GIN LIMITED」(中国醸造/広島)、英国スタイルを踏襲した力強いジン、「季の美 勢 京都ドライジン 」(京都蒸留所/京都)。
日々、厨房で孤軍奮闘する大谷嘉子(おおやよしこ)さん。おでんのだしのクオリティをしっかり守り、料理の仕上げに女性らしい捻りをプラスするセンスは見事。おでんとクラフトビールで癒されに、ふらりと立ち寄ってみてください。
【Cozakura de Oden】
東京都渋谷区恵比寿4-23-12 茗荷原ビル2F
☎03-6721-6682
17:00〜24:00 不定休 *2020年3月OPEN
*新型コロナウィルス対策の影響により、営業時間や定休日は変更する場合が
あります。
撮影/牧田健太郎 取材・文/齊藤素子 構成/川原田朝雄