中学受験漫画『二月の勝者』とのコラボで話題! おおたとしまささんがママに伝えたい3つのこと

VERY NAVYの『悩めるママのための、受験進路相談室』でおなじみのおおたとしまささんの新刊、『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』が6月30日に発売されました。本著は、大ヒット中の中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』とのコラボレーション。漫画の名場面に対応した、おおたさんからの100のメッセージは、中学受験生の親でなくても胸に迫るものばかりです。今回は100の言葉の中から、特にNAVY読者に伝えたい3つをピックアップしてもらいました!

——受験生の親で読んでいない人はいないのではと思うほど、大ヒット中の漫画『二月の勝者』ですが、巻末の参考文献にはおおたさんのご著書がたくさん掲載されています。まず、このコラボはどんな経緯で生まれたのでしょうか?

 

2年ほど前に著者の高瀬さんと対談したことがあったのですが、僕の本をすごく参考にしていますと言ってくれて。実際に漫画を読んでみると、「僕が書いたのか?」と思うほど、中学受験観がそっくりで親近感を抱いたとともに、本当に面白く描かれていると思いました。それから時間は経って、僕が「親が子どもに伝えるべき100の言葉」という企画を温めていたところに、ちょうど出版社からコラボのオファーがあって、テーマも重なってぴったりだと今回の形になりました。

 

 

——おおたさんの中学受験観を、改めて聞かせてもらえますか?

 

中学受験は首都圏や関西の一部にしかない、ちょっと特異な文化ですが、子どもと親にとって成長の手段の一つだと思っています。これだけの数の学校が一つの場所に集中しているのは世界中を見てもおそらく他にないし、東京には自然が少ない代わりに中学受験という文化がある。それなら、利用できるものは利用すればいいじゃんと。合格不合格以上に、人生の選択や努力の意味、損得を超えた達成感など、人生において何が大切かを伝える機会がゴロゴロ転がっている。合格不合格を超えた学びのチャンスである、というのが僕の中学受験観ですね。

——今回は“NAVY読者に伝えたい3つの言葉”というテーマで、100の言葉の中からおおたさんにピックアップしてもらいましたが、まず1つめは、第30講「勉強が好きで得意な子がどんどん勉強するのは当たり前。そういうわけでもないのに勉強を続けているんだから、あなたはもっと偉い」。これ、個人的に一番響きました(笑)。

 

勉強が好きな子がやるのは当たり前だし、サッカー好きな子が一日中サッカーしていても飽きないのも当たり前。でも、そうじゃない子が頑張っているのは尊いことですよね。納得してないかもしれないし、意欲的にやっているわけではなくても、「やらなきゃいけない」と思ってやっている、必要性を感じて努力できているだけですごいじゃんって。

 

 

書籍中のイラストは『二月の勝者−絶対合格の教室−』(C)高瀬志帆/小学館「ビックコミックスピリッツ」連載中(以下同)

 

 

——大人でも苦手なことを頑張るのってしんどいですよね。つい忘れがちな視点でしたが確かに偉いよなぁと思って、とりあえず子どもを褒めました(笑)。2つめは、第86講「報われるとわかっていてやる努力は、ただの損得勘定」

 

やればできるとわかっていることをやるのは、ただの損得勘定ですよね。どんなに頑張ってももしかしたらうまくいかないかもしれない、それでも頑張るんだという境地に立てること。「僕は、私は、やりきったんだ!」という、損得勘定を超えた達成感を得てもらいたいなと。結果、たまたま上手くいって良い学校に入ることもあるし、たまたま上手くいかないこともある。それって、人生の縮図ですよね。人生は色んなことがあるけど、それでも努力し続けなければいけないという人生の教訓を得る、それを前思春期に経験するのはアリかなと。そして、一歩間違えたら自分も上手くいかなかったかもしれないという想像力、社会を見渡す視野、本当の意味での思いやり、そういうものにも気づいてもらいたいですね。

 

 

——3つめは、第61講「行くつもりのない学校の合格コレクションするような人にはならないで。そこに真剣に入りたいと思って受験する人がいるのだから」。優秀な一人の子が合格実績を稼ぎまくる、あれですね。

 

関西に多いケースだけど、灘に受かった子が開成も受験しに来て、帰りにテーマパークに寄って帰るとかね。あれって、大人が伝えるメッセージとして最悪だと思うんです。もう灘に行くと決まっていて、そのための努力をしてきて、それがどれだけ大変だったかを知っているはずなのに、同じ気持ちで開成を受けている子たちに混ざって、行く予定もないのに受験して合格をかっさらおうとする。持っているのにまだ欲しいなんて、キリがないですよ。自分と同じ立場であるはずの他者への思いやりよりも、自己顕示欲が勝ってしまうのなら、僕はモンスターだと思ってしまいます。自分の子どもの成績を上げたい、なんなら他の子を蹴落としてでも合格させたい、それは親心でもあるけど、そうやって中学受験に最適化していくと、人生にとってプラスになるはずの中学受験が、「ヘタレ」大量生産工場になってしまいます

 

 

 

——難関校に入る子どもたちの姿も、昔とは変わってきていると聞きました。

 

昔は合格のための方法論がそこまで研ぎ澄まされていなかったので、地頭の良い子が順当に受かっていくという、ある意味残酷なルールだったけど、今は地頭で差があっても逆転できてしまう。そう言うとポジティブに聞こえるけど、小さい頃からガチガチに筋トレして、ホームランを打つのが本当に正しかったんだっけ? そんな野球は楽しい?って。昔の生徒は1言えば10わかる、勝手にやっとけと言っても最低限のことは自分でやるのに、今は1から10まで指示を出さないとできない子ばかり入ってくると、学校側は困っているという話も聞きます。

 

 

——今の親は、色んな情報に振り回されたり、もっともっとと望んだり、我が子をちゃんと見つめなきゃと思いながらも、上手にできないと悩んでいる人が多いように感じるのですが、それって何が原因なんでしょうか?

 

中学受験生がいるような年齢の親たちの多くは、マニュアル世代なんです。モテマニュアルやデートマニュアルなど、何にでもマニュアルがあった時代の価値観の影響を受けているから、「中学受験はこうするんですよ」「こっちのほうがコスパがいいですよ」と言われたら、つい反応しちゃう。それが背景にあるんだと思います。プラス、先行き不透明な時代に不安を煽られている。先行き不透明だからこそ、本当はみんなで手を取り合って共存共栄の社会を目指すべきなのに、少なくとも日本においては、先行き不透明な時代を勝ち抜いていくというロジックが優先されがち。いまだに勝ち負けとか言ってる中で、親は中学受験のマニュアルにすがりついて、子どもを見るんじゃなくて公式に当てはめてしまうんですよね。でも、親の役割は、子どもを1つでも偏差値の高い学校に押し込めることじゃなく、どんな学校に行っても通用する子を育てることだと思います。

 

 

——確かに、塾の選び方ひとつとっても、みんなが通っている塾がいいはずとなりがちです。

 

子どもがどんな気持ちで頑張ってると思ってるんだよ!と苛立つこともあるけど、それは決して親の責任だけじゃなく、中学受験業界やマニュアル化しようとする社会の問題。大人が振り回されて自分で勝手にやるのはいいんだけど、中学受験で親が振り回されて割を食うのは子どもたち。子どもにハッピーになってもらうために親に気づいてほしいから、親に対して時々冷たいことも言います(笑)。

 

 

——そう考えると、本当に子どものためになる“いい中学受験”って難しいです。

 

NAVY読者はいわゆる「恵まれている人」が多いと思いますが、子どもに対してあれが足りないこれが足りないとなってしまってはいけないのではないでしょうか。不思議なもので、足りないことに目を向けると、どんどん足りないほうが増えていくんです。子どもは今持っているものを認められるのが一番嬉しいし、それが自信になって、いいところを伸ばしていけるもの。これは女子学院の先生が言っていたことだけど、「よその子と比べなければ、何かができただけで嬉しいはずなのに、親っていつの間にかその喜びを忘れちゃうんですよね」って。それが兄弟や近所の子との比較ならまだよかったのに、今は日本中、世界中と比較をして、子どもを図る物差しがどんどん巨大化しているから、子どもが成長してないように見えてしまう。簡単に言えば、ありのままの子どもを見られなくなっているのかなぁ。立っただけですごいね、歩いただけですごいねと思えていた子育ての原点を、忘れないでほしいですね。

 

『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』 1,650円(小学館)

話題の中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』とおおたとしまささんのコラボレーション。「中学受験における親の役割は、子どもの偏差値を上げることではなく、人生を教えること」というおおたさんからの、中学受験を通じて親が子に伝えるべき100のメッセージに、『二月の勝者』の名場面が対応。中学受験を考えるママには必読の一冊です!
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388779

 

取材・文/宇野安紀子