「うっせぇわ」が子どもに流行る理由、専門家に聞いてみた
巷ではAdoの『うっせぇわ』が大流行中。ドキッとしてしまうフレーズを喜んで口ずさむ我が子にモヤモヤしているママも多くいるかもしれません。
本誌7月号「子どもの『うっせぇわ』にザワつく」でその対処法を教えてくださった渡辺弥生先生に、「うっせぇわ」というフレーズが子ども心に刺さる理由と、親が心穏やかに対処する方法をさらに教えてもらいました。
うっせぇわ=成長の証なんです!?
どうして悪い言葉が流行るのかは、学術論文であまり見かけないテーマではありますが、そもそも子どもはいい言葉も悪い言葉も同じように真似して使うものです。0〜5歳までは特に、新しいことや刺激に意識が向いています。生まれたばかりの赤ちゃんでも模倣能力はありますし、「うっせぇわ」を聞いて1時間後に再現できること=ワーキングメモリーが発達してきたということ。新たに吸収した知識を披露すると周りが反応して楽しいし、何回も繰り返すことで、ものやことの概念を獲得し、考える力が発達していきます。それに、子どもは親に関心を持って欲しいから、怒られてでも注意が向いたらラッキー!という感じなんですね。
だからついつい、ものめずらしい「うっせぇわ」が口に出る。でも、親として我が子の「うっせぇわ」にモヤモヤしてしまう気持ちも同じ親としてわかります(笑)。でも、よくあの曲を聞いてみれば、思春期の「私を放っておいてほしい」という自立心の表現とも読み取れる部分も。なんとなくでも歌詞を理解できる子どもは、共感できるから言ってみたくなるのもあるでしょう。それには親として理解を示しつつ、たとえば他人に「うっせぇ」と言ってしまうならそこは注意する必要があるのかもしれません。
注意するときは「その場ですぐ」「理由を添えて」
大切なのは注意するタイミング。子どもが癇癪を起こしているときに伝えても修羅場になるだけだし、ふざけまわっている時も聞く耳を持たないので、一旦その場から引き離して気分を変えさせるのは、とても有効なことです。そもそも、普段機嫌のいい時に言い聞かせておくことがポイント。ある程度前もって「こういうことはしてはいけない」「うっせぇなんて言われたらみんな悲しい気持ちになるよ」と言い続けることが大事。善悪の認識は放っておいても身につかないものなのです。
でも教育効果が出るのは4歳ごろで、さらに5歳くらいまではなかなかルールを理解するのも難しい。わかっているのかわからない子に懇々と言い聞かせるのはなかなか大変ですが、言い続けてこそ、あるとき腑に落ちる時期がきます。
ただ、一方で「死ね」など人を傷つける言葉を言っていた場合、その場で注意しないと年齢によっては時間が経つと忘れてしまうことも。その場で、「言われたら傷つくよ」など理由を伝えて諭すのが正解です。頭ごなしに怒っても、ママが怖いからやめるだけなので、この正攻法なやり方をぜひ諦めないで欲しいなあと思います。絵本など客観性をもって伝えられるものも使えると思うので、子どもも自分も元気がある時に読んでみるのも手です。
自尊心が低い日本のママ。「good enough」が幸せ
とはいえ、「うっせぇ」なんて口の悪い我が子を前に、ママは自分を責めないでほしいですね。
ちょっとここで自尊心の話をさせて欲しいのですが、統計でも、日本のお母さんたちは自尊心が低いと言われています。自尊心を高めるためには「Very good」を目指さないといけないと思っている人が多いけど、実は違う。自尊心に必要なのは「Good enough」。まあ、こんなものでしょう、という感じ。ダメなところもあるけれど、まあまあ頑張っているし、まあまあ家族の役にも立っているよね、くらいがいいんです。あとは人と比べず、比べるなら前の自分と比べること。その感覚が基本になると自尊心は高まるんですね。
そしてもうひとつ、ノンバーバルなコミュニケーションの方が子どもに伝わる、ということも忘れないでほしいです。いくら言葉で取り繕っても、態度や雰囲気の方がメッセージとして伝わるものが多いということ。子どもの前でリラックスしているために、ママたちには自分をもっと甘やかしてほしいなと思います。
渡辺弥生先生
法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。NHK「すくすく子育て」でも発達心理学や学校心理学の専門家として親に寄り添ったアドバイスを発信。『絵で見てわかる「仕草」で子どもの心がわかる本』(PHP出版)など著書多数。
取材・文/有馬美穂