診断で異常がなくてもその先何が起こるかはわからない。「出生前診断」の意味を考える

生まれる前の赤ちゃんに異常がないか調べるのが「出生前検査」。ダウン症など染色体の異常を調べるNIPT(新型出生前検査)は、血液だけで検査できるため、学会の認定を受けていない皮膚科などのクリニックでも簡単に受けられるようになりました。しかし、結果について十分な説明やケアが行われないため、悩む人も少なくありません。今回は「出生前診断」の意味を考えます。

堂薗稚子さん( 51歳・東京都在住) 株式会社ACT3 代表取締役

息子は3歳で難病を発症。出生前診断で異常がなくても
その先の人生において何が起こるかはわからない

入社以来とにかくがむしゃらに働き、仕事漬けの毎日だった堂薗稚子さん。忙しさゆえに1人目を授かったことに気付いたのは妊娠4カ月のとき。不摂生な生活を医師から叱責され、リスクは全部知っておきたいという思いから出生前診断を行いました。その後流産や不妊治療を経験し、39歳で授かった2人目のときは、熟慮の末に出生前診断を行うことを決めたといいます。

「色体異常の子どもを授かる可能性について、1人目のときは360分の1程度と言われたように記憶していますが、2人目のときは100分1のと言われました。当時行われていた診断方法の羊水検査では、数種類しか異常がわからないうえに検査をしたことで流産をする可能性は3%程度。それでもなぜしたか……私が“やらない後悔”より“やる後悔”をとるタイプだからなのかも」。

堂薗さんは、自分自身を“何事にも準備万全で臨みたい性格”と分析します。「どんなことでもわかっていれば準備ができるし、覚悟もできます。突然のことにすぐ対応できるほど強くない自分の性格をわかっていたので、事前にできる検査があるならしておきたいという気持ちからでした」。

出生前診断で特に異常は見つからず、 無事に生まれてきた2人目のお子さんでしたが、3歳のときに10万人に数人という難病を発症。「外を歩いていると木々の緑も空の青も全部白黒に見えた」と振り返るほど自分を責めて泣いてばかりいた堂薗さん。しかし病院で、闘病中でも強くて明るくて優しい子どもたちと、支える親御さんの姿に触れ、“病気がこの子の個性を強くする”と人生観が大きく変わったと話します。

出産が近い女性に、周りは「元気な赤ちゃんを産んでね」と声を掛けます。結婚する女性に「お幸せに」と言う感覚に近いですが、堂薗さんは自身のさまざまな経験から、この言葉を使うことはありません。

「もちろん悪気などないお祝いの言葉なのですが、元気に生まれてくるのがスタンダードだと言っているようで、違和感を感じるんです。それに、何事もなく生まれてきても、その先の人生で病気や事故、そのほか何が起こるかなんて誰にもわからない。出生前診断は、育児スタート時の情報提供と捉え、母親になる覚悟を持つために、受けるかどうか決めてもいいかもしれないですね。事前にわかることで、育てる環境や経済的なことなどを家族で話し合い、最善の選択が できると考える女性もいる。少なくとも、私はそう思って検査を受けましたから」。

    息子さんが病気をして1年半くらい経ち、落ち着いてきたため行った七五三。
    2人目のときにつけていたマタニティブック。「中身は見せられないけれど、妊娠中の気持ちを綴っていました」。
    2人目のお子さんが生まれてすぐのお写真。「ひと仕事した感じでした(笑)」と堂薗さん。
    「当時は平静を装い、午前に検査して午後は戦略会議に滑り込むハードスケジュール。もっと周りを頼ればよかったと今は思います」。
    著書にも出てくる、同じ元リクルートで7歳年上のご主人は、出生前診断について賛成も反対もしなかったそう。「そんな夫だから自分で決められたのかもしれません」と堂薗さん。
    • 撮影/西あかり 取材/篠原亜由美 ※情報は2021年10月号掲載時のものです。

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