社会で求められているのは、みんなで支える覚悟。「出生前診断」の意味を考える

生まれる前の赤ちゃんに異常がないか調べるのが「出生前検査」。ダウン症など染色体の異常を調べるNIPT(新型出生前検査)は、血液だけで検査できるため、学会の認定を受けていない皮膚科などのクリニックでも簡単に受けられるようになりました。しかし、結果について十分な説明やケアが行われないため、悩む人も少なくありません。今回は「出生前診断」の意味を考えます。

宮田 郁さん(54歳・大阪府在住) 大阪医科薬科大学病院 精神看護専門看護師

出生前検査が広がりを見せている社会で求められているのは
検査結果を母親や家族に押しつけず みんなで支える覚悟

「医療の進歩により、血液検査や超音波検査で胎児の病気や障がいの可能性がわかるようになってきました。しかし、胎児に何かあるからといって、諦めることは法律上認められないまま検査だけが進歩していく……。決断を迫られる母親の苦悩は医療の進歩に巻き込まれているような気がしてなりません」と語る宮田郁さん。精神看護専門看護師として大阪医科薬科大学病院に勤務されています。

同病院では、先天性の胎児疾患がわかった人には、精神的なケアのエキスパートである宮田さんが関わることになっています。これは全国的に見て、珍しいシステムだそう。

このシステムが確立される前の2011年、産科医の発案により自然死産や胎内死亡、人工的死産などを経験された人のための特別外来が開設され、宮田さんがその外来を担当することに。「担当を始めて間もなく、外来での関わりを通してお母さんたちの苦しみは出生前診断から始まっていることに気づいたんです」。

自分は出生前診断前後の意思決定部分から関わっていくべきだと感じた宮田さんは自らの希望で産科医の診察に同席することに。そこで見えてきたのは、
診察時間に行われる先生との話を踏まえ、母親たちが限られた期限内にシビアな決断をせざるをえない現状でした。その後、正式に外来の診察に同席することとなり、母親たちの苦悩を一緒に汲んでいくという役割を担うようになったのです。

特定の科に属せずに心理ケアを行う精神看護専門看護師。心理面でのケアは一つの専門性の高い領域で、それがこの分野で求められていることは明白です。その上で、どこの病院でも同じような心理的ケアを受けられるサポートシステムを、全国の医療現場に導入していく必要性を感じた宮田さん。「きちんとした研究に基づき体系化させていかないと発展しないと考え、信州大学大学院に通っています」。今は博士号取得に向け準備に忙しいそう。

「出生前診断のことを、〝光と影〟という言葉で表現されることが多いんです。光と影の両方の部分を見ながら話し合い、どう見守り、どう育てていけばいいかをお母さんたちと一緒に考える。そうすることで、どんな選択をしたとしても、お母さんのため、ご夫婦のためにある出生前診断であってほしいと思います。私の中で大事にしているのは妊婦さんを孤独にしないということ。この思いを胸にお母さんたちの心に向き合い続けたいと思っています」。

    「診察時間内に理解しきれなかった部分があれば別途、資料を用いてじっくりと説明します。〝理解〟することは意思決定の際にとても大切になります」。
    診察だけでなく電話での相談にも。
    宮田さんが出生前診断の精神ケア、胎児緩和ケアという仕事に大きく傾くきっかけとなった〝出会い〟のお話が書かれた本。
    「胎児が無脳症との診断で、妊娠継続希望されたご夫婦。春の穏やかな日の朝に赤ちゃんは生まれました」。
    「出産から23分後に永眠された赤ちゃんは黄色いお花を棺いっぱい敷き詰めて退院となりました。『このような赤ちゃんの見守り方があることを知ってほしい』というのが、ご両親の願いです」。

撮影/前川政明 取材/原亜希子 ※情報は2021年10月号掲載時のものです。

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