-1才(うまれるまえ)からの命に向き合うサポートを。「出生前診断」の意味を考える

生まれる前の赤ちゃんに異常がないか調べるのが「出生前検査」。ダウン症など染色体の異常を調べるNIPT(新型出生前検査)は、血液だけで検査できるため、学会の認定を受けていない皮膚科などのクリニックでも簡単に受けられるようになりました。しかし、結果について十分な説明やケアが行われないため、悩む人も少なくありません。今回は「出生前診断」の意味を考えます。

水戸川真由美さ ん(60歳・東京都在住) NPO法人 親子の未来を支える会 理事、一般社団法人ドゥーラ協会認定産後ドゥーラ、 公益財団法人日本ダウン症協会 理事

「病気」や「障がい」について不安な気持ちを持つ家族に
中立の立場で寄り添っていきたい

第一子が脳性麻痺で第三子がダウン症のあるお子さんを持つ水戸川真由美さん。「最初の出産がハッピーなものではありませんでした。当時は妊娠中から出産、子育てに繫がる継続的なサポートはなく孤独でした」。

その体験から産前産後の母親に寄り添い、支える“ドゥーラ”に興味を持ち、サポートを始めた水戸川さん。「3人目は周囲にドゥーラ的存在がいました。ダウン症だとわかり、受け留め方はいろいろありましたが、出産自体はすごいハッピーでした。妊娠・出産は奥深いもの。捉え方によってはスムーズに変わる良い例でした」。

現在水戸川さんは、出生前からの相談に乗る「NPO法人 親子の未来を支える会」の理事を務めています。同会は全ての妊婦が孤独にならないために、-1才(うまれるまえ)からの命に向き合うサポートをしています。赤ちゃんに病気や障がいが見つかった時は、妊婦の不安に寄り添い、必要な情報を提供しています。

また、妊娠の継続を考えている方、中断した方の選択の是非を問うことよりも、多様性を認め誰もが障がいを感じず暮らせる社会を目指し、「産み育てにくい社会」の本質を問い、改善することが大切だと考え活動しています。「妊娠の継続を中断する方は、文化や地域性、経済や社会的背景など生活環境の違いによって等、理由は様々です。判断に悩んでいる方で『ダウン症について知りたい』という希望がある方には実際育てている方を紹介したり、経験者として繫がる存在にも。大切にしているのは中立の立場でいること。悩んでいる人の気持ちが今どこにあるかを対話し、知りたい情報を提供します」。

出生前検査の意義は、「自分がどのような状況の中にいるかが見えてくる。価値観も見えてくる。一度立ち止まれるいい機会」と水戸川さん。「何でも自分でやらなきゃと思って生じる不安は、社会的支援などの情報を知ることでクリアになることも多いです。大事なことは、自分たちで決断できるということ。私は自分の子どもの将来については『どうにかなる』と思えますが、今は『その時になってみないとわからない』と思える環境になっていないかも。障がいのある子を育てながらもどうしてそんなに明るいのか聞かれますが、とんでもない。逃げたいと思ったし、第一子の時は初めから受け入れられたわけではないので、どんな決断も否定はしません。妊娠を継続した人、中断した人どちらも関係なく、決断する前後のつらい、嬉しいにこれからも寄り添っていきたいです」。

    「好きな四字熟語は〝臨機応変〟です」と水戸川さん。
    幼い頃のお子さんたち。
    ブックレットはHPからダウンロードも可能。中立の立場の象徴で妊娠を継続する方の月編、中断を考える方の星編が一冊になっています。
    長男裕君の成人式の写真。
    周産期を担う医療者向けの冊子。ダウン症のある子を出産した母親は、かけられる声で気持ちの持ち方が大きく変わることが書かれています。
    15週で死産になった子を手作りの服とボールで見送った方から報告を受けた写真。「つらい体験が教えてくれたことを今後どう考え変わっていくかが大事だと思っています」。

撮影/BOCO 取材/孫 理奈 ※情報は2021年10月号掲載時のものです。

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