【男の子の育て方 対談連載vol.11】「息子に、避妊の仕方をどのように説明したらいいのでしょうか?」 編

男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。

【男の子の育て方 対談連載vol.10】競争社会が生み出したセックスの相手の数を誇りたがる男子たち 編

女性用「アダルト動画」にはコミュニケーションや安心感が重要視されて描かれている

田中さん(以下敬称略)以前、アダルトビデオの話しをしましたが、そこでは男性優位の過剰な演出がされています。
僕がインタビューした男子学生にも、未だにそれが刷り込まれている人がいて……。あの世界がセックスの本当の世界だと思っていて、つき合っている彼女に〈おかしい〉と思われたとか。

太田 性教育が乏しい状況で、男性優位のポルノへのアクセスだけは容易なわけですから、そう思ってしまっても仕方がないかもしれませんが、実際、さまざまな事件があるので、そういうポルノに触れるリテラシーがないまま視聴することの危うさには気をつけなければなりません。
私が関わった本当にひどい性犯罪で、見知らぬ女性を路上で拉致して強姦という事件ですが、加害者たちは「女性も快感を覚えるだろうと思っていた」と言っていました。驚きますが、レイプ被害者が加害者から「どうだ気持ちいいだろう」と言われた、というのは結構ある気がします。
挿入したら女性に快楽を与えられるというその思い込みは一体どこからくるのか、、という気もして……。
だからこそ、子どもたちには誤った思い込みを正しい知識として覚えてしまわないようにも、包括的性教育は大事だと実感しました。
ただ、ポルノ全般がダメだというわけではなく、対等性・相互性などを重んじたポルノだってあるんです。女性向けとされるものはコミュニケーションを重視する傾向があるようですし、女性監督が作った「フェミニストポルノ」だってありますしね。そういうことも息子たちには情報として知っておいてほしいと思います。
でも、母から言われるのも嫌でしょうね……。

田中 そうなんですよね。男性用ポルノと女性用ポルノでは、内容が全然違うと聞きました。
僕も勉強不足だと感じましたが、かつて対談させていただいた方が、大変イケメンなAV男優で、『セックスのほんとう』という本も出されている鈴木一徹さん。彼自身も出演する女性向けレーベルのポルノでは、必ずコンドームシーンを入れるなどして、安心感を描くようにしているそうです。
一方で男性向けはコミュニケーション部分を省き、〈出会って3秒で合体〉みたいなことがあるのだとか。

太田 コミュニケーションを省くというのが“暴力的”ですよね。
「これは暴力シーンだ」とわかってて娯楽として消費してるならまだいいんですが、リテラシーがないと、これがセックスだと思っちゃうんじゃないか? と不安を感じます。
コミュニケーションの省略というのは、実は離婚事案でもよく出てくることです。「無視する」や「話しを聞かない」といったモラルハラスメント。コミュニケーションを取っていないのに要求だけを押し付ける問題。

田中 コミュニケーションは本当に大事です。ところで全く余談なのですが、鈴木一徹さんが本当に若々しくてびっくりしました。僕の研究室の前で待っていてくださったときに、同僚の先生から「学生さんが、先生の部屋の前で待っていましたよ」と言われました。実際には僕と5歳も離れていません(笑)。

太田 やはり仕事柄、肌もキレイにされていらっしゃるのではないでしょうか。

田中 お肌がつるつるでした。
でも先ほどの、コンドームシーンを意図的に見せるというのは本当に良いことだと思います。〈コンドームシーンを見たら萎える〉という考えは撲滅したいですよね。今の技術革新はすごいですから、コンドームをつけることで性的快楽が損なわれるようなことはない。

「動画」や「マンガ」での性教育は子どもたちも理解しやすい

ライター東 ちなみに、太田さんにお聞きしたいのですが、息子さんたちに実際のコンドームを見せたことはありますか?
そのあたりについて、私の中にも少しハードルがありまして……。

太田 実際に手に取って、息子たちに見せたことはないですが、バービーさんのYouTube性教育動画などで、画面越しに見せていましたね。長男は『マンガでわかるオトコの子の「性」』や『おうち性教育はじめます』といった性教育マンガを熟読しているので、あまり心配はしていません。
親が直接コンドームを渡しても悪いとは思いませんが、一方で、親から言われたくないこともあるのかな、と感じます。プライバシーも尊重してあげたい。
だからこそ「この本は面白かったよ」とか「バービーさんの動画面白いんだって! こんな回もあるらしいよ」と声がけをして、困った時には相談できるような信頼関係を築いていくことが大事だと思っています。

田中 そう考えると、学校をはじめ、公的な機関でどうするかが問題になってくるのではないでしょうか。
3年ほど前に大変興味深い記事がありました。ノルウェーの研究で避妊具の無料提供が人工妊娠中絶を減らすという研究があったそうです。それに基づき、フィンランドの自治体で25歳以下にコンドームを配る授業を始めたとか。
“性教育をしたほうが、望まない妊娠が減る”とは昔から言われていることですが、最終的なゴールとして学生の指導要綱にしっかりと組み込みたいところですよね。
今は親子で一緒に読めるような性教育書籍が増えてきました。希望のあることですよね。

太田 いい時代の始まりです。積み残した課題がようやく動き出しましたよね。
関連本を読んで、私たちも一緒に正しい知識を得て、子どもたちとコミュニケーションを取りながら情報共有をして、子どもたちと良い関係を続けていくことができたらいいな。
たくさん性教育本を読んだ息子でも、わからなかったことが3つあったらしいんです。
それが「性感染症」「マスターベーション」「体外受精」でした。
それぞれ説明したのですが、「体外受精はわかったけど、じゃあ体内受精もあるの?」と言われ、「それは通常の普通の妊娠パターンだよ」と話しをしました。

田中 とても素敵な関係性ですね。息子さんが話した質問は大事なことです。子どもを信頼するべきですね。
子どもは新しい知識に接した時に「コレとコレは何?」と即座に疑問を出せます。その時に〈寝た子を起こすな〉ではなく、正しい方向に導いてあげることが大切です。
今は梅毒をはじめ、性感染症が流行っていますから、太田先生の話をうかがって、うちの子にもやってみよう! と勇気づけられました。 

太田 親の悩みや迷いは、子どもにも隠さずに話す必要があると思います。
私も開き直って、
「こんなこと言ったら、あなたが恥ずかしいかもしれないと迷ったんだけど、こういう理由で話したいのね」
「こういうことを心配してるから言うんだけど……」など、
自分の葛藤もなるべく言葉にしながら話すように心がけています。

田中 不妊症が増え、晩婚化が進む今、これからの子どもたち世代には、生殖技術の話はリアリティを持っていくことになるのではないでしょうか。昔はSFだと言われていた人口子宮も、今ではかなりリアルな話。近い未来には、あり得ない話ではない。
さまざまなことが選択できる世の中で、生殖の営み自体が、性行為から解放されつつあります。
今まで以上に倫理観も問題になってきますよね。

取材/東 理恵

太田啓子
弁護士。中2と小5男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。

田中俊之
社会学者。大妻女子大学人間関係学部准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では6歳と2歳男児の父。

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