エルメス財団の中高生向けワークショップ「将来を見据えたスキルの継承を感じてほしい」

19世紀にパリで誕生したエルメス。2008年、アーチストの支援を目的とし「私たちの身ぶりが私たちをつくる」をモットーに、非営利の財団・エルメス財団が設立しました。今年日本でも初開催されたエルメス財団による「スキル・アカデミー」。その活動の1つである「中高生向けのワークショップ」を取材しました。


「中高生だからこそ」将来を見据えた
スキルの継承を感じてほしい

エルメス財団が2014年からパリで開催しているスキル・アカデミー。自然素材に光をあて、”スキル”の位置づけを、

・1つめは、職人技能のように身体的に培われた知性や長い年月を生きる素材、他者との関わりによって発見される学び
・2つめは、その経験を通じて養われる美意識、文化を味わう態度
・3つめにつの専門性にとらわれず他分野にまたがって関わる学際的な学び

とし、 AIには代替できない「技術」「手わざ」 などの人間独自の能力の伝承、拡張、普及を目指すプロジェクトです。現在までにフランスでは木、土、金属、ガラス、布などをテーマに開催され、日本では、「木」をテーマに昨年スタートしました。

『Savoir & Faire木』の出版に引き続き、今年は中高生向けのワークショップ「木に学ぶ、五感で考える」が開催されました。今回取材に伺ったのは9つあるワークショップの1つ「盆栽を体験しよう」。開催されたのは、盆栽の世界では最高峰と言われる内閣総理大臣賞を4度も受賞し世界的に活躍する盆栽職人・小林國雄さんが主宰する春花園BONSAI美術館。1,000年以上生きている美しく貴重な盆栽の数々が置いてある庭園のある園内で小林國雄さんを講師に迎え、盆栽を鑑賞するだけでなく、針金かけやシルエットを整える剪定のワークショップが開かれました。

「盆栽は”命”のある芸術、文化。この素晴らしい芸術を継承していくには、時代に合ったやり方で継承していくことが大事だと考えています。だからこそ、その魅力を色々な可能性を持つ中高生のみなさんに体感してもらえるのは、とても重要なことだと思っています。スキルを磨くには体験と経験が大事。失敗をしないと人間は学ばないから失敗を怖がらないでください。また、生きていくには、見極める目と知恵が重要。そのためには若い時から、本物を見て美意識を磨くことが必要ですから、このスキル・アカデミーのようなプロジェクトは、参加されているみなさんにとっても、私達のような文化を継承していきたい身としても、貴重な体験になると思います」と小林さん。

盆栽を体験するだけでは終わらず、そこから木や、盆栽を飾る空間、職人とはなど、多角的に興味を持ったと話す参加した子ども達の感想を聞き、財団の考えでもある「木を中心に違う分野、想造していなかった分野が見えてくる」ことを実感。それはまさに、『Junior STORY』の中で思春期ママの「子どもたちには自分の得意分野だけでなく、新しい分野への広がりを持ってほしい。それが、進路や大学の学科選択にも繫がるはず」という想いと繫がること。また、だからこそ年齢的にも中高生が参加する意味を感じました。

今後もエルメス財団では、定期的にスキル・アカデミーを開催予定(詳細未定)とのこと。アカデミーを通して柔軟な展開力のある探求心と多角的に思考する力を育む力を提供したいというエルメス財団の想いが伝わるスキル・アカデミーの今後の展開が楽しみです。

盆栽職人・小林國雄さん
春花園BONSAI 美術館にて開催しました!
スキル・アカデミーは講師から一方的に教えられるのではなく一緒に学び、作り上げ自発性を学ぶワークショップ
小林さんやお弟子さん達、また関係者や参加している受講生同士で一緒に盆栽の針金 けを。その後、盆栽のシルエットを整えます
初めての剪定は真剣そのもの!
剪定した盆栽は家で大切に育てます
「水、光、愛情を大切にして、1年間育ててください」と小林さんから
盆栽の剪定を学ぶための道具
エルメスのシルクの紐とヒ ノキで作った素敵なネームプレ ートを各自かける

まず木が訴えかける個性を見つけ、それを生かしていくことが大事。風の向きや太陽の方向、上から見てもバランスよく枝が広がるように。まさに1本の松から自然の厳しさや恩恵を表現するようなシルエットに整えます。

「木の個性を見つけて、それを生かしていくのが盆栽の極意。欠点は長所に変えられる。それは人にも言えること。色々なことを体験し熱意を持って思いを込めれば、物事は必ず達成できる」。苦労されたご自身の経験からの盆栽職人・小林さんからの貴重なお話も。

参加した子どもたちからは「盆栽がどのように作られるのかさえ知らなかったので初体験の連続。これから、盆栽を鑑賞する時の視点が変わりました」(戸田小春さん・13歳)「松を美しく見せるのではなく、自然の厳しさを表現する、という親方の言葉が印象的でした。小さい世界観の中での芸術に感動しました」(小林円香さん・15歳)とかなり新鮮な時間だった様子。

★ さまざな分野のプロから学ぶ個性豊かな「木」のワークショップ

「木版画で想像してみましょう」

©Motoyuki Daifu

アーチストの風間サチコさんを講師に木版画で、木製品が独自の人格、魂を持った者と想定、想像しながら「木製品の精霊」を製作。版木の特性に触れながら想像力を駆使します。

「竹と丸太で音探しをしよう」

©Akihiro Itagaki

日本人になじみの深い竹や丸太で楽器を製作し、一緒に森へ行き製作した楽器を使いみんなで演奏。創作竹楽器演奏集団・東京楽竹団の方々を講師に迎え素材の音を楽しみます。

「森の香りを抽出しよう」

©Shiori Ikeno

森の中にあるたくさんの香りを実際に採集。触れながら感覚を研ぎ澄まし、観察し抽出を通じ、森の記憶を持ち帰ります。講師は香り研究/かほりとともに代表・沙里さん。

「植物の声を聴いてみる」

©Mie Morimoto

植物研究/叢-Qusamura代表・小田康平さんが講師に。過去の経験によってシルエットや質感の変わる直物たちに耳を傾け個性を見つけ、個性がうまく映える鉢合わせをします。

撮影/大森忠明 取材/味澤彩子 取材協力/春花園BONSAI美術館 ※当日のワークショップではマスク着用のもと、感染対策を徹底して行われました。 ※情報は2022年6月号掲載時のものです。

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