揺れる思春期親子の心に、 道東・弟子屈の「自然」と「人」が響く -Vol.1-|STORY

今回、道東への旅に出たのが、「STORY」本誌でもお馴染みのモデル佐藤純さん、14歳の長男、12歳の長女といった思春期親子3人。

弟子屈は北海道の中でも、屈斜路湖と摩周湖の2つの壮大な湖に隣接する町。広々と続く草原に湖、噴煙が吹き出て硫黄の匂いが漂う山……。なんと、町の面積の約65%を国立公園が占めるという大自然の中にあります。

子供も親も揺れる思春期の真っただ中、勉強も宿題もちょっとお休みして、学校が終わる金曜日の夕方から2泊3日の旅に出かけました。

一泊して早朝から訪れたのは、屈斜路湖。

宿泊した温泉宿の近くのビジターセンターで、「79平方kmの屈斜路湖は、山の手線がすっぽり入るほどの大きさなんだよ」と聞き、二人とも目を丸くしていました。

早朝の屈斜路湖は、水面がキラキラと光り、「まるで宝石が散らばっているよう」。「こんな大きな自然、見たことがないです。自然って大きいんだな!」と二人とも輝く湖面に負けないくらい目を輝かせます。

そして、「屈斜路湖をもっと体感したい!」と家族3人でカヌー乗りに挑戦!

案内してくれたのは、屈斜路湖ecoツアーズの吉田 聡さん。大阪でサラリーマンをしていた吉田さんは、この屈斜路湖の美しさに魅せられ、10年前、弟子屈町に移住してきました。

湖の四季の美しさを知りつくす吉田さんは、「湖面を覗いてご覧、日本でも屈指の透明度を誇る屈斜路湖は魚が泳ぐ姿がたくさん見えるよ」と、水中を見る箱メガネを渡してくれました。

隣接する森を見上げ、「ほら、見てご覧!」と声を上げる吉田さんの指先をたどると、「森の妖精」と呼ばれる鳥、シマエナガの姿が。すばしこく飛び回る、小さくキュートな鳥たちに、「可愛いい!」と親子3人で笑みを交わします。

カヌーを屈斜路湖の南側に突き出た和琴半島へと漕ぎ進めると、湖のほとりにモクモクとけむりが湧き出た地帯に。かつては単独の火山島だった和琴半島は、長い年月の間に土砂が堆積して岸と繋がり半島になったため、地熱が高く冬でも凍結しない場所のある不思議なスポットです。ふと横を見ると、上半身裸になり温泉に入っている人たちもいます。

 

「ちょっと降りてみようか」という吉田さんの掛け声のもと、カヌーを湖のほとりに着け、地面に手を触れてみると、ポカポカと暖かさが伝わってきます。

そして、地面を50cmほど掘ってみると、温泉が湧き出てきました。そこに吉田さんが用意して持ってきてくれた卵を入れ、散歩しながら待つこと10分。「わーっ! ゆで卵ができた!」と、親子3人で大喜び。卵を割って頬張る純さんも「美味しい!」と思わず笑顔に。

朝の屈斜路湖を満喫した1時間、すっかり自然に溶け込んだ3人の顔はワクワク感に満ちていました。

カヌーの後は、和琴半島を一周する約4kmのトレッキングコースへ。そして、森の案内人は自然解説者の金井秀明さん。

金井さんは、玉川大学・農学部技術指導員を今年の春に退職し、今は40年暮らす弟子屈の大自然の神秘について、訪れる人々に話をしています。

コバルトブルーの湖を望むトレッキングコースには、珍しい高山植物が花を咲かせていたり、トドマツの見事な純林があったり……。幹の周囲が15mにも及ぶカツラの巨木が枝を広げていたりと、まさに壮大なる自然の宝庫。

 

「これは美しい紫の花に惹かれて、手にとりたくなってしまうけれど毒性のあるエゾトリカブトという植物だから、触るのは禁物だよ」

「これはね」「あれはね……」と、時折ダジャレも盛り込みながら、一つ一つ立ち止まり解説をしてくれる金井さんのツアーは、普通に歩くと30分~40分のトレッキングコースが、1時間半を要します。

中でも、子ども達二人の心に響いたのが、自然の「生きる力」のお話。

「ノブキやヤブハギは、通る人の服にギザギザとしたトゲのような実をくっつけてそれが地に落ちることにより命を繋ぐんだよ」「オオカメのキは、赤い実の蜜が大好きな鳥たちがそれを運び、種をばらまいてくれるんだ」

「カツラの木はね、ひこばえと言って、脇芽が生えて木々が支え合うようにする特性があって、親木が倒れても子孫は長く生き延びるているんだよ……」

目を輝かせて金井さんの話を聞く子ども達は、「自然の力ってすごいな」とその神秘に驚いていました。

息が切れる純さんの背中を長男が力を振り絞り押しながら、トレッキングコース最後の峠を登っていくと、木々の間から垣間見えていた屈斜路湖の全貌を見下ろすオヤコツ地獄展望台に辿り着きます。

湖を見下ろしながら、14歳の長男くんがふと金井さんに語りかけました。「僕たちは、自然に支えられて生きているんだと思いました。こうして呼吸する酸素も、木々から生まれているから。だから、僕たちは自然を守っていかなくちゃ!」

それを聞いた金井さんが返した言葉もまた、印象的です。「そう、人間も自然の一部だからね」。

夕食を済ませた後は、摩周湖の星空観察ツアーへ。とはいえ、この日は満月の夜。その明るさに星は見ることはできません。

それでも、満月の明かりに映し出される摩周湖は幻想的。それに加え、「ほら、見て! 月の周りに大きな輪ができているよ」と子どもたち二人が指さすように、広い空にぽっかりと大きな満月が浮かび、その周りを光の輪が囲んでいる空が、とても神秘的でした。

今は、弟子屈も紅葉の時。さらに美しい自然と、そこに生きる人々の暖かさが心を癒してくれるはずです。週末、冬の入口の今、体験したことのない美しさと心の温かさに出会える場所に是非、親子で出かけてみてはいかがでしょうか。

~Vol.2に続く

撮影/BOCCO  スタイリスト/大碕ちほ  取材・文/河合由樹

<純さん>ジャケット¥47,300ニット¥26,400(ともにラコステ)<平くん>ジャケット¥17,600ハット¥5,280(ともにニューエラ)カットソー¥8,500(エルキュールギア)<樹里さん>ベスト¥28,600(エーグル)パーカ¥7,920キャップ¥3,520(ともにニューエラ)

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