低学年の娘が不登校に。シングルマザーの私がしたこと<後編>|我が家の不登校体験談③
前半に続き話を聞いたのは離婚シングルマザーのTさん。小学校に行けなくなった娘さんのために見つけた「居場所」は、小学校ではなかなかできない多様な学びが実現できる場所でした。適応指導教室でも民間フリースクールでもないその場所の存在は市内にありながら学校の先生たちにも知られていなかったそう。新たな場所に通い始めた娘さんは……?
お話を伺ったのは…
T.Nさん 33歳・団体職員/子ども・小2
区内にあるのに誰も知らない不登校児の「居場所」
──娘さんが通うようになったのはどんな場所ですか?
通っているのは、不登校児のために市が運営している居場所です。市内にはいわゆる適応指導教室もありますが、これとは別の施設です。市のホームページにも紹介がないようで、学校の先生すらその存在を知らないほどでした。いろいろと調べるうちに「こういう場所があるらしい」とわかったものの個人で申し込みはできないので、学校経由で紹介してもらうのに時間がかかりました。初夏には情報をキャッチしていたのに実際に通えるようになったのはその年の秋冬ごろです。
──ネット検索をしたり学校に相談しても見つからない場所って……?
我が家からは電車を使わないと行けないので最初のうちは私が付き添っていきました。有給を使ったり、もともと不登校になったときは子連れ出勤をしていたこともあり、施設の開所時間まで職場に子どもを連れて行って時間調整していました。実際に通ってみるとこの場所が娘には合っていたようでした。学校とは違ってとにかく自由なんです。大掃除をするとか最低限の決まりはあるもののやらなきゃいけないことはありません。勉強するしないも自由です。タブレットPCやゲームを持ち込んでもいいし、お菓子を持ってきてもいい。旅行のお土産を持ってきて配ったり、なんだか小さな会社みたいな雰囲気になっています(笑)。それぞれが持参したゲームをしたり、みんなでイントロクイズをしたりと思い思いに過ごしています。子ども同士なのでゲームの取り合いになったりしてけんかをするときもあるのですが、そういうときは相談してルールを作ったりと住民自治が徹底している様子です。
好きなことを自分のペースで好きなだけ学べる
──なんだか普通の小学校よりも楽しそうかもしれないですね……。
小学生から中学生まで他学年が集うなかでそれぞれやりたいことをしています。娘は同じ年代の女の子たちと一緒にぬいぐるみを使ってiPadで動画を撮り、映画を作っていました。みんなで企画をして外部の人も参加できるイベントを開催することもあり、在籍する学校の先生も遊びに来てくれました。ものづくりをするときは彼らの中で役割分担をしているようです。アイデアを出すのが得意な人、みんなの意見をまとめるのが得意な人、イラストが描ける人、文章を書くのが好きな人など、それぞれ得意分野を生かせるんです。それから、「職場体験」もあります。今回、小学生の女子たちは映画撮影でも使ったお気に入りのぬいぐるみのデザイナーさんに会いに行くことができました。おしゃれなオフィスでデザイナーも素敵なお姉さん。娘たちは将来こんなところで働きたいと憧れたようでした。デザイナーさんが教えてくれたのは、耐久性の高いデザインにするための工夫や中国の工場に発注するときのサンプルのやりとりなどの仕事の中身。普通の小学校の授業ではそんなところまでは習わないのでよい経験になったようです。コロナウイルスが蔓延する以前のことですが、自治体から感染症の専門家が来てパンデミックについて子どもたちにわかりやすく解説してくれたこともありました。娘は2年生ですが、漢字を書くのを学ぶペースは教室で過ごす子どもたちに比べゆっくりめです。そのかわり一人で本を読むのは大好きなので高学年で習う漢字も自然に読めるようになりました。今の居場所での体験で小学校の授業では習わないこともたくさん知っています。虫が葉っぱを食べるときいろんな場所からかじっていくような感じです。小学校に通っていたら、この場所から順番に食べなさいと言われるだろうけれど、バランスよくかじっていかなくても、ゆっくりと一枚の葉を消化していけばいいのかなと思うのです。平日はこの施設で過ごすことが多いですが、時々放課後の小学校に行き担任の先生とおしゃべりをすることも。施設に通う日も学校に行く日も出席日数にカウントされます。電車通学なので行きは私と一緒に家を出たり、ボランティアの人に付き添ってもらい、慣れてきてからは帰りは一人で帰ってくるようになりました。
中学校以降の進路は?
──今後の進路についてはどう考えていますか?
通っている施設には一つ我が家にとっては残念な点があって、公立小中学校に在籍している児童生徒向けのため、私立の学校に進学すると利用できないんです。たとえ、私立に通わせる経済的な余裕ができたとしても、いざ通いはじめて学校が合わないということもありますよね。公立私立問わず今はいろいろな選択肢があるので、N中※の資料を取り寄せたりしているのですが、どんな学校を選んだとしても娘に合う学校かどうかは通いはじめるまでわからない。それを考えると小学生から中学生まで通えていろいろなことを自由に学べる今の場所が、結局一番いいのかなとも感じています。娘は今の居場所が楽しいそうで、「夏場は暑いから休んだら?」などとこちらが言っても「行く!」といって出かけていくほどなんです。
※N中等部。学校法人角川ドワンゴ学園の通信制高校N高の関連校
取材・文/髙田翔子
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