原作を解釈して役作り。王子様のルックスに努力の裏付け【王子様の推しドコロ】
vol.14 中島瑞生さん
PROFILE
なかじま・みずき/1997年2月3日生まれ、東京都出身。身長180㎝、B型。小学4年生でバレエと出合い、その1年後、真島恵理バレエスタジオで本格的に始める。2012年、新国立劇場バレエ研修所に入所。予科生、本科生と学び2016年、新国立劇場バレエ団に入団。2021年には『白鳥の湖』ベンノ役、2022年に『不思議の国のアリス』白うさぎ役、『ジゼル』ぺザント、2023年に『ドン・キホーテ』のエスパーダ役と、ファースト・アーティストながら注目され、今回、世界初演となるこどものためのバレエ劇場2024『人魚姫』では王子役に抜擢!
日本で唯一、国立の劇場に所属するバレエ団である「新国立劇場バレエ団」。英国ロイヤルバレエ団のプリンシパルとして活躍した世界的バレリーナ・吉田 都さんが芸術監督を務め、数多くのレパートリーを持ちます。スターダンサーからフレッシュなダンサーまで非常に層の厚いバレエ団の中で、若手としてひと際注目を集めるのが中島瑞生さん。2016年の入団から8年目、こどものためのバレエ劇場2024『人魚姫』でついに主演を飾ります。
『ドン・キホーテ』のエスパーダ役 撮影/鹿摩隆司
インコにつられて始めたバレエ
舞台上でぱっと目を引く高身長ときれいな脚のライン、俳優顔負けの麗しいビジュアル。王子様を踊るために生まれてきたような中島さんがバレエに出合ったのは小学校4年生のころ。
「叔母がバレエスタジオを運営していて、体型が向いているからと勧められて体験したのがきっかけです。当時、僕はインコを飼いたくて、インコを飼ってもらえるという条件で個人レッスンを受けてみたのですが、同性がいない環境に馴染めずすぐに通うのをやめてしまいました。ですが1年後、将来のことを考える機会があり、バレエもひとつの選択肢だなと考えを改め、11歳から本格的に再開。小学生のころは多くの習い事をしていたんです。ピアノ、水泳、公文など……。決意しきれない夢もあって模索していたんですね」
中学生までは叔母・真島恵理氏に師事。2012年からは新国立劇場バレエ研究所へ。
「中学生になると本格的に学ぶために週5~6回のレッスン。もっと男性が多い環境で学びたいと思い始めたときに研修所の存在を知り、システムに魅かれて試験を受けました。4年間学んだ後、僕が魅かれる演目を数多く上演している新国立劇場バレエ団のオーディションを受け、今に至ります」
原作を読み込んで役作り
ファースト・アーティストながら2021年から主要な役を経験し、2023年には『ドン・キホーテ』のエスパーダ役に抜擢、その色気と気品のある踊りで注目が集まりました。色っぽい役は日本人ダンサーが不得意とする分野。どんな役作りをされたのでしょうか?
「僕はわりとのんびりしているので(笑)、エスパーダのような色っぽくてグイグイ行くような役とは正反対の性格。まず、過去の作品をかなりリサーチしました。研修所にいたときに、スペインの他の作品を踊る際にアーネスト・ヘミングウェイの『日はまた昇る』を読むことを勧められたことを思い出し再読。スペインの暮らしのイマジネーションを膨らましていきました。色っぽいけれど落ち着いた雰囲気を持ち合わせる、僕なりのエスパーダを踊ったつもりです」
ゆっくりと言葉を選びながら誠実にインタビューに受け答えをする中島さん。ご自身でおっしゃるとおり、穏やかな人柄ながら原作もしっかり読み込んで役を研究する文科系ダンサー。
「原作はあれば読みます。『マノン』はまだ踊ったことがありませんが、アントワーヌ・フランソワ・プレヴォーの小説『マノン・レスコー』を読んで惚れ込んでしまい、デグリュー役は目標の1つです。原作も好きですし、バレエの演出もダイナミックかつストーリーがドラマティックで惹かれます」
中島さんの踊りの魅力は高身長、長い手脚を生かしたダイナミックかつエレガントなラインの美しさ。どこか大らかさや優しさを感じられるのは誠実な人柄ゆえなのかもしれません。
『不思議の国のアリス』での白うさぎ役 撮影/長谷川清徳 ©“Alice’s Adventures in Wonderland©” by Christopher Wheeldon
「得意な役は機敏な役よりもエレガントな役回り。けれど今は、毎回初めての役をいただけるので、必死に役を研究し緊張しながら舞台に立っています。今まででいちばん自分に近かった役は『不思議の国のアリス』の白うさぎ。踊っていてしっくりきました(笑)」
踊る上で気をつけていることは?
「昔、研究所で先生に『あなたは見た目はボルゾイだけれど、ステップの幅はダックスフンドね』と言われたことがあって……それ以来、手脚のリーチを生かした踊り、また体のラインがきれいに見えるポジションを意識して踊るようにしています。僕は美しいものが好きなんです。バレエに魅了され続けているのも、ダンサーのラインの美しさから。研修生の頃からスヴェトラーナ・ザハロワさんやウリヤーナ・ロパートキナさんに影響されて美を追求してきました。今は王子様のようなラインの美しさ、テクニックどちらも持ち合わせたダンサーになれたらと練習の日々です。同世代のダンサーは励みにもなるので、時間があれば動画などを見て参考にしていて、今はアメリカン・バレエ・シアターのスタジオカンパニーで活躍されている三宅啄未さんの動画をよく見ています」
誰もが知る作品を自分らしい解釈で
着実に主要な役を経験し、7月にはついにこどものためのバレエ劇場2024『人魚姫』の王子様役を踊る。この作品は世界初演。ファンも楽しみにしていますが、どんな作品なのでしょうか?
「アンデルセンの童話をモチーフにした演劇性の高い作品です。誰もがなじみのあるストーリー、ドビュッシーやタイスなどの聞き覚えのある音楽、ロマンティックでありながら男性がトウシューズを履くおもしろさや新鮮さもあり、1時間40分があっという間に感じられます。バレエが好きな人はもちろん、初めて見る方にもおすすめの作品です」
中島さんは王子様をどんなアプローチで踊るのでしょうか。
「世界初演でお手本がないので、まずはアンデルセンの原作を読んで役作りをしています。人魚姫の王子様は若くてピュア。純粋すぎて、婚約者がいても人魚姫と恋に落ちることを悪いことだと感じていないんです。無垢で品格があり、そして少年っぽさを大事に自分らしい王子様を踊れたらと思っています。1幕のパ・ド・ドゥはロマンティック、2幕のパ・ド・ドゥはドラマティック。甘さと激しさを演じ分けながら踊るつもりです。『こどものためのバレエ劇場』ですが、ロマンティックなラブストーリーかつ、人魚姫が人間社会に足を踏み入れて体験するこの世の不条理などメッセージ性もある作品。映画を観るような感覚でぜひ観ていただきたいです」
こどものためのバレエ劇場2024『人魚姫』ビジュアル 米沢唯、速水渉悟
中島さんの姿を見られるのは……こどものためのバレエ劇場2024『人魚姫』新国立劇場 オペラハウス(2024年7月27日~30日)
アンデルセン童話『人魚姫』をモチーフにした世界初演の新作バレエ。演出・振付は新国立劇場で22年間ダンサーとして活躍した新進気鋭の振付家・貝川鐵夫氏。人間の世界に憧れた人魚姫の恋の喜び、悲しさ、世の不条理を描き、ドビュッシー、サティ、メンデルスゾーンなど19世紀に活躍した作曲家の音楽を多用し、美しく幻想的な世界に誘います。中島さんは、7月28日(日)13:00~、7月29日(月)16:30~(新国立劇場 オペラハウス)の回に王子様役で出演予定。詳しくはHP(https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/littlemermaid/)にてご確認ください。
取材・文/味澤彩子