「夫が好き」って胸を張れないVERY妻たちへ【脚本家・坂元裕二さん×監督・塚原あゆ子さん】
昨年のVERY12月号の企画「なぜだろう?『夫が好き』って胸を張れない」では「もう一度好きになりたいのにできない」「今更、どう接していいかわからない」という、夫婦の関係性に悩む声が多く寄せられました。ずっとこのまま、その結婚生活を続けていくの?自らに問い直すきっかけとなりそうな映画『ファーストキス 1ST KISS』が公開。脚本家・坂元裕二さんと監督・塚原あゆ子さんへのインタビューが叶いました。
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脚本家・坂元裕二さん×映画監督・塚原あゆ子さん
インタビュー
ドラマ『最高の離婚』『大豆田とわ子と三人の元夫』をはじめ、これまでにも夫婦を題材にした名作を生み出してきた坂元裕二さんによる脚本、映画『ラストマイル』やドラマ『海に眠るダイヤモンド』と数々のヒット作を手がける塚原あゆ子さんが監督という最強のタッグにも期待が高まる映画『ファーストキス 1ST KISS』。坂元さんが今回描いたのは、不仲だったはずの夫に“もう一度”恋をするラブストーリー。事故で夫・硯駈(松村北斗)を亡くした妻・硯カンナ(松たか子)が、あるトラブルがきっかけで過去へとタイムトラベル。ふたりが巡り会う前の若き日の夫に出会い、カンナは再びときめき、彼がいる未来を願う……。坂元さんに、ストーリーが生まれた背景をお聞きしました。
坂元 「夫婦に限らず、人と人が一緒に暮らしていると喧嘩をしたり、お互いに何かを諦めたり、ネガティブな感情を抱えながら生活してきた歴史があると思います。同時に“やり直せたらいいな”という想いもあるのでは。人間関係を修復する話を作りたい、と書きはじめました」
坂元さんとはじめての協働となる塚原さんは、脚本を読んだ感想をこう語ります。
塚原 「脚本の制作段階で何度かセッションさせていただく機会があり、お話の中から坂元さんが目指したいところを自分なりに探ったりするわけですが、坂元さんが最後にお書きになったのがラストシーン。それをいただいたときに“なるほど。夫婦の話だけど、それだけじゃないんだ”と、私のなかで物語がパーッと開けた感じがあって。すごい本に出会ってしまったぞ、と楽しみであると同時に緊張感も覚えました」
脚本の魅力といえば、やはり言葉。今作でも、思い当たる節のある、それでも目を瞑ってきた結婚生活のあれこれが、最大限のわかりみをもって言語化されています。
坂元 「夫婦は本来、そんなにハードルが高いものでも、複雑でもなかったのかなと思うんです。今は世の中のいろんな情報が入りすぎて、“これは怒らなきゃいけないことではないか”とむずかしく考えてしまったり、他と比べて批判的になったり。ちょっとした気遣いや想像力、素直な意思表示で何とかなる問題がおおごとになってしまっている気がするんですよね」
恋をしていたときは微笑ましく感じられたことが、結婚すると許せなくなる“なぜ?”。タイムトラベルによる時間軸の交差によって描き出す夫婦仲の温度差が語りかけるものは大きく、不仲で会話が一切ないにもかかわらず、つい息が合ってしまうキッチンでの動きなど、松たか子さんと松村北斗さんの絶妙な掛け合いが切ないまでに物語へと引き込みます。
塚原 「松さんと松村さんは、とにかくこの脚本が好き。それは私にとってすごく幸せなこと。台詞が言いづらいと困ることも一切なく、“ここは、どう言おうか?”と楽しそうにやりとりしている様子を“しめしめ”という感じで見ていました(笑)。行きのロープウェイのふたりの会話とかは、坂元ファンならみんな待っていただろうし、私も大好きな場面。カット割りしちゃいけないような、ふたりをそのままで見せるのが一番と思える台詞のやりとりが美しかったです」
作品のなかで印象的に差し込まれる場面のひとつが、玄関。夫の駈がつま先をトントンとして靴を履き、扉を開け出て行く後ろ姿には、見る人それぞれに受け取るメッセージがありそうです。
塚原 「坂元さんの脚本に“駈は靴べらを使わず、トントンして靴を履く”と書いてあり、私が駈という人物像を作っていくうえでの第一歩になりました。この人はいつも、背中を向けたまま玄関を出ていくんだなって」
坂元 「見送る、見送られる。夫婦にとって“いってらっしゃい”の風景は、どこか心に残るものだと思います。塚原さんはそのトントンとする足元や、日常の些細な仕草や場面を積み重ねていくことで夫婦の愛情を描いていく。すごくエンタメでありながら、これみよがしな撮り方をしない。それは彼女の美学でもあるのでしょうが、照れ屋さんでもあるのかなと」
塚原 「坂元さんも、きっと照れ屋さんですよね(笑)。だから、愛情を直接的でない表現で描かれているのかなって」
心の芯をズキンと突きながらもコミカルで、見落としていた“同じ屋根の下で共に暮らすことの奇跡”に気付かされる最高のラブストーリーは、照れ屋なおふたりの相乗効果によるものなのかもしれません。
塚原 「後悔との向き合いから始まり、“これからこうしたい”と実現に向かって動き出すストーリーは、希望だと思います。過去は変えられないけれど、例えば明日の朝ご飯を夫や家族やパートナーと一緒に食べるか食べないかは選ぶことができる。どっちを選んだとしても、映画を見た明日と見なかった明日で違っていくものがあれば、作り手として幸せです」
坂元 「約2時間の映画ですが、カンナと駈と15年間を一緒に過ごしてきたような時間の流れを感じていただけるのでは。見終えたあと、きっと誰かと語らいたくなる。愚痴もありつつ、最終的には笑顔で、前向きな気持ちになれる会話を楽しんでいただけると思います」
『ファーストキス 1ST KISS』
脚本/坂元裕二 監督/塚原あゆ子 出演/松たか子、松村北斗ほか



愛する人と歩む人生とは? 答えのない深くてシンプルな疑問について問いかける、心揺さぶるラブストーリー。2月7日より全国東宝系にて公開中。Instagram@1stkissmovie
YUJI SAKAMOTO
ドラマ『東京ラブストーリー』や映画『花束みたいな恋をした』、第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞受賞の映画『怪物』など、数々の名作を手がける。
AYUKO TSUKAHARA
ドラマ・映画監督。映画『ラストマイル』『グランメゾン・パリ』、ドラマ『最愛』『下剋上球児』をはじめ、ヒット作が続き、脚光を浴びる。
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撮影/須藤敬一 取材・文/櫻井裕美 編集/太田彩子
*VERY2025年3月号「坂元裕二さん・塚原あゆ子さんインタビュー」より。
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