実はVERY読者!品川区長・森澤恭子さん「子育てを“社会化”していきたい」

品川区長の森澤恭子さん

学用品や制服の無償化、朝の見守り事業に朝食提供……スピーディーに子育て政策を実施していくスタイルがママたちの間でも話題になっている森澤恭子・品川区長。リーダーになってあらためて「政治は生活そのもの」だと強く感じるという森澤さんに、お話を伺いました。

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品川区長・森澤恭子さんインタビュー
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「子育ての社会化」は進むはず

区役所屋上の芝生広場でステップに乗る品川区長・森澤恭子さん

新幹線も見える区役所屋上には、芝生とちょっとした遊びスペースが。「ステップに上ってみてほしい」という編集部のリクエストに快く応じてくださいました。

――VERY読者でもいらっしゃったという森澤さんが、どのように政治の道に導かれたのでしょうか?
正社員として働いていた私は、夫の海外転職を機に専業主婦になりました。帰国後、下の子が生後7カ月のころ再就職しようとしたのですが、長時間労働前提の職場ばかりでなかなか働ける場所も見つからず、保育園にも入れず。それでもどうしても働きたくて、調べて調べてやっと見つけたのは、ビルの一角にある認可外のベビールーム。子どもと一駅乗ってあずけてから職場に通った日々は、今も鮮明に残っています。

――森澤さんの上のお子さんは現在中学生。今も大変ですが当時はもっと、預けて働くことは容易ではなかったのでは。
そうですね。子育て中の女性や家庭が、ここまでしないと働けないのだろうか、そもそも社会がこういう状況を支えられていないからじゃないか。制度の隙間にいる時の孤独感や、声が届かないと感じた悔しさが、私を動かす原動力になったのだと思います。政治の現場に女性が少ないから女性の声がまだまだ届いていないように感じ、一念発起し、そこから小池百合子さんの政治塾に入りました。職場の同僚からも「落ちても、失うものはないじゃない?」と後押しされて、確かに落選したらまた違う仕事を探せばいい、という気持ちで都議選に立候補しました。

――仕事と子育てをしながらの政治活動だったのでしょうか。
当時ベンチャー企業に勤めながらだったので、職場に交渉し融通をきかせてもらいました。朝街頭演説に立ち、駅のロッカーにスピーカーを預けて出社したことも(笑)。今は様々な人が立候補しやすいよう、立候補休暇制度を導入する企業も増えてきましたよね。

品川区長の役職のプレート

――そして2022年に、品川区長に。学用品、修学旅行や中学校の制服無償化、さらに朝の児童の居場所確保事業では朝食を提供することも発表されたりと、子育て政策において一歩も二歩もリードされていて、かつスピード感もすごいと編集部でも注目の的です。
任期は4年なので年度に分けてじっくりやったら?と言われることもあるのですが、日々刻々と世の中の状況は変わりますし、今やるべきことをすぐやっていきたい。区長になって最初に手がけた一つが、「見守りおむつ定期便」というゼロ歳児家庭の見守り支援でした。この施策は、おむつなどの支援グッズを、同じ支援員さんが継続して家庭に直接届けるスタイル。「前も来てくれた人だ」と思えることで、ほんの短い会話でも安心して話せる関係が生まれ、「あの後、夜泣きがひどくて…」なんて自然に話せたりする。そんな小さな変化が、子育て中の親の心を支えるのではと思うのです。本当に悩んでいる親御さんは、なかなか自ら行政に助けを求められないこともある。行政が直接リーチすることがすごく大事だと思っています。「大人と話すのが久しぶり」と涙ぐむお母さんもいらっしゃるそうです。ちょっとした雑談が、救いになる。そんなふうに行政が子どもと子育てを見守る力を持てたらいいですよね。

――朝食の提供のニュースを見たときは、行政がそこまでやってくれるのか!と感じました。仕事などのために朝早く子どもを登校させなければいけない親も、朝食を出せない親もいる中で、見守り事業は非常に救いです。ただいっぽうで「そこまでやるべきなのか」という声もありそうですが…?
はい、朝食支援や学童のお弁当支援などに対しては「それは家庭でやるべきこと」「親が責任を持つべき」といった声も確かにいただきました。でも私は、子育てを「社会化」したい。むしろこれまでが足りなかった。ここまで少子化が進行し、子育てが「孤立」や「自己責任」になってしまっていること自体が、今の社会の歪みを表しているのではないでしょうか。行政はむしろ、しっかり踏み込んでいかなければならないと感じています。

品川区長・森澤恭子さん

――子育てしていると、制度的にも、また街を歩いていても子連れは歓迎されないと感じてしまうことも多いです。
そうですよね。私自身も、スーパーで子どもが騒いでしまった時に、見知らぬ人に「うるさい!」と耳元で怒鳴られて外で泣いたことがありました。今でもあの時の気持ちは忘れられません。大切なのは、すべての人に選択肢を提供すること。学童でのお弁当支援も、持参したい家庭はそうすればいいし、お弁当を外注したい家庭にはその選択肢を。どちらかを正解にするのではなく、それぞれの家庭の事情に応じて選べる社会であればいいですし、それは行政が整えていけることです。そのために、修学旅行や制服の無償化などどんな人も利用する可能性がある施策は所得制限をなくしています。所得の高い人はそれだけ税金を納めていますから。納めただけの納得感がない状況だと、子育てを歓迎されていないと感じてしまいますよね。子育てが応援されているというメッセージを行政から込めることはすごく大切だと思っています。このパッケージで「みんなあなたを見ているよ」「あなたは一人じゃないよ」「どんな人の子育ても応援しています」と伝えたい。行政が寄り添うことで、子育てが少しでも楽になるように、そして「子育ての社会化」をはかっていければいいなと思います。

――行政はお互いに他自治体の動向を非常に気にしていると思うので、品川区が先んじてくださることは他地域の住民にとっても大きな意味がありそうです。
はい、常に意識しているのは「品川区だけがよくなればいい」ということではなく、ここで作った施策が「品川でできるならうちでもやろう」と、他の自治体や全国への導引力になることを期待しています。実際、品川区でも他区ができていることはどうやって行っているのか調べることも多くあります。お互いに動くことで、他の自治体にも波が伝わっていく。それが地域の底上げになればと思っています。

デスクに向かって座る品川区長・森澤恭子さん

――行政の女性管理職の割合は低いことについてはいかがでしょうか。制度設計にも女性の声が届きにくい気がしています。
そこは品川区でもまだ課題に感じています。そんな思いもあり、教育長は女性を任命しました。他の審議会や委員会でも気づけば男性が長になってしまうことが多いので、そこは意識して男女半々にしないとと感じます。

――子育てや仕事に忙しい中で、行政や議会へアクセスするのは簡単ではありませんが、私たちにできることはありますか。
どこの自治体でも「区民の声」「市民の声」といったフォームがあり、声を直接首長に届ける仕組みがあります。「この制度、こうだったらもっと使いやすいのに」と思ったら、ほんのちょっとしたことでまったく構わないので、ぜひ届けてほしいんです。制度を作る側も、すべてに気づけているわけではありません。むしろ当事者の気づきによって、制度は進化していきます。「こんなことを感じるのは、自分だけかもしれない」と遠慮しないでいただきたいな、と。同じような悩みを抱えている人は必ずいるはず。声を上げることが、仕組みの改善につながります

――一つのフォーム投稿が、誰かの暮らしを変えるかもしれないですよね。
そうです。政治というとなんとなく敬遠されがちですが、政治とは生活そのものですから。「難しそう」「誰がやっても変わらない」「関係ない」と思われることも多い。でも私は自分が政治家になって、そして今、区長として日々政策を動かしている中で、本当に「政治は、生活そのものだ」と強く思います。だからこそ、現役の子育て世代の声がもっと反映される政治が必要だと感じています。まずは選挙に行くことが大事。そして「こうだったらいいな」と思うことがあれば、「区民の声」を出す。現役の子育て世代の議員さんに声をかけて議会に届けてもらうのもいいと思います。もしくは私のように、課題に気づいたら、自分で立候補するのもありですよね。私も、いちVERY読者でしたから! ハードルが高く感じるかもしれませんが、みなさんができることを少しずつやることで、世の中は変えていけないとあらためて言いたいです。

森澤恭子(品川区長)
1978年生まれ、神奈川県出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日本テレビで報道局記者に。その後森ビル株式会社などを経て、夫の海外赴任に帯同しシンガポールへ。帰国後再就職ののち、2017年東京都議会議員選挙に出馬しトップ当選。2期務めたのち、2022年より品川区長。小学生、中学生の2児の母。

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撮影/須藤敬一 ヘア・メイク/川村友子 取材・文/有馬美穂 編集/中台麻理恵
*VERY2025年8月号「品川区長インタビュー・もっと子育て政策について語ろう」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。