ジェーン・スーさん「異業種転職と失恋と引っ越しではじまったバタバタの31歳」それでもよかったこと
新刊エッセイ『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』も話題のジェーン・スーさん。ラジオパーソナリティ、作家など多方面で活躍するスーさんも、過去には大失恋、退職で落ち込んだどん底時代が……。「人生の転機だった」というご自身の30代について伺いました。
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失恋で25キロ減。とことん落ち込んだ30代の始まり
──今回のエッセイも、内容盛りだくさん! 特に、スーさんの元カレをめぐるエピソードは、海外ドラマのような展開に驚き。「人生ってこんなこともあるんだな」と感じさせるものです。ご自身の30代は波乱万丈だったようですが……?
31歳で異業種に転職したばかりの頃、同棲していた当時の恋人に振られました。ショックで体重が25キロもダウンしました。パートナーを失い、住む家も仕事も変わり、まさに完全リセットのような状態でした。ただ、あのときにガッツリ落ち込むことができてよかったと思っています。「これくらいたいしたことではない」と思ってやり過ごしてしまうのは、あまり得策ではないと思っているんです。一度しっかり落ち込んで、自分の気持ちに向き合ったほうがいい。もしも今、落ち込んでいる人がいたとしたら、「そんなに落ち込まなくていいよ」ではなく「よしよし。その調子!」って声をかけてあげたいくらいです。そして、つらいときに意識してほしいのは、自分の受け止め方です。たとえば、失恋したときは、相手への恨みつらみでいっぱいになるかもしれませんが、大事なのは「私がどう感じたか」。相手への不満だけでなく「私はこういうことで傷ついていた」と自分の感情に向き合っておくと、時間はかかってもちゃんと立ち直ることができると思います。
「今、自分がやりたいこと」が思い浮かぶかどうか
──VERY世代は子どもや家族のことでも悩みを抱えがちです。自分の気持ちにじっくり向き合う時間や心の余裕はなかなか取りづらいかもしれませんね。
そうですよね。だからこそ、できる限り「私」自身の気持ちを大事にする時間を作ってほしいです。40〜50代を対象にした講演会に登壇することがよくあるのですが、参加者に「自分の好きな食べものは?」と聞くと、答えられない人が少なくないんです。夫の好きなもの、子どもの好きなものはすぐ出てくるのに……。家庭を持つと、女性はどうしても自分以外の人のことにリソースを割かなくてはならない時間が増える。でも絶対に「私」は手放さないでほしい。自分が今、食べたいものや行きたい場所を考えるのはその第一歩。「母」「妻」「有名企業勤務」などの肩書や役割が自分の価値につながった時代は過ぎ、これからは「あなたはどう思うの?」と問われたとき、自分の言葉で答えられる人であるかどうかが重要だと思っています。
──スーさんご自身の30代当時を振り返って、やっておくといいと思うことはありますか?
振り返ってみると、30代のうちに、いろいろ失敗したり、「無理かも」と思うことも尻込みせずにやってみたりすることが大事でした。キツめの柔軟運動で体の可動域を広げるのに近い感じです。実力以上のことをしなければと焦る必要はないけれど、「これくらいでいいや」とあきらめずに、今、自分ができる範囲の全力を出してみるのって大事だと思います。30代の人たちに伝えたいのは、「もっとはちゃめちゃでいいよ」ということ。そつなく物事をこなしてしまう人が多いですが、30代をうまいこと乗り切ったからといって、40代以降が盤石であるとは限りません。むしろ間違いや失敗がないようにしようとガチガチに準備しすぎると、予想外のことが起きたときに対応しきれなくなる。人生って本当に思いもよらないことが起こるんですよ! エッセイにも書きましたが、激ヤセの原因となり、一時は顔も見たくないと思っていた元彼と50代で再会することになるなど、まだまだ何が起きるかわかりません。
流れに乗っていけば、あるべき場所にたどり着くはず
──「いつか時が解決してくれるよ」と言われても悩みの渦中にいる際はなかなかピンとこないものですが、スーさんの新刊を読むと、年月を重ねて変化することや解決する悩みもあるんだなと感じます。
この歳になったからこそ言えるのは、「自然な流れに乗っていけば、多少つまずいても人はあるべきところにたどり着く」ということ。私は35歳で会社員を辞め、家業を手伝うため実家に戻りましたが、最初はまったくうまくいきませんでした。でも、私が「ジェーン・スー」として今の仕事ができるようになったのは、失恋やこの経験があったからこそ。会社員のままだったら、ラジオやエッセイの仕事をしてみませんか? という誘いに乗ることはできなかったと思います。いろいろな選択肢があるなかで、どちらの方向に進んでいけばいいのか迷うことはあると思いますが、私自身はどうしたいのか耳を澄ませて、自分の足で歩む訓練をしておけば、風が吹いてきたときに「こっちだ」と流れに乗ることができると思います。そのために大事なのは、他人からの評価に関係なく、自分はどんな状態が心地よくて、何が不快なのかをちゃんと理解しておくこと。「夫や友人がこう言っていたから」など、誰かに動機や答えを委ねてしまうと、結局、自分の軸がどんどんズレていってしまう気がします。覚えておいてほしいのは周囲への「愛」と「I(私)」を手放さないこと。他者をちゃんと愛しながら、自分への愛も忘れない。この両方を大事にすることが、これからの時代を生きるためのコアトレーニングだと思います。
PROFILE
ジェーン・スーさん
1973 年、東京生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBS ラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」、「となりの雑談」のMCを務める。2015 年、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で、第31 回講談社エッセイ賞を受賞。『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮文庫)、『ひとまず上出来』(文春文庫)、『きれいになりたい気がしてきた』(光文社)、『へこたれてなんかいられない』(中央公論新社)、『介護未満の父に起きたこと』(新潮新書)など著書多数。
『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)

「加齢も見た目も思ってるほど悪くない」。自己受容のヒント満載なエッセイ。心の中や世の中に対するもやもやを言語化し多くの支持を集める著者が、「自分らしく生きること、自分を愛して生きること」の一環として美容やライフスタイルを綴ります。誰にでも起こる心身の不具合やエイジズムを乗りこなすために、自分の手で自分が気に入る生き方をどう求める? 視界がパッと晴れてくる爽快感と、一歩踏み出す勇気が得られます。美容月刊誌『美ST』の連載をまとめた第2弾。
取材・文/樋口可奈子 撮影/はぎひさこ ヘア・メーク/藤原リカ(Three PEACE) スタイリング/近藤和貴子
カーディガン¥51,700〈ソブ〉シャツ¥35,200〈ダブルスタンダードクロージング〉(ともにフィルム)パンツ¥15,400(ノーク)ピアス¥27,500リング¥57,200リング¥81,400(すべてアガット)バングル¥33,000(ヴァンドームブティック/ヴァンドームブティック 大丸東京店)ローファー¥27,940(ランバン オンブルー/モーダ・クレア)ソックスご本人私物
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